店が混雑するランチタイムは、店員たちの行き来も激しい。だがすいすいとテーブルの間を塗っていく長身の動きは、確かになかなか目に楽しい。自分のテーブルに注文を出し終わったディーンは、店の中に目を走らせながら思う。
黒いベストにタイという制服が、サムには良く似合っていた。
昨日、付き合っていた相手に他に相手がいた、という愚痴をもらした後、何となく仕事終わりに二人で飲みに行った。
「へえ、ディーンって整備士なの?」
「元な。結構腕はいいぞ」
「モデルか俳優してるのかと思ってた」
「良く言われる」
意外だと言われるのはいつものことだ。
「それにしちゃ全然オーディションとか行ってる様子が無いなとも思ってたけど」
そう続けられて笑う。そこまで考えられることはまあまあ珍しい。
「試しにお前の車メンテしてやろうか。格安で」
何となく言ってしまってからペイを付け加えたのは、商売ものをちょっとした知り合いにタダで提供する弊害を思いだしたからだ。だが、
「残念だけど、車持ってないから」
とサムが笑ったのでディーンの警戒は空振りで終わった。そう言えばこいつは自転車で通勤してたなと思いだす。
きっかけはディーンが振られた話だったのだが、あえて双方それを蒸し返しはしなかった。
文字通り一杯飲んだ後、もう少し飲もうという話になり、店で飲み続けるほど懐が豊かではないのでディーンの部屋に酒とつまみを持ちこみ、結局そのままほとんど夜明かしした。よくあんなにくっちゃべるネタがあったものだ。
夜明け前に少し眠っただけのディーンは今も少し眠いが、トレイを片手に客に話しかけているサムは文字通り爽やかな顔をしている。
何となく悔しくなって、しばらくその横顔を追っていたが、気が付くと客がしきりに手招きしていたので物思いは置いて仕事に頭を戻した。
なんかどーにかなりそうな気がしてきたけど、3時だから諦めて寝よう…
[15回]
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