貧乏な若者には夢のような豪華な家。
オーシャンビューのテラスと一人一台の車。
手入れのされたプールと庭。
そこに住む条件は週3日はこの家で過ごすこと。
そして家の中ではそれこそどこにいてもカメラに映されて、映像をみた他人にあれこれ品評されること。
住めるのは男3人、女3人。
の、はずなのだが。
「どーすんだこの状況」
だだっ広いリビングに入ってきたディーンがうんざりした声を出す。
ソファーの周りでゴロゴロしていた入居者たちが一斉に冷たい目を向けた。
「誰のせいだと思ってんの」
口を開いたのはサムだ。弁護士志望の学生である彼はディーンに対して遠慮がない。
今リビングにいるのは現在の入居者全員。
カフェを経営しているベニー、前シーズンの参加者カスティエル(無職だったが就職した)、そしてサムとディーンだ。
テラスハウスでの過ごし方に決まりはない。台本の無いのが唯一の台本。
色恋沙汰OK。
修羅場大歓迎という番組だ。
だがしかし、学生寮のような共同寝室とカメラが入りこむベッドルームにもめげずにもともと色恋沙汰の多かったディーンがのびのび数か月ふるまった結果、女性メンバーの間に争いが頻発し、次々にテラスハウスを卒業して行ってしまった。
何度か新規メンバーが入ったのだが最近ではそれも途切れ、男女3人ずつという原則なのに、なんと2週間前からこの家には男性メンバーしかいない。
「人のこと言えた義理かよ。マディソンとサラの時はお前だろ」
ディーンが言うとサムが詰まる。
見るからに軽く恋をしかけるディーンと違って、サムは性格通り誠実に真面目に女性に対する。結構な美点のはずなのだが、その分相手も真剣さと深刻さが増し、恋のさや当てというには重すぎる空気の中ハウスが静かな戦場と化した。
「まあ俺は別に女がいなくても構わんが」
次第に論点がずれていく口喧嘩を続ける二人を横目に、ビールを飲みながらベニーが呟いた。
「わからんのは、この状態で番組企画として成り立つのかってことだ」
なあ?とカメラに向かって話しかける。ちなみにテラスハウス内を映しだすのは10体以上配置されたロボットだ。モニターをチェックしている番組スタッフが放送所から操作していて、人の気配がするところを検知して音もたてず滑らかに室内のあちこちを移動していく。
しかし今現在テラスハウスをどんなに走り回っても、映るのは野郎ばかりだ。
「成り立つのだろう」
ケーブルテレビを見ながらカスティエルが素っ気なく返す。
「立たなければ番組を終わらせるだけだ。ただで我々をこんな場所に住まわせるわけがない」
「そりゃそうだけどな」
飽きずに口喧嘩を続けるルームメイトたちを見てうんざりと肩をすくめるベニーをちらりと見やり、カスティエルは口を開いた。
「先日番組OBへの復帰勧誘メールが来た」
「おお」
確かにカスティエルはそう言ってハウスにやってきた。
「今までの出演者に一律送信されていると言っていたが、確認したところ以前の参加者でメールを受け取った者はいない」
「へえ」
「つまり私の指名だったわけだ」
「…まあ、そうなるか」
だがなにゆえに、女性の欠員が多い状態のハウスに、野郎の旧メンバーを入れる必要があるのか。
「君とは初対面だが、あの二人は前に面識がある」
「だってな」
「それ以外、私が呼ばれた理由を思いつかない」
「………へえ」
そこで間が空き、二人はまだ何やら揉めているサムとディーンの方を見やる。言いあったりちょっと小突きあったりする二人の周りには、いつの間にか家中のカメラロボットが集まってきていて、あらゆるアングルでカメラを向けつつウィンウィンと回っている。
「要はあれか」
「恐らくな」
文句があるなら一通り言いあったら離れればいいのに、リビングからキッチンへ、そしてテラスへとぶつかりそうな距離のまま一緒に移動する二人を見ながら、
ふうん、とベニーは顎を掻いた。
終わる
なんかむじゅかしいですね。
しかしトライすることに意義がある。一発書きだから重複表記アリありな気がしますがもう1時だから寝ます~
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