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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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モラトリアムな僕ら2

サムだけ記憶が戻ったウェッスミの続き





「冷気無し、EMF反応なし、ついでに硫黄ももちろん無し。はい、何もいません。帰るよ」
ものの5分でチェックを終えたウェッソンが冷たい声で言いきる。
「そうか、ありがとう助かった」
ディーンは頷くが、猛烈に気まずかった。
「結局、そういう効果音の歌だったってことだね」
「ぼくだってそう思った。だから歌詞を聞きとろうと思ったが英語じゃなかったんだ。それにこの間、追ってくるタイプの霊もいるなんて聞いたところだったし。どうやって区別をつければいいんだ」
「あー、そう…」
聞きながらサムは眩暈を堪えていた。

夜に突然着信があったから、もしや兄が正気に返ったのかと思ったら、
『ラジオから変な声がするのは幽霊じゃないだろうか』
という残業中のビジネスマンからの相談で、おかげでサムはビール片手に座りこんだソファから立ち上がり、職場までわざわざ来るはめになったのだ。

しかも露骨にホッとした顔をしたディーンが、書類に目を戻しそうになるので思いきり低い声をだす。
「まさか、夜に人を呼びつけておいて、『ごくろう、帰れ』とか言わないよね?」
「………言うわけないだろう」
気まずそうに書類をしまいだす相手を、サムはふん、と鼻を鳴らして見守った。
 
 
夕飯はまだだと言ったら「奢るぞ」と言われて入ったレストランで、運ばれてきた料理にサムは目を剥いた。
「本気でそれだけなの」
ディーンの前に置かれた皿には、ごく薄く切られた生ハムの上に、玉ねぎやベビーリーフ、ズッキーニやパプリカのグリルが乗っている。彩りは美しいが、はっきり言って皿ばかりが大きくてひと口で終わりそうな量しかない。そして飲み物は炭酸水だ。徹底している。
「昼が多めだったからな」
「嘘つけ」
昼間の仕事中に見たランチのパックは、ブロッコリーのスプラウトの横にチキンの胸肉のスライスが二、三切れ入っていただけだ。
 
「極端な糖質制限は、却って身体に悪いよ」
「心配ない。炭水化物は朝には摂るようにしてるんだ」
「へえ」
 なんだろう、この常軌を逸したダイエットへの情熱は。
野菜を好むサムの食事をディーンはよく「ヤギの餌」と馬鹿にしたが、何だか気持ちがわかってしまった。光合成でもして生きる気だろうか。
「僕は比較的すぐに脂肪がつくんだ。運動不足だしな」
「それはあるだろうね」
その点は迷いなく同意する。一日部屋で、デスクワークばかりしているのだから当たり前だ。
「君は体脂肪が少なそうだな」
「十三%くらいかな」
「すごいじゃないか!どんな食生活をしてるんだ、トレーニングは?」
とたんにキラキラした目で羨ましそうな声を出されてめまいがする。
 
それにしても困った。
ひらひらした菜っぱをフォークでつついているディーンを尻目に、運ばれてきたTボーンステーキにナイフを入れながらサムは考えた。
実のところ正気に返りそうもないディーンは仕方がないのでしばらくビジネスマンのままにしておいて、サム1人でも狩をしようかと思っていたのだ。
だが、予想以上に危なっかしい様子においてもいけない心境になってきてしまった。
 早くリリスを殺さないと、どんどん封印が破られてルシファーが蘇ってしまうかもしれないのに。
 
 だがサムの焦りを他所に、その後もディーンは体脂肪と売り上げ成績を人生の最重要課題として規則正しく勤勉な生活を続け、週末に単純かつ日帰りで退治できる程度の幽霊を狩って張りを感じているようだった。
 
 そして恐ろしいことに、次第にサムもできる範囲の狩りしかしない生活に慣れてきてしまう。
 なぜならばサムが悪魔の血を飲んでまで果たそうとしていたのは兄の仇を討つことで、その本人が生き返っているのだ。その上に平和そうな顔をして、
「君はプロテインはどのメーカーがいいと思う?」
とか言っている。地獄で悪魔にいたぶられた記憶を呼び起こし、もう一度死ぬかもしれない生活に戻すのがいいのかサムにはわからなくなってきた

 
「そろそろ別のタイプの魔物を狩るのどう?」
「いやだ」
 ディーンの狩りの基準ははっきりしていて、日帰りか週末に終わる範囲のものでないと動かない。
 母の仇を討つため、何もかも捨てた狩りの旅ではなく、自分の生活を送りながら、両立できる範囲での行動というのはどこか余裕のある趣味のようだ。少し前のサムなら一顧だにしなかっただろう。
だが、ディーンが笑って傍にいる。


 


 


「僕は地獄に落ちるかもしれないな」
 サムの呟きにディーンが少し眉を上げた。
「…それはまた随分大仰だな」
 
 日曜日のスミス宅だ。
テレビの前に置かれたカウチは混んでいる。サッカーの試合を見ているサムの膝には、経済雑誌を読むディーンの足が乗っている。
行儀悪く脱ぎ捨てた靴は、カウチから少し離れた床に転がっていた。
 
「なにか気になるなら懺悔でも行ってくるといい」
ぽん、と言われた言葉に目を剥く。


「あんた教会なんか行くの?」
「いや」
 雑誌に目を落としたまま、ディーンが膝に乗せた足でぽんぽんと叩いてくるのを手で避ける。
「止めてよ」
「じゃあどけ。僕のカウチだ」
「やだ」


決定的な関係にはなっていないものの、夜ごと日ごとに入り浸り、確実に距離は近くなっている。全然性格は違うが、どこかがもとの兄のままだ。どこか甘く、付け込める隙がある。 


 拗ねたふりをして相手に甘えながら、サムは自分が酷い奴だと思う。
 世界の危機を知りつつ背を向けて、自分だけのぬるま湯な生活を、もう少しもう少しと引き伸ばしている。
 この街は平穏だが、調べてみればあちこちで異変は起き始めているのだ。
 


 このままいけばもうすぐ封印は解ける。
 ルシファーが蘇り、この世の終末がやってくる。
 
  
 しかしサムの悲痛な覚悟と自責の念にもかかわらず、その後いくら経っても封印はなかなか解けなかった。
 
 リリスが殺されないためルシファーは蘇らず、黙示録がまた数百年持ち越されたことなど、もちろんただの人間にわかるわけはなく、地道な労働と地道な恋路の日々がこつこつと続いて行くのだった。
 
                                     END


 


そういえば、最初の萌えツボは最後の「終末が来るんじゃないかと思いながら続く地道な労働と恋路」のはずだったのを、今の今思いだしましたよ…


 








 


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