「こりゃまたどういう冗談だ?」
黒い衣装を手渡されたディーンが心底おかしそうにクックッと喉を鳴らして笑った。
「神父の同行者がデニムだと余計な詮索をされる」
対するサムはディーンが笑おうが鼻を鳴らそうが全く気に留める様子もない。
魂が無くなっているので用件が進めば万事OKだ。
「早く着てくれ。玩具の十字架なんか怖くないだろ」
そう言うと手早く自分の分の衣装を着込む。
「おー、サミー。魂が無くなってもコスプレで聞き込みする知恵が沸くようになったか」
進歩だな。人は魂が無くても進歩する。
どっかの魂なし研究会に投稿しろよ。
げらげら笑うディーンはだがやはりベッドに腰かけたままなかなか動こうとしない。
襟の高い衣装の前をきちんと留め終わったサムは、数秒笑っている悪魔の姿を見つめると、おもむろにスキットルの水を少量振りかけた。
皮膚がただれる音が上り、ディーンが短い叫び声を上げる。
「クソが!」
サムはその罵声にも反応せず、ディーンの横に積んだ衣装の上に置いたロザリオを掴み、そのまま顔に押し付けた。
「ほら、何ともない」
「……」
恨みがましそうに睨み上げてくる碧の目が瞬間黒く変わるが、確かに聖水をかけられた時のような悲鳴は無い。
「早く着ろよ。外に行くんだから首輪付きの格好見られたくないだろ」
サムが無表情な声で急かした。
ディーンの首には悪魔封じの文様の刻まれた鉄の輪が嵌められている。
「俺は別にかまわないぜ?男に首輪をつけて連れまわす特殊な趣味の神父様ってことで行こうや」
「まあ、それでもいいけどね」
ニヤニヤ笑う兄にまた聖水をかける。ぎゃっと言う悲鳴。
「じゃあいいや、めんどくさくなってきた。僕が戻るまで地下に行ってなよ」
立ち上がって鎖を引っ張るサムの手を、ディーンがめんどくさそうに払った。
「こんなダサくて古い服持ってくるから気が進まないんだろうが」
「あんたが昔どっかからかっぱらって来た服だけど」
「……」
その後の調査中にひょっこり姿を現したクラウリーは神父姿の二人連れを見て、
「…実に世も末だな」
と呟いた。
そんだけ!
いやー、ロボと悪魔兄貴だとどっちも痛みにも脅しにも揺らぎそうもないので困りますね。話が進みませんね。
[24回]
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