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ノックの27日目を書きかけなんですが、今日は兄貴の誕生日なのでちょっと横道にそれて兄誕です。
どーしようかなーと思ったけど「静かな生活」後日で。三十路後引退してくっついた兄弟。
「なんだよ、デートか」
「ええまあ」
答えながら自分の口がにやけたのがわかり、同僚は肩をすくめる。
「浮かれるのはいいが、手は止めるなよ」
「もちろん」
今日はディーンの誕生日で、仕事の後に待ち合わせをしている。
生まれてこのかた毎年のことではあるのだが、今年は意味が違う。兄弟としてではなく、パートナーとしての日だ。
パートナー
恋人
伴侶?
資料のチェックをしながら、今の自分達の関係はなんというのか考える。
兄の誕生日だったら、近所にあるばかでかいチーズバーガーを出す店で腹ごしらえをした後映画か美人のショーのある店にでも行き、さらにバーに繰り出して…とあっという間にプランができる。プレゼントは錆取りスプレーだ(この間無くなったと言っていたから)。
だが、恋人として初めて過ごす誕生日はそれでいいのか。
美人のショーだけ抜かすという手もあるが、錆取りスプレーは自分的に却下だ。
「おいサム。午後の資料は」
「これです」
しかめっ面で催促しに来た上司に、プリントアウトしたファイルを渡す。ざっと中を見た相手が
「なんだ、できてるのか」
と呟いた。
できているとも。
サムはここぞとばかりに澄ました顔で頷く。実際のところ訴訟の経緯をまとめるのは簡単なのだ。揺るがせない事実も資料もあるのだから。
だが、30年以上兄弟だった相手と恋人として初めて迎える日の過ごし方、なんて前例も判例も無いのだから難問だ。
弁護士業務に関われる今の仕事はサムにとって大切だったが、今日ばかりは私用が優先だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『そろそろ上がれそう?』
定時近くにサムからテキストが入り、ディーンは短く『OK』の返信を打った。
この年になると誕生日で特に嬉しいこともないが、夜はサムと出かけることになっている。
(なにするわけでもないけどな)
あまり考えるのは止めておこう、とディーンは返信を終えた携帯を閉じてデニムのポケットに突っ込む。
弟と二人で過ごす誕生日は人生ですでに何十回だし、恋人に祝ってもらった年もある。
しかしサムがその両方を兼ねてというのは今回初だ。
サムは特に口には出さなかったが家に散らばる雑誌やフリーペーパー、ネットの閲覧履歴などから並々ならぬ気合というか執念じみたものを感じている。実はイベント好きだったらしい。
今も昔もブラコンの自覚はある。サムが祝ってくれるのは単純にうれしい。
しかし一緒に家を出る直前にふとキスをしてきて、
「考えてみたら今日って休みを取ればよかったよね」
などと大真面目な顔で言いきる物体と、何をしてどう過ごせばいいのか良く分からない。
(…まあ、そんなこと考えてると、それこそ悪魔でも出そうだよな)
思いついたら実にありそうな気がしてきた。
そう、そうだとも。
イベントに夢中になる弟ともども、悪魔どもに付け込まれないように防御を考えておいた方がいい。
ディーンは今日車に積んであるアイテムでどの程度の対策ができるかと思い浮かべる。
縁起でもないが、未知の領域よりはよほど慣れた思考だった。
気合が入りすぎたサムも、悪魔防御に脳みそが逃避したディーンも、結局ノープランのままアフターファイブを迎えてしまった。
ぶらぶらと歩きながら適当な店で夕食を取り、アルコールは家に帰ってからということにする。
「なにかつまみ買って行こうよ」
「おう」
店に入るとサムはカートを押し、ぽんぽんと商品を入れていく。ディーンも横をぶらぶらと歩いていたが、サムが適当に放り込んでいるつまみや酒類が、明らかに二人のいつもの水準より高い物であるのが分かってしまって、なんだかむずむずした。
サムの方も大変だった。
終業直前に電話が入って少し遅れたサムが待ち合わせ場所に着くと、先に着いたディーンが車に凭れて待っていた。
声をかけようと思ったが、黒っぽい上着にマフラーを巻いた姿を思わず数秒見つめてしまう。ダークブロンドが外灯に透けて金色にみえる。本当に昔から我が兄ながら容姿はいいのだ。
近づくと顔を上げてサムに気付き、小さく笑う。
その顔が長年見慣れた表情と何となく違って、サムは公衆の駐車場であるのに駆け寄って滅茶苦茶に抱きすくめたくなってしまった。
今もカートの隣を歩くディーンの表情は険が無くてきれいだ。それがもしかしたら自分との新しい関係故なのだろうかと思うと、サムは胸の奥がむずむずするような満足感を覚えた。
・・・・
なんか時間切れなんでこんなもんで。
基本的に家飲みの二人でしょう。
静かな生活はお互い時々うっかり相手をガン見してしまって、お互い自分のことを「気持ち悪いことをしてしまった」とか思っていそうです。
半端ですが祝う気持ちが大事ということで。
ハッピーバースデーディーン!