去年と変わらない誕生日だ。
サムは去年だって兄のバースデイをめでたい日と認識していたし、兄弟らしくそれなりに祝った。ディーンも口ではどうのこうの茶化しつつ、喜んでいたのも知っていた。
だから今年も同じように祝うのがベストなのだと理屈では知っている。理屈では。
だがしかし、去年と今年は違う。ディーンと自分は、去年とは違う関係をひとつ加えた。
ベッドで一緒に過ごすときのディーンは、何と言うのか、ひどく優しい。その考えると身体の奥がぎゅっとなるような時間を思いだすと、とても去年のような古本屋で適当に見つけた雑誌と缶ビールで済ませるわけにはいかない。
サムは悩んだ。
30越えた成年であり、今や自分の想い人でもあり、ああいう見た目の男に贈るのにふさわしいものとはなんだろう。
そして当日。
「……サミー、言いたかないけどよ」
苦虫をみ潰したようなディーンの顔と声に、サムは半ばあきらめながら頷いて見せる。
「わかってる」
サムが選んだのはカシミアの入ったマフラーだった。ディーンの目のようなグリーンのものを探したかったが、ゆっくり探すことができずにごくありふれたグレーだ。
そしてそれよりもまずいことにまだ狩りの最中だ。しかしここで渡さないと日付が変わってしまう。
「後生大事に上着に入れてるから、秘密兵器かと思ったらよ…」
これからまさに決着というときにプレゼントもマフラーも非常識なのはサムもわかる。わかるがしかし日付が変わるのが耐えられなかったのだから仕方ない。
「外雪だし。安ものだから防寒に巻いて行きなよ」
ここでふてるとかしょげるというのは「弟」らしすぎる行動なので堪え、可能な限り軽い口調で言ってみる。が、
「そうも行くかよ。邪魔だし」
外を見ながらディーンは包みを濡れないようにか着ていたシャツの下に突っ込むと、銃を片手にするりと出ていった。サムも弾倉を確認すると後を追う。
擦り切れた軍用ジャケットに汚れたデニム。確かにマフラーは似合わない。
だけど抱き合った夜を過ごした後だと、無性に柔らかくて暖かいもので相手をくるんでしまいたかったのだ。
例え相手が新しい髭剃りとか、香料たっぷりのバスオイルの方が分かりやすく喜ぶと分かっていても。
(なんか難しいなあ)
今後に控えるバレンタインやクリスマスなど考えだすと、どうも自分達の現実から離れたようなものばかりが浮かんでくる。
「どうした」
「いや別に」
周囲の様子を真剣に伺っているディーンの横で、自分の嗜好について思いを巡らせていたとはさすがに言えないサムは、もうすぐ本当に日付が変わるけど、おめでとうのキスをここでしたらさすがに殴られるだろうなと思いながら短く答えた。
祝うというよりサミちゃんの趣味に走って終わる。
今日中に上げることに意味があるのよ兄貴。おめでとう!
そしてさすがにそろそろムパラ原稿に本腰入れないとまずいので、また更新がとびとびになるかもしれません。
ごようしゃくださいませー
ぱちぱちありがとうございます。お声を励みに頑張ります!
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