久しぶりにふーふでも書くかと思ったのですが、つっかかったので先にできた方を出します。
S8の兄弟がS1の片方と会う、というネタが前から好きなのですが、S8で煉獄から還ってきた兄貴と、S10の冒頭で兄貴(の死体)を悪鬼のように追っているサミが会ったらちょうどいいよね!(そうか?)という思い付きです。
今日はあとでコメントのお礼もできたらいいなー。
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ヒッチハイクの車から降りたディーンは黙々と歩いていた。煉獄から地上に戻ってきた実感はあまりない。
感覚の全てがおぼつかなくて、薄皮を被ったような気がする。記憶を頼りに動いてはいたものの、触れるものがどれもこれも遅くて脆くてどうしようもない。
「帰れたとは信じられない」
「俺もだ。…面倒は起こすなよ」
身体に取りこんでいたヴァンパイアの魂を肉体に戻してやったディーンは、義理立ては済んだと息をついた。
昔馴染みとけりをつけると言うヴァンパイアの姿が消えた後、ディーンは久しぶりに襲ってきた空腹感と眠気に戸惑う。
煉獄での日々で食い物といえば肉体を持つ自分のことだったし、浮かんでくるのは牙の並んだ化け物たちの口だ。
腹はよじれるように何か入れろと訴えるが、口に何かを入れて飲みこむ気がしなかった。
周囲は林だ。眠るのはどこでもいい。普通まともな人間は林の中で転がって寝たりはしないだろうが、今も昔もまともだったことなどないから支障ない。
ディーンはそこで考えるのを止め、ヴァンパイアの骨を掘りだした穴をそのままに目を閉じた。
眠るのは久しぶりでも、誰かが近づけばすぐに目が覚めるだろう。
不意に閃光が走り、飛び起きたディーンは身構えた。
闇から湧いて出たように、黒い影がぬっと現れる。
近づいてくる禍々しい気配に、ディーンは身を低くしながら武器を捨ててきたことを悔やんだ。
「…………サム?」
月明かりに照らされた姿に、これは現実かと戸惑う。片腕を吊った弟は、鎖でがんじがらめにした女を引きずっている。
「…どういうことだ」
サムは呼びかけに答えずに手に持った鎖を引く。血まみれの女が罵りの言葉を吐いた。
「死体のありかなんか知らないって言ったでしょ。過去に連れてきてやったのよ、あいつが煉獄から戻ってきた時に」
聞いたサムが目を見開く。その目が先ほどと色を変えてディーンを見詰めた。
「ディーン」
今度はディーンが応えられずに相手を見つめる。血走った目と削げた頬。荒み切った表情。姿かたちは同じでも、咄嗟に弟だと信じられなかった。
「なるほど。いい考えだ」
「ほら、会わせてやったわよ、離しなさいよ!」
呟くサムの足元で悪魔が叫ぶ。
まさか、契約したのだろうか。混乱しながら口を開こうとするディーンを見ながらサムはちらりと微笑み、穏やかな表情で足元の悪魔にとどめのナイフを突き通した。
悲鳴も上げずに悪魔はこと切れる。サムはゆっくりとナイフを引き抜き、二人はしばらく見つめ合った。
「ディーン」
じっと見つめるサムの顔が、次第にくしゃくしゃとした笑顔になる。
「サム」
「ディーン」
何か言おうと口を開こうとしては失敗し、名前を呼ぶばかりで立ち尽くす姿が、不意に子供の頃と重なる。
「サミー」
しがみついてきた身体を抱き返してやれたのは、多分その記憶のせいだった。
「生きてるんだね、ディーン」
「多分な」
ぽんぽんとその背中を叩く。
「なにそれ」
「地獄に続いて煉獄に行ってきた」
「お帰り」
驚いたようでもないのが意外な気もしたし、自分が消えた後、弟はこんな風に自分を探していたのかと驚く気持ちもあった。
必死に探すだろうとは思っていた。だがこれほどまでに荒むとは。
ぎゅうぎゅうと抱きすくめる腕はいつまでたっても緩まない。
少し緩めろ、と身をよじりかけて、足元の何かにつまずいた。1秒も経たぬ間に先ほどの悪魔の抜け殻だと思いだす。
「サミー、おい」
いかに生き別れの弟との再会でも、死体を踏みながらのハグを続けたくはない。
「ああ、ごめん」
ようよう気付いたらしい弟は少し身体を離して足元の身体を見つめ、周囲をちらりと見まわした後、ディーンが先ほどヴァンパイアの骨を掘りだした後の穴に目を止めた。
「あれ使わせてもらっていい?」
二人で穴を埋めた後、サムは改めて兄の身体を抱きしめる。
まだ若い。
カインの印も刻まれていない。
生きている。
「おい、一晩中ここにいる気なのか」
草むらに転がって寝ていた癖に、自分にはそんなことを言う兄がおかしくてサムは笑った。
久しぶりの笑いだった。
長くなったのでここまで。
なんでこうだらだらするかなあ。
探してくれてると思ってた兄貴と、死に物狂いで探してたサミちゃんならちょうどいいと思っただけのネタでした。
すぐにでも深い仲に転がりこみそうな二人。