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「ディーン、ちょっと待って」
モーテルの扉を開けかけると予想通りの声がして、ディーンは「おう」と短い返事をして立ち止まった。サムはベッドの上に置いたバッグとディーンを交互に見ながら荷物をまとめている。
幽霊や警察に追われているわけでもなく、チェックアウト時間が迫っているわけでもないというのに切迫した顔の弟にディーンはやれやれとため息をついた。
数か月前までならうるせえグズとさっさと先にインパラに乗り込むところなのだが、そうもし辛い事情がある。仕方ない、と開けたドアに凭れると、また焦ったような声がかけられた。
「そんなところに凭れるなよディーン!挟まれたらどうするんだ!」
「……」
どうもなんねえよ、という言葉をディーンは飲みこむ。
黙ってドアから離れて立つと、サムはすっかり手を止めてこちらを凝視していた。
「早くしろよ」
「…危ないからこっちに来て」
一見お願いしているような口調だが中身が命令だ。
どうせ100回繰り返した火曜日の中には、器用にもドアに挟まれて死んだ時もあったのだろう。ディーンにしてみれば朝起きて不機嫌な弟と朝食を食べ、トリックスターに会っただけなのだが。
でかい図体になってからはさっぱり可愛げが無くなっていた弟がいきなりぎゅうぎゅうとしがみついてきたので無下にもできずにいるが、数日で落ち着くかと思ったら数か月経っても心配モードは収まらない。実に言いづらいが最近外を歩くとき、サムはずっとディーンの腕を掴んでいるのだ。
「サムもサムだけど、付き合う方もどうなのよ」
つい先日も情報収集であったエレンとジョーに、思いきり白い目で見られてしまった。
「仕方ねえだろう」
と言ってはみたもののディーンはその時密かにショックを受けた。一応その時にはあらかじめサムにも言い聞かせて以前のように振舞っていたつもりだったからだ。気が付かないうちに大分通常ラインの感覚がずれてしまっていたらしい。
だがしかし。今でも時々ループの夢を見るのか夜中や朝に飛び起きては、自分の無事を確認しに来る弟というのは数か月経っても新鮮で、必死な形相でしがみつかれると悪くないと思ってしまう。
なので道行く人も振り返るウィンチェスターの密着ぶりは、その後も上がるばかりなのだった。
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意外に難しいなあ。
寝るときもしがみついて寝たがったり、一方で「潰して窒息させたか」と慌てたり忙しいにちがいありませんよ。
[29回]
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