ぜいぜい。
な、なんとかクレトム本入稿しました。17pからなんとか見なおして40pくらい行ったかな…
えーと、ブログで書いていたのを下敷きにしていますが、Transient:Reの続きで書いているので、全体的にトーンを合わせた感じです。
よろしくお願いいたしまーす。
以下サンプルです。うだうだ言ってましたが、書きだしはこんな感じになりました。
厚手の鍋を火にかけ、油を垂らすと刻んだニンニクとエシャロットを入れる。少量のひき肉を炒めた後、蓋を開けたトマト缶の中身をそのままあけた。煮えるのを待ちながらレシピで次の手順を見なおすと、缶詰の豆は加える前に水煮しろと書いてあるが、まあ今日はいいことにする。
クレイと暮らし始めるまでの生活で、トムは一切料理をしたことがない。生家では家事は女の仕事とはっきり分けられていたし、療養所では出されるものを口に運ぶだけだった。その後の逃亡生活では料理どころではない。
料理をするようになった理由の一つは暇潰し、二つ目はコストだ。この街に留まることにしたとき、クレイとの取り決めでトムは自分名義の口座からの引き出しを止めた。手元の資金をネット取引で回してはいるが、外食や惣菜を多用すると金が持たない。
コスト、という単語に昔のことを思い出す。父の会社の会計士が、よく帳面をしかめつらしく示しては、コストがコストがと言っていた。
クレイはトムがこの部屋に閉じこもりっきりだと気にするが、療養所よりよほど自由だしネット環境もある。移動が無い暮らしは実はそれほど苦ではなかった。
母はとうに亡くなったが、もし今トムの姿を見たら驚くだろうか。それともハニガー家の男が台所に立つなんてと嘆くだろうか。
何となく考え込んでいると、鍋が焦げそうになって慌てて止める。
「しまった」
いかに何を食べても「旨い」しか言わないクレイでも黒焦げはまずい。水を足すべきかと中身をつついていると、聞きなれたエンジン音がした。クレイだ。
ブラインドを閉めていなかった窓から外を見ると、バイクを停めたクレイがバイクから降り、ヘルメットを取るところだった。ひょいと上を向き、見下ろすトムに気付くと軽く手を振る。反射的に手を振り返しながら、こういうやり取りは自分にはおかしい気がしてちょっと悩んだ。しかし、一度上げた手を今さら下ろすのもさらにおかしい。
暮らし方の変化もだが、クレイとの関係も最近大きく変わった。大の男が窓越しに手を振り合う図というのはトムの感覚としてはおかしいが、恋人同士のやりとりとしてはおかしくない。
今この手を振るべきか、振らざるべきか。それが問題だった。