「そっちより僕ら向けのサイトがあったよ」
週末の狩りに備えてゴーストフェイサーズのサイトを見なおしていたら、隣からウェッソンが手を伸ばしてきた。
「へえ?」
無断でキーボードを使うずうずうしい客を見逃してやりつつ、ディーン・スミスは迷いなく長いアドレスを叩く指を見つめる。
ずいぶんと慣れた手つきで開かれたサイトは、なにやら難解な文章だらけだった。
「……これはどう見ればいいんだ?」
古い本のものらしい幽霊の図がいくつか掲載されていたが、どうやって退治したらいいのかといった具体的な記述は見当たらない。
「幽霊の基本的な倒し方は同じだけど、幽霊と思っていたら違う相手の場合もあるからね。その場で慌てないように備えて行った方が良い」
「なるほど」
ディーンとしては普段の仕事と両立することを考えると幽霊だけでも正直手一杯なのだが、サイトを見ながらのウェッソンの解説は随分と噛み砕かれて分かりやすかった。
「君はこの一週間で随分と進歩したんだな」
思わず感心して隣を振り返ると、間近にウェッソンの顔がある。
しまった、と一瞬思ったが相手が気にせず説明を続けたのでホッとする。
パーソナルスペースはきっちりしている方なのだが、どうもこのでかい男にはそれを忘れることがしばしばあって、初対面の時から自分に関心を示していた相手に誤解をさせてしまいがちだった。嫌と言うわけではないのだが、ウェッソンからのアプローチの勢いが強くてもう少しペースを落としてほしいのが正直なところだ。
大の男がキスまでしておいて、その先の関係を怖がっているなんてのはお笑い沙汰だが、年齢や社内の立場やこの先の不透明さなど、大の大人だからこそ気になることは色々あるのだ。
・・・
サムは困惑していた。
つまらなすぎる単調な仕事を続ける気が全くしなくなり、コールセンターの端末を腹立ちまぎれに破壊していたら不意に頭がはっきりした。
自分はサム・ウィンチェスターでウェッソンじゃない。
コールセンターのアルバイトはもちろん本業じゃなくて、生粋の魔物ハンターだ。
よくあることだが、また何か敵の罠にはまっていたらしい。
そして、困ったことに自分は正気に返ったのに、ディーンの方がさっぱりだった。
気付かれないようにあれこれまじないを試してみたが、さっぱり正気に返らずエリートサラリーマン生活を続けている。
「幽霊以外にも魔物はいるんだ」
そう言うと驚いたように振り返る。その顔が近くて危うく触れそうになる。
ディーンは一瞬驚いたように目を見開いたが、サムが仕掛けないのを確認すると少しホッとしたように目元で笑い、説明を続けるように促した。
(どうしよう)
リリスを倒して終末を防がなくてはいけないのに、単純な幽霊で手一杯な状態なのも問題だったが、こちらもどうしたらいいのか分からなかった。
だって仕方がないじゃないか、記憶が無かったんだから。
気が付いたら実の兄に迫りまくっていたというのは頭痛ものだったが、その努力が実を結んでしまいそうなのも大問題だった。
・・・
てな感じの片方だけ正気に返ったウェスミ。
逆も楽しそうだな。
いきなり品が無くなってイケイケになるスミス部長に困惑するウェッソン君。
嫌だといってもサミー呼びを連発する。
夢の中の男が現実だ!と言われて嬉しい気持ちと、夢の中でモデルみたいにきれいだなーと思っていた部長(人形のようにきれい)が、口を開くとイメージ激変。
[23回]