通販のご連絡でーす。
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また最近ボケボケでポカを一杯しておりますので、通販ご利用の方で「ペーパー入っとらん」という方もいらしたらお知らせください…
というわけで古典本リベンジの続きです。
Rあり
サムがルビーを仲間扱いしていることが最初のきっかけではあった。
もちろん「使うな」と繰り返していた超能力を強めようとしているのも言語道断だ。
だが、ある意味いつも通りだった兄弟げんかのバランスが崩れたのは、二人がアラステアという悪魔と出会ってからだ。ディーンが地獄で何をされ、何をしたのかが分かり、さらにセイレーンの毒に侵されて互いに罵り合った後は、喧嘩をするたびにお互い話がそこに行くようになっていった。
ディーンは悪魔と手を組むサムを責め続け、サムは反発した。
「僕は悪魔に使われているわけじゃない。目的がたまたま同じだから協力しているだけだ」
「へーえ。考えてみろよ、典型的な悪魔の手にひっかかってんじゃねえのか?」
「ディーンだって利用できるものは利用するだろ」
「悪魔に近づくのは祓う時と例のナイフで刺すときだけだこの阿呆」
「怖がってる場合じゃないだろ?リリスが…」
「ああそうだよな!お前なら悪魔の手下になって人間を拷問しても過ぎたことは気に病まないんだもんな」
「そんなこと言ってないだろ!」
ちょっとしたことから口論になることも、口論が殴り合いになることも以前と同じだ。
だがその日それが別の方向に向かったのは、二人とも特に気が立っていたことに加えて、確かにサムが『悪魔の血を飲んで頭がイカレた』ためなのかもしれない。
・・・・
サムは荒い息をつきながら身体を起こした。
熱の頂点を過ぎると、さすがに頭が冷える。そしてねじ伏せた相手のことを考える余地も生まれてきた。こんな状況では当たり前だが、目の前の身体が汗ばみ震えているのは、快楽とは程遠い理由なことはわかっている。
だけど別にかまわなかった。サムは昔から兄のことがこんな意味合いで好きだったし、多分ディーンもそうだった。
だから失くしたと思っていた相手が思いがけない形で戻ってきて、しかも強がりつつもどこか脆くなった姿を見たとき、その手を掴んで引き寄せるのはごく自然なことだと思えた。
昔はとてもかなわなかった相手を純粋に腕力で暴けることがはっきりした瞬間、ディーンは驚愕に顔をひきつらせ、逆にサムは微笑んだ。立場は逆転したのだ。
無理強いしておいて今更ではあるが、せめてゆっくりと引き抜く。冷汗の浮かんだ背中が目の前でひくりと跳ねた。痛みを散らすように浅い呼吸を繰り返す背中に唇を落とすと小さく震える。
この兄を自分のものにした。そのことに酷く満足する。
「大丈夫?」
と言いかけた口を途中で止めた。大丈夫なわけはない。だけど謝るのもおかしい。サムは悪いとも思っていないし後悔もしていないのだから。
「ちょっと待ってて」
そう声をかけ、そっと身体を撫でてから立ち上がる。少しだが出血していたので汗や汚れを拭いて手当をしようと思った。
返事はないが起きているのは分かっている。ベッドの周りに脱ぎ捨てた服を拾って適当に着ると、タオルと薬を探してバッグを掻き回す。
と、背後で動く気配がしたので振り向くと、ディーンがふらつきながら立ち上がるところだった。
「ディーン?」
動けるのかと少なからず驚いたが、相手はちらとサムを見ると無言でバスルームに入っていってしまう。どうやらタオルは不要らしい。
バスルームの中からは水音と一緒に何度かあちこちにぶつかるような音がしたが、動けなくなっている様子もなく、しばらくした後意外にしっかりした足どりで出てきた。
「動けるんだ」
突っ伏していた時の様子からは意外だったので本気で驚いたのだが、ディーンはじろりと視線を向けると、
「動けなくしたいんだったら、足の腱でも切るんだな」
と妙なことを言った。
「なにそれ」
意味が分からず尋ねるが、ディーンは答えないまま下着を拾うと身に着け、使っていない方のベッドに倒れ込んだ。シーツを乱暴にかけて、息をつくのが聞こえる。
サムは少しの間呆気にとられていたが、とりあえず自分も汗まみれのままなのでシャワーを使うことにした。
汗を流して出てくると、先ほどの惨状のままのベッドともう一つを見比べる。さして迷うこともなく、ディーンがもぐりこんだシーツを引っ張り、同じ寝台に入りこんだ。
「…なんだよ」
「寝るんだよ」
無理矢理暴いた後に甘いピロートークなどは期待していなかったが、それにしても刺々しい会話だ。トゲトゲついでに腕を回して抱き寄せる。
「よせ」
「もっとしてほしい?」
身体をよじろうとする耳元でそう囁くと、跳ねのけようとしていた腕がピタリと止まる。
それでいい。
サムは満足してディーンを背中から抱き寄せ、その短い髪に顔を埋めた。
「…痛む?」
そう訊いたのは腕の中の身体がどことなく力を抜いたのを感じたからだ。
できれば乱暴にはしたくなかった。弱くなった兄を守りたかったし、抱くときも優しくしたかった。ディーンがもう昔ほど強くないとしても、生きてサムの傍にいてくれているだけでも十分だ。だが、返ってきたのはまたしても妙な返事だった。
「別に。この手のことには慣れてる」
「え?」
腕に抱いている身体は力が抜けたままで、何か構えた様子もない。
「こっちは何十年もさんざっぱらこんな目に合ってるんだ。…今さらだぜ」
「地獄のこといってるの」
「何人目かな…100か200か覚えちゃいないが、まあ、よくある。拷問にしちゃぬるいがな」
ぬるいと言われて一瞬カッとしかけ、だが言われている意味を反芻して強く否定した。
「拷問する気なんかない」
「へえ」
「ディーンが好きなだけだ」
そういうとディーンは背を向けたまま沈黙する。そして怒るでも責めるでもなくぼんやりとした声で呟いた。
「…ふうん…悪魔の血の作用ってな、おっそろしいな…」
「関係ないだろ」
眠そうな声には力がなく、皮肉というより単純に思っていることを口にしているらしいので、サムはかえって途方にくれた。
「ディーン」
「拷問じゃないってんなら寝かせろ。せっかく生き返ったのに死にそうだ」
憎たらしいことばかり言う身体に手をかけ、こちらに向けさせる。感情を押し殺したような平らな表情にイライラして唇を重ねた。ディーンの腕がサムを押しのけようとまた動き、敵わないことを察したように止まる。だが、さっきのもみ合いで少し切れた唇は、もう一度キスをしても固く閉じられたままでサムに応えることはなかった。
(焦るのは止めよう)
腕を緩めた途端、また背を向けてしまった身体を抱き寄せながらサムは考える。ゆっくり分かってもらえばいい。自分がディーンを好きなことも、悪魔の血を受け入れたわけも。
ディーンを守り、リリスを倒す。今はそれだけ考えることにした。
腕の中の身体が温かくて、心臓が脈打っているのを感じる。ディーンが生きてここにいる。それだけでもいい。
血にまみれて冷たくなった身体を、粗末な木の棺に横たえた日を思いだした。
続
リベンジなのでさくさく進みます