散漫に書いてて収拾がつかないので、引退ネタを一気にまとめてみました。
あっちこっち切ったり貼ったり。
ううう、これオフの前の編集作業と一緒だ。
毎回ムパラの前にはこんな感じで思い付きを書き散らしては切り張りしておりますです。
「普通の生活をしろ」
と別れ際にサムは言い残した。
その言葉からディーンが最初に思い浮かべたのはリサの顔だったが、しばらく車を走らせたあと、結局ディーンは別の町へ向かった。普通普通と自分が思ったところで、終末を避けただけでルシファー以外の悪魔も天使もその辺にいることに変わりはない。
自分が近づけば、リサとベンにろくでもない危険をもちこむようなものだ。
ディーンは自分がハンターでなかったら、その日暮らしのろくでなしになるだろうと思っていた。それが多分、ディーンの「普通」だ。
毎日なんの意義も感じずに働き、狭い部屋に戻って眠る。
いっそ酒に溺れて考えるのを止めたかったが、酒や女遊びは命がけで魔物と戦う見返りのような気がしていたので止めた。
眠るだけの夜はとてつもなく長かった。
終末の名残で、町の中には魔物の話をする連中もたまにいた。
例えば店のカウンターで店長がなじみ客に良く効くお守りの作り方を教えてやっていたり、どこぞの教会に行けば聖水が手に入ると話していたりする。
もし明らかな間違いがあったらディーンも口を挟まずにいられなかっただろうが、ごく初歩的な防御に関する話ばかりだったし、差し迫った危険や犠牲者がでているわけでもなかった。
ディーンは誰にも新しい電話番号を教えていなかったが、ハンターたちから時たま連絡が入っても驚きはしなかった。人探しが得意な奴は結構いるものだ。
そんなときディーンはカード履歴やGPSなどを追って捜し物をするのが得意だった弟を思い出して息苦しくなる。ハンターの用件は大抵手を貸してくれという頼み事だったが、ディーンは相手にしなかった。
「俺は辞めたんだ。かまうな」
店でそんな話をしていると、周囲から視線を向けられることもある。ルシファーの名前などを露骨に出すことは無かったが、何となくディーンがハンターであったことは察せられているようだった。
・・・
しくじった。
路地の壁に倒れ込みながら、ディーンは呻いた。
引退したハンターはよっぽど用心しないと無事に過ごせない。現役の間に知性のある化け物の恨みを買っていたらさらにだ。
分かっていたはずなのに用心を怠った。悪魔と天使を避けることばかり考えていたせいだ。
ヴァンパイアに噛み裂かれた首元からは血が流れ続けている。びっしょりと右半身が濡れているから結構な出血だろう。
このままだと危ないな。ディーンは荒い息をつきながらそこまで考えて少し笑った。考えようによっては悪くない。くそつまらない「普通の生活」が早めに終わる。
だがそう思ったところで脇腹を蹴られ、倒れたところに口元に何かを押し付けられた。口の中に垂れてくる液体がヴァンパイアの血かもしれないと思いつき、横を向いて吐きだそうとするがすかさず足でひっくり返される。肩を踏まれて固定され、喉の奥に流れ落ちてくる熱を感じてディーンはもがいた。
「ようこそこちら側へ」
嘲笑うような声が頭上から聞こえる。
冗談じゃねえ。
起き上がろうとするディーンをそのまま放置して、化け物の気配は消える。喉に感じていた液体は既に無い。
畜生。
サムを失ってから全てがぼんやりしていた世界で、久しぶりに激しい感情だった。
人目を避けながら部屋に帰りついたディーンは、がんがん痛む頭を抱えながら鏡を覗き込む。そっと触れてみた首は、予想通り食いちぎられた傷跡が塞がっている。
洗面台にしがみつき、深々とため息をついた。
変わってしまった。
化け物になった。
情けないことに手が震えた。息が震え、涙がだらしなく出そうになるのを必死でこらえる。
これから先やることは一つだ。ハンターならやり遂げる義務がある。
ヴァンパイアを殺すには首を落とすこと。分かっているが一人で実行するのは難しかった。
狩に誘ってきたハンターの履歴が携帯に残っていたので、呼びつけようとかけてみたがつながらないので諦めた。
セルフ式のギロチンが欲しいとディーンは切実に思ったが、もちろんそんなものがあるわけは無かった。
「普通の生活」と「セルフ斬首」の接点は難しい。
創意工夫している余地はなかったので、ディーンは手っ取り早くショットガンを使うことにした。それなら手元にある。
ディーンは次第にこみ上げてくる喉の渇きに震えながらパソコンを開き、他人を巻き込む心配の無い場所を探した。
ディーンが選んだのは休業中の工場だった。ここならショットガンの音がしても誰も来ないだろうし、発見される頃には身元も分からなくなっているだろう。
座りこんで弾を装填する。
安全装置を外しながら、ルシファーもろとも地獄の穴に落ちたサムのことを考えた。
自分が今死んで、魂はどこに行くのだろう。母のいる天国に行けるわけはないが、もしも前とは違った形で地獄に行くのなら、サムのいる檻に辿りつきたい。もう一度サムに会いたい。
下の階で物音がして、ディーンは少し身構えた。耳を澄ますが、それきり気配はない。鼠かなにかだと思うことにして、銃口を咥えた。
痛みは一瞬だ。頭を吹き飛ばせば、首を斬ったのと実質変わらない。考えうる最悪の事態はそれでも生き残ってしまうことだが、これは考えても仕方がなかった。できることをするしかない。また音がする。今度ははっきり足音だとわかった。急がないとまずい。
引き金に指をかけた。足音が近づいてくる。
銃声が響く。
頭に衝撃が走り、世界は暗転した。
どのくらい意識が飛んでいたか不明だが、気が付くと口をこじ開けられて、何か臭くてどろりとしたものを流しこまれていた。
太い腕がディーンの背中を抱えて抱き起し、飲みこむように促す。
「飲むんだ、ディーン」
懐かしい声に首を捩じる。少し髪が伸びていたが、サムの顔がそこにあった。
「サミー!?」
心臓が跳ね上がる。話したくて口を開けたが、声を出す前に臭い液体を流しこまれた。
お前、なんで。
尋ねようとする前に黒いヘドロのような液体が口からあふれ出す。身体中を走る激痛と内臓が体内から裏返されるような感覚に身体がのたうった。
「大丈夫だディーン、まだ人間の血を飲んでなければ戻れる」
ディーンの受けた衝撃と、どこかずれて平らなサムの声がする。
何故サムが。なぜ今ここに。
思考は痛みに追いやられて散った。ディーンは引き裂くような痛みに悶えながら、身体に回された太い腕の体温だけを感じようとした。
気が付くと、異様な感覚は消えていた。
半径数百メートルの心臓の鼓動も聞こえず、喉の渇きも無い。
そして自分を抱える腕の感覚は変わらずそこにあった。ゆっくりと振り返るとチェック柄のシャツが見え、こちらをじっと見つめるサムの顔があった。
サムはディーンの状態が少し落ち着くのを見計らってから抱え上げ、インパラに運び込んだ。なぜかサムはディーンの部屋を知っていて、ディーンは酔っ払いよろしく、サムに抱えられて数時間前に二度と戻らないと思っていた狭い小部屋のベッドに転がった。
「大丈夫?」
「ヴァンパイアにしてはな」
ぐるぐる回る視界が少し落ち着くのを待って上体を起こす。
「……サム」
「なに」
「お前、帰ってきたのか」
「うん」
信じられないことにサムは地獄の穴に落ちた直後に何故か地上に戻り、そのまま一年以上過ごしていたという。
「ディーンには普通に暮らせって言ったからさ。時々様子だけ見てたんだ」
しらりとした顔で言うサムはどこか以前と違う。
「お前、なんか変だぞ」
そう言うと、サムは頷いた。
「そうみたいだ。自分だと分からないんだけど。サミュエルにもそう言われた」
「サミュエルって誰だ」
「マムの父親。僕と同じように何故か生き返ったから一緒に狩をしてたんだけど、ディーンを治す薬を教えてやるから、これからは別行動にしようって」
「………つまり、その爺とは、今は縁が切れたってことなんだな」
「そうなるね」
「…………」
ディーンが知っているサミュエルだとすればそもそも数十年前に死体になっている。十中八九何かの魔物なのだが、縁が切れたというのならとりあえず置いておくことにした。
サムはディーンの目の前で聖水を飲んでみせ、銀のナイフで腕を切り、さあこれでわかっただろうと言わんばかりの顔をしている。
ディーンは少し途方にくれ、サムを見つめた。当の本人は自分の言い分を並べたてた後、しらりとした顔でこちらを見ている。
「納得した?」
そう言ってちょっと肩をすくめたサムが、そのまま手を広げている。
なんだよ、と言おうとして気が付いたディーンは言葉を飲みこみ、山のような疑問を横においてその肩に腕を回して抱きしめた。
自分よりでかくなった上に、どこかおかしい。
だけど当然のように自分からのハグを待っている顔は、確かに昔から知っている弟のものだった。
その後サムは結局ディーンの部屋に居座った。
「僕も引退する」
「…そりゃいいけどな」
祖父だという男は死人返りのくせになぜか立派な本拠地を持っていたというが、サムは、ほとんど現金を持っていなかった。偽造カードを使わないようにすると、部屋を借りなおすような余裕は無く、ディーンはマットレスを一枚買った。道理で言えば当然サムがマットレスに寝るところだが、なぜか毎晩ベッドの所有権を争うことになる。
「冗談じゃねえぞ」
住環境の悪化にディーンはブツブツ言ったが、ダイナーの親父にはなぜか「急に元気になったな」と笑われた。ディーンの後からサムが来ると、勝手に何か納得したような顔をして、パンケーキを一皿奢ってくれた。
「どうして戻ってこれたか分からないんだ。穴に落ちて、気が付いたらどこかの草っぱらに倒れてた」
その後なんど聞いてもサムが何をどうやって戻れたかは分からなかったが、ディーンはやがてこだわるのを諦めた。
永久に焼かれる予定だったのが地獄の檻から還ってこれたのだ。頭を打ったか何のショックか分からないが、多少不具合が出ても仕方がないのかもしれない。
二人で暮らし出してしばらくした後、ディーンがそう言うとサムはじっとディーンを見つめた。
「本当にそう思う?」
「ああ」
「性格が変わっても、僕が戻ってきて嬉しい?」
「当たり前だ」
でかくて生意気で悪魔の血を飲んでいてルシファーの器で、予知や悪魔祓いの超能力が使える弟だったが、そこにちょっと思考回路がロボットっぽくなってむかつく点が増えただけだ。
「そういえば超能力と予知は無くなったみたいだよ。ルシファーに吸い取られたのかも」
サムがけろりとした顔でそう言ったので、ディーンは思わず目の前の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「やったじゃねえか。それなら逆に差し引きでプラスだ」
「なるほど」
笑い顔が可愛くなくなったのは残念だが、無表情でも抱き付いてくるということはロボなりに嬉しいのだろう。
狭い部屋ででかい弟の背を抱きながら、ディーンはもう少し稼げる仕事に就いて、早く広い部屋に引っ越そうと考え始めていた。
終わる。
書き直しても今一つポイントがぼけますが、まあバラバラ状態よりいいや。
重大ポイントサミちゃんの魂をどーすんだ問題については、そのうちに事情にきづき、二
人してなんとか取り返そうと励むことでしょう。
狩をしなければロボの非情さもめだたないんじゃないかな…←淡い期待
よし、すっきりキリつけたので次のネタいくぞー!!