誰にでも秘密はある。
目下ディーンの秘密は裏庭の奥、隣家との境目付近にあった。
芝生を刈りながら地面の様子を見る。微かな隆起は2週前と変わりない。
植物状の魔物というのが思ったより町中に多いということに、ディーンは狩を辞めてから気が付いた。現役時代に意識しなかったのは、『魔物』で『人に害を為す』という条件にあてはまることがまれだったからだ。
引退しても護身は欠かせない。だから普通の戸建てにあって不自然でない程度の資料は今でも置いていた。書籍の電子化が進む昨今だが、狩りに使う図鑑や呪術書は重要なものほどアナログだ。
「お変わりなし、と」
ディーンは呟きながら隆起の上の芝を刈る。
ディーン達の庭の一角を横切る根は隣家の庭木の方向へと延びている。現役時代なら人里に住み着く魔物を放置しては置かなかっただろう。
だが今は、この魔物が育つ速度が何十年単位でゆっくりなこと、育ちきるまではよほどの衝撃を与えない限りただの根であること、そして無理に除こうとすればそれこそ「よほどの衝撃」で暴れ出し、近隣の家屋を破壊するであろうこと、そして庭の根っこが理由では恐らく保険が降りるには相当の時間がかかるであろうこと、さらには立ち話から知った、ご近所さんたちが住宅ローンの残高をたんまり抱えていることなど、「命」以外のあれこれ「命」の次の事柄を考え合わせるようになっている。
(サムが知ったら怒るかもな)
そう思いながら、ディーンは昔なら有り得ない「対峙もせず、立ち去りもせず」という経過観察を今日も続けた。
終わる
ディーンが魔物を見逃すっていうのでちょっとそわっとしたんですが、書いてみたらあっさりでしたよ。
そしてこれは「静か」設定の意味があるのかと思われそうですが、一戸建てに住んでご近所を気にしているのは「静か」特有のようです←自分でも確信が無い