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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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夏の夜店(淡々兄弟)

夏も終わりに近づいてきましたねー。
今年は一回もなまで花火を見なかったのが残念無念なのですが、先日近所であった縁日に行きました。子供の頃ほど食べ物にはウキウキしなくなりましたが、ちびちび飲みながらブラブラするのは楽しいですねー。

そんなわけで兄弟もたまにはぶらぶらするとよいよ!という小ネタ。






「週末、夜店があるから行かない?」
ある晩、シャワーから出てくると髪を拭きながらサムがそう言い、カウチで転がっていたディーンは
「んあ?」
と間の抜けた声を出した。
「貼り紙があったの見てない?毎年八月の最終週にあるんだ」
「ああ…そういえばな」
ハンター稼業の名残で、目に入ったものの記憶はいい。だが今は活用する必要がないのでインプットしたものは大半が使われないまま期限切れとなっている。


「毎年来てるのか?」
3杯目の飲み物を片手にちびちび飲みながら、ディーンが尋ねるのにサムは笑って首を振る。
「時々ね。一人で来ても空しいし」
街路樹やアーケードには電飾が飾られ、子供向けのゲームの屋台があちこちに出ている。
確かに知り合いの一人もいないで歩くのは居心地悪そうだ。
「この間のブルネットの美人はどうした」
「最近会ってないんだよね」
「…またフラれたのかお前」
「うるさいな。弁護士同士は難しいんだってば」
睨みながらケバブの店の前を通りかかったので串焼きを二本買い、食って黙れと押し付ける。
「お、くれんのか」
食べ物に意地汚いところは昔から変わらない兄があっさり受け取るとかじりついたので、やれやれと辺りを見回した。
色とりどりに着色されたポップコーン。口に入れるのに手を随分伸ばさないといけないような串焼き。アジア方面のものだろうということだけわかる不思議な匂いのする揚げ物。
子供の頃は、たまたま通りかかっても買い食いをするような余裕はまずなかった。一回だけ父親不在の夜にディーンとでかけ、うんうん悩んだ末に舐めているとシロップが出てくるスティック状の飴を買ってもらったのを覚えている。夜店の電灯に照らされて、キラキラ緑色に光って綺麗だった。
だがもちろん父には内緒のことだったので(金銭的にも安全的にも)、うっかり数日後帰宅した父にしゃべってしまったサムは、父と兄両方に酷く怒られたことを覚えている。
『しゃべるなよ馬鹿サミー!』
『そもそも悪いのはお前だディーン!』
縁日のしめくくりは父の怖い顔と兄の怒鳴り声だ。多分自分はわんわん泣いた。
あの時は見るものがとにかく夢のようにきらきらして見えて、しかし買えるものはほとんどなかった。
屋台の売り物くらい片っ端から買える経済力がある大人になってから、それこそ恋人と来たこともあるが、もう電飾の下で売られているものは着色料過多だったり、不衛生さや原価との差が目についたり、あるいは売っている人間が就労ビザを持っているかつい怪しんでしまったりと、祭り気分に便乗した胡散臭い場にしか見えなくなっていた。
「これ、なんだっけ。うめーぞ」
追憶は横からのモゴモゴした声に現実に引き戻される。一番長い串を買ったのに早いな、と思いながら振り向いたサムは、リスのように頬を膨らましたまま器用にしゃべるディーンにちょっと感心した。
そうだった。うちの兄は食いながら気にせずしゃべり続ける奴だった。そしてずいぶん良く伸びる頬だ。
「…あそこの中華屋台も美味いよ。かじる時気を付けないとスープで火傷するけど」
「へえ」
興味津々な顔をするディーンに、「食べる?」と尋ねる。あの熱いスープ入りの揚げ物は、さすがに口に入れながらしゃべれまい。
「いいけど、お前まだそっちの串食ってねーじゃん」
言われて気付き、自分用に買ったケバブを一口かじる。スパイスで味付けした羊の肉は久しぶりに食べると確かに美味かった。
「かじる時気を付けろよ。口の周りついてんぞ」
言われて振り返ると当の本人の口も端の方がスパイス色で、
「そっちこそ」
とちょいちょいと自分の口元を指して教えてやる。へらっと笑ったディーンは串を捨てるとその手で口元をごしごしこすった。サムもハンカチを出すと口の周りを擦る。黄色っぽい色がたしかについた。洗っても落ちにくそうだな、とふと思う。
「お、お前の好きそうなのがあるじゃねーか」
言われて指さされた方向を見ると、ピカピカと電飾を点けた、明らかに子供向きの菓子の屋台だ。
「よし、お返しににーちゃんが一つ買ってやるぜ」
「いらないよ!買うなよ」
抗議する間もなく素早くディーンは屋台を覗き込み、小さな紙袋になにやら持って帰ってくる。
「いらないってのに…」
押し付けられて覗き込むと、黄色と黒の縞模様が見えた。
「?」
摘まんで持ち上げれば20センチほどありそうなひも状のグミだ。毒蛇のような模様が泣ける。
「また悪趣味な模様を…」
「トカゲか蛙柄の方が良かったか?」
文句を言うのもばかばかしくなって、蛇の尻尾だか頭だかをかじる。ぷん、とトロピカルフルーツのような香料の匂いがした。柄と味が思いきり不似合いだ。食べてしまわないと手が空かないので、半分くらい一気にかじる。歯にくっついて粘るので、もう半分は諦めて上着のポケットに袋ごと突っ込んだ。帰ったら忘れないように出さないとポケットが砂糖まみれになる。
「ちょっと持ってて」
かじりかけの串をディーンに押し付けると、目を付けていたチャイニーズの屋台に向かう。何となく意趣返しのような気分で付け合わせの辛い調味料を山盛りにしてもらって持ちかえると「ほら」と押し付けた。
「旨そうだな。お前のは?」
「全部食うなよ。一つ残して」
押し付けて黙らせることしか考えていなかったのだが、そう訊かれると急に食べたくなってくる。合成アミノ酸とか、使い古しの揚げ油とか諸々分かっているのだが。
「一つ!?小鳥のような食欲だなサミーちゃんは」
けけけ、と嫌な笑い方をしたディーンが、丸い揚げ物に狙い通りケチャップかマスタードのように調味料をたんまりつける。
食べる気になったこと自体が驚きなんだと、言いかけて止めた。子供の頃を思いだすせいだろうか、それとも気象と空気の状態なのか、久しぶりに見て回る屋台はいつぞやの物哀しい感じが薄れ、何となくきらきらとして見える。昔ほどではないにせよ。
「------!!!!!!」
熱い揚げ物を辛味調味料ごとひと口に放り込んだディーンが声もなく悶絶するのに声を立てて笑った後、サムは報復回避のために緩和剤を押し付けることにして、目に入った甘い果実酒を買うために早足で歩いた。


終わり

ひたすら食べ歩く兄弟。




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