まだ続いてます。
しかし中身がどうであれとりあえず更新できるのは良いことだ!
サムは自分が堅物で奥手なことは自覚していた。
それは子供の頃から一貫していて、明るいカフェで客相手に笑顔を向けている今でも変わらない。仕事中はいいのだ。客商売だと割り切って、笑顔も作れるし愛想も言える。
だが、客から電話番号を渡されたり、仕事の後で会わないかと言われても戸惑うだけだった。仕事以外の場でもあんな接客を期待されても困る。
「お前に渡してくれだと」
だからシフトを終わって上がろうとしているところに、店長のベニーから電話番号のメモを渡された時にも、嬉しさよりもこの後の面倒の方が気にかかり、思わずため息がでた。
「どの人?」
「ブラウンの髪ににハイライトを入れてた、青い服だ」
「ああ」
何回か来ている客だ。看護師をしていて、夜勤の後に朝食を取りに来ることが多い。それにしても今日はそれほど混んでいなかったのに、わざわざベニー経由なのが不可解だった。
「仕事の邪魔をすると、お前が嫌がるんじゃないかだと」
「はあ」
仕事中に渡されるのは確かに好きではないが、仕事後なら嬉しいわけでもないのだ。
自分は100%電話をする気は無いし、次に来店した時のやり取りが厄介なだけだ。幸いというか、サムがアプローチに応えなかった後も来てくれる客が多いので良かったが、できれば本当にこういうの無しにコーヒーだけ飲みに来てほしい。
「感じのいい子だったぞ」
「まあね」
だが、サムとしてはこの店の気取ったお仕着せを来てカフェオレなんか注いでいる自分を見て好意を寄せられても、(実物は違うから)という気分しかないのだ。
「じゃあ、お疲れ様」
「ああ」
幸いベニーは頼まれごとさえ済ませれば、あとは知らんという態度なので、サムはこの件については何も言わずに授業に行くことにした。
「お疲れ」
「お疲れ様」
店の奥の控室に着替えに入り、シフト交代で出入りする他のバイトと軽く挨拶する。いつのまにかサムはこの店では長くなっていた。
ロッカーに制服をしまって裏口に向かったところで、休憩上りらしいディーンが入ってきた。
「よう」
「うん」
すれ違いかけたところで、口元の口紅が目に入ってジェスチャーで指摘する。
「鏡見なよ」
「あ?おう」
すると見るからに嬉し気ににやけるので、サムは呆れるより感心してしまった。ディーンはサムの目から見ても確かに店の白と黒の制服が似合っていて、サムもうっかりすると仕事中その動きを見つめてしまうことがあった。当然のように客からあれやこれやと声をかけられている。
だが、ディーンはサムとは対照的にいつも嬉し気な顔をして、実際、すでに何人かつきあったらしい。
彼は店で見る端正な立ち姿と、実際の自分の差が気になったりしないんだろうか。
大学に向けて自転車を漕ぎつつ、サムはずっと同僚がポットを持ってテーブルの間を歩く姿を思い浮かべていた。
ああん、またも書きたいところまで行きつかなかった…
[13回]
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