目を開けるとしかめ面が見えた。
(なんでこいつはこんな不機嫌そうな顔で寝るんだろう)
ディーンは無精ひげが少し伸びてきた顔をぼんやりとみつめる。
半ば同居状態も長くなってくると、見慣れた顔に感動もない。
(起きるか)
ベッドを抜け出すときにもウェッソンは起きる様子もなく熟睡していた。パソコンのシステムエラーがどうのこうのと言っていたので、多分寝たのはかなり遅かったのだろう。
昨夜もいつの間にかベッドに入ってきていたが、ディーンの方もここのところの残業続きで疲労がピークに近かったので、全く気が付かなかった。
髭を剃りながら、果たしてこれはあの男との関係にとっていいのか悪いのかとぼんやり考える。
もともと他人と近すぎる距離になるのが苦手で、気になりだすと一気に気持ちも冷める、そんな自分にしては今の状態はイレギュラーだ。
恋愛のピークは過ぎたのかもしれないが、あのでかいバイト社員が相変わらず我が物顔でのそのそと自宅の中を歩き回っていても気にならない。どちらかというとウェッソンの存在が当たり前になってきている気がする。空気と言うよりは家族のようにというほうが近いかもしれない。
「ディーン?」
分かりやすく掠れた寝起きの声がして、物思いは破られた。すこしよれ気味のシャツにスウェット姿のサムがあくびをしながら洗面所に入ってくる。
「おはよう」
「ああ」
何か言おうかと思ったが、言葉が見つからず不愛想な応対になる。だが、まだ半分寝ているのかウェッソンは気にした様子もなくへにゃりとした顔で笑った。
「起きてるあんたの話すの久しぶりだ」
「そうか?」
「ずっと例のプレゼン準備にかかりきりで帰ってこなかったじゃない」
「ああ…」
数日前に終わった仕事は既にディーンの頭の中では過去に分類されていて、随分と前のことのようだった。
それにしても話すのも久しぶりというほどだったか?
何となくしみじみと相手の顔を見る。出会った頃より頬が削げてシャープな顔立ちになった。
手が止まっていることに気が付いて、髭を剃り終えてしまおうと鏡に向き直ろうとすると、その前にサムの顔が近づいてきた。
「おい」
止める間もなく唇が触れる。
「…付いたぞ」
髭剃り中だったのだから当たり前だ。口の周りに間抜けな感じにシェービングクリームをつけた顔に呆れた声が出るが、サムは相変わらず笑っている。
「あんたの素っ気ない声が聞けてうれしい」
「なんだそりゃ」
言いながら背中に懐いてくるのを今度こそ放って剃刀を使う。
だが、そう言われてみればウェッソンのよく光る目をみるのは久しぶりな気がした。
さっきこいつについて何を考えていたんだっけか。
ディーンは背中と頭に体温を感じながら、鏡に映る顔がみっともなく崩れないように、意識して口元を引き締めた。
終わる。
キスすりゃ―いいのに何でこうだらだら長くなるのだ。
しかもこーゆーすれ違って寂しいけど自覚ない部長は前にも書いた気が。気が。
いやしかし、5年以上おんなじ二人のいちゃこらする話ばかり書いているのだからもうダブりは仕方ない!と、自分を鼓舞。
[24回]