ぼんやりと目を開けると、背中から腕を回され、抱え込まれていた。
部屋はまだ薄暗い。
(あーあ)
嫌悪でも後悔でもないが、何となく微妙な心境でぼんやりと壁を眺めつつその体温を追った。
汗はひいているが、昨夜の熱のなごりのように背中にはぴったりとサムの胸が当たり、軽くシーツをかけた足も絡みあっている。
うなじに触れるサムの呼吸は静かでゆっくりとしているが、眠らない身体なのは知っている。
そして今、自分が目を覚ましたことも、まず間違いなく気付かれているのだ。
(なんだかなあ)
もう一度思う。
身体に緩く回されたサムの腕は悪さを仕掛けてくるわけでもなく、静かに裸のディーンの肩を抱いている。すっぽりと守るように。
その感触が嫌悪や抵抗感を呼ばないから始末が悪いのだ。
そうじゃないだろう、と脈絡なく思う。こんな風に目が覚めて、それに抵抗がないのは間違いだ。何かを守るのは自分の役目で、それを果たさないのは罪だ。
まして弟の魂は、今も地獄の檻の中に閉じ込められているのだから。
思考がそこにたどり着き、お馴染みの自己嫌悪と焦燥がじわじわと湧き上がってくる。
と、
「なんであんたってそうすぐ暗い方に頭がいくのかな」
頭の後ろから平坦な声がした。
「悪かったな暗くて」
落ち込みかけた思考が途切れ、ディーンは壁紙を睨みつけたまま短く答える。
相手が唐突に無神経に話しかけてくるのはいつものことだ。感情がないサム相手だと、事後のベッドマナーもへったくれも必要ないのは気楽ではあった。
「不思議なだけだよ。起きて数秒で暗くなるネタを見つけるなんて、ある種才能じゃないの」
「目が覚めて野郎に抱きつかれてたら気も滅入る」
これもまた神経のないロボ以外には言えないセリフだ。八つ当たりともいえる。
だが、ありがたいことにロボはやっぱり感情的なものを何一つ感じないようだった。ただ不思議そうに、
「それは滅入る理由にならない。あんた抱かれて寝るの好きだろ」
とケロリと言う。
「だれが!」
思わず振り返りそうになるのを堪えつつ吐き捨てる。顔を合わせたらなおさら不利になるような気がした。
「厄介な病だよねえ」
ディーンの頭の中のぐるぐるなど、全く気にしていない声でサムが呟き、髪に顔を埋めてくる。
腹の前に回された腕に少し引き寄せられて、自分が一連のブツブツを、大人しく抱かれたままでしていたことに今更ながら気づいた。
そりゃあこの格好で滅入るだ何だと言っても説得力はないだろう。
「もう少し寝なよ。僕も休む」
どうもそうした方が良さそうだ。我ながら脈絡のない落ち込みとイライラをこれ以上口にするのは止めることにして、ロボの提案通り寝直すことにする。
目を閉じると不意に背中と腹に当たる体温をはっきりと感じた。言い合っている間もそれが欠片も動かなかったことを思いだし、動揺することがない相手に甘えて当たっていたような気がして、ふといたたまれなくなる。
だが、今になって謝罪にせよ何にせよ、口に出すのもタイミングを逃している。そもそも何と言うのか。
さっきとは違った意味で眉をしかめたディーンは、だが結局言葉は見つからず、困りつつ何となく腹に回されたサムの腕に小さく指で触れた。
サムは何も言わなかったが、回された腕がまた少し身体を引きよせ、後ろ頭に唇が触れてくる。
その温度にふと息をつき、ディーンは自分がほっとしたことを仕方なく認めた。
何もなく終わる。
というわけで、絵の力ってすごいですね。不本意ながら自分よりガタイのいい相手にすっぽり抱かれるのが嫌いじゃない兄貴。誰でもいいわけではないのですが、ロボは許容枠に入りこんだらしい。そして書きながら前のロボ本で自分が二人にどんなやり取りさせたがすっかり忘れてることに気付きましたよ…
9月に入ったので取りあえず一つ更新!
ムパラはクレトムかなー。
[31回]