目を開けたディーンは、自分がごみの落ちた路地に相変わらず転がっていることを確認した。べったりと流れた血はごわごわと固まり、時間の経過を教えていた。そっと手を持ち上げて首に触れてみる。
すると食いちぎられた傷が塞がっていることが手触りでわかり、それが意味することに震えた。
どうする?
どうする?
行きつく先は明白だ。やることは分かりきっている。ハンターなら。
それでも身体はだらしなく地面に倒れたままがくがくと震え、情けなく涙が顎を伝った。
幸か不幸か、辺りは暗い上にディーンがいる路地の周辺は人通りが少なくて、血だまりに倒れているディーンを見咎める者もいない。
やがて嗚咽の波が過ぎ、ディーンは息をつくと壁に手をつきながら立ち上がった。
ヴァンパイアを倒すには首を落とす。
だが、自分で自分の首を落とすのはなかなか難しい。
昔見た映画で、顔が蠅になった科学者が自分の頭をプレス機でつぶしていたなと思い、だがあれは他人の手を借りたんだったと思いなおす。
散弾銃で頭を吹き飛ばせば事足りるだろうが、生憎と武器は全て捨ててしまった。色々と間が抜けている。
だけど、ハンターの最後はそんなものかもしれない。ヒーローのように死ねるなんて思う方が馬鹿だ。
幸いというか、一回で死ななければ何度でも繰り返せばいい。
歩き出したところで携帯が鳴った。
取り出してみるとサムだ。
こんな時に。
まず思ったのはそれだ。
だが、本物のサムであれ化け物であれ、一人きりで死んでいかなくていいと思うと、少し気分がましだった。
「なんだ」
平静な声を出したつもりだったが、我ながら少し掠れている。
『今日これから行くよ。準備できただろ』
言われて部屋に用意した聖水とナイフを思いだす。弟が本物か偽物かと思っていた今朝までが酷く遠い。
「来るな」
『なんで』
端的に言うと、同じく短く返される。
「用事がある」
こっちにきて自分の首を落とせと言うのはさすがに止めておいた。せっかく地獄から生きて帰ってきた弟にそれはあんまりだろう。
それから、もしも本物のサムだったら、と考えてもう一度口を開いた。
「戻ってこれてよかったな、サム。お前の顔が見られてうれしかった」
『…ディーン?』
我ながら似合わないことを言っているが、最後なのだから伝えておく。
「お前はよくやった。終末だって帳消しだ」
『何言ってんの』
サムの声が露骨に怪訝そうになる。それはそうだろう。
「…飲みすぎただけだ」
『ふうん』
途端に興味が薄れたような声になるのに薄く笑う。
ああ、本当に今このとき独りでなくてよかった。
「じゃあな、サミー」
生きている弟に、またそう言えるのは幸せだ。
部屋で片を付けようと思っていたが、サムが来たら自分の跡は見せたくない。服を替えたら車ですぐに移動しようと思った。
・・・・・・・・・
あらいやだ。5行ぐらいで次に行きたかったのに日付を越えてしまったのでここまでにします。
今日はムパラの日ーーー!!
もう少し平和なパートまで進もうと思ったのにすみません。
もっとばばーーんとまとまった文更新したかったなあ。
[17回]