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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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暗闇で手をつなごう(同居クレトム11)

同居クレトム、記憶そーしつ事件の後の続き。
なぜかまた長めに・・・なぜだ。



どさどさどさ


「・・・大丈夫か?」
トムが気遣わしげな声をかける。
クレイも持ち帰った仕事の量を改めて見直して、正直目眩がしたが、根性でにっこり笑ってみせた。

仕事中の事故が原因で(記憶喪失になり)半月以上仕事を休んだクレイだが、無事に復職できた。まだ働き出して日が浅いわりに、職場の人間は皆、クレイが戻ることを信じていたらしい。そして仕事も急ぎのもの以外はクレイの復帰を信じてがっつり溜め込まれていたので、クレイは復職以来紙に埋もれている。
本来なら残業で帰れないところだが、トムを一人にしたくない(というか、トムと離れていたくない)クレイは、支障のないものだけでも自宅作業することにした。


ソファでテレビを見ていたトムは、ダイニングテーブルで仕事をするクレイの様子をちらちらと気にしていたが、やがて立ち上がって自室に向かおうとした。
「もう寝るの?」
クレイが声をかけると、トムが首を振る。
「いや。でも一人の方が集中できるんじゃないのか?」
「トムの顔見たくて帰って来たんだから、ここに居てくれた方が嬉しいんだけど」
口を尖らせて言うと、トムは苦笑した。
「女に言うような台詞だぞ、それ」
まただ。
クレイは心にカウントする。トムの頭の中では「恋人=女性」という公式がどうしても消えないらしい。
この間のような件があった後でさえ、トムは自分の位置をクレイの“恋人”とするのをためらっている。

なにがあっても一緒にいたい。
そんな風には言ってくれるのに。

小さな不満はあるものの、トムがクレイの視界に戻ってきたので満足する。
ソファにまた座ったトムは、今度はテレビを消して雑誌を読み始めた。

「そうだ」
書類と格闘しながら、クレイはふと思い出す。
「会社の人たちが、僕の復活祝いをしてくれるんだってさ」
「へえ。よかったな。いつだ?」
トムは雑誌から目を上げ、ちょっと目じりをくしゃっとさせて笑う。居心地のいい姿勢を探してソファでもぞもぞ転がっている姿は、なんとなく猫科の動物を思わせた。
「明日の夜。それで、トムも来たらどうかって言われたんだけど」
「俺?なんでまた」
トムがぐいっと腹筋だけで起き上がった。目を丸くしている。
「この間の事故のとき、病室で上司に会っただろ?ルームメイトにも心配かけただろうから、だってさ」
書類片手に肩をすくめる。
トムは何回か大きな目を見開いてパチパチと瞬きをしたが、
「やめておく・・悪いな」
と、静かに言った。うん、とクレイは頷く。さすがにその場で断るのは不自然だったので都合を聞いてみる、と持ち帰ったが、トムの持つ事情からして、受けるわけも無かった。

ちなみに、「電話で別れ話をして、クレイが荒れた原因になった恋人」と、「病院に一人で迎えに来たやたらと目を引く同居人」が、同僚達の間でしだいに一致させられつつあるのだが、クレイは特に否定もせず放っておいている。
別段、出世をしたいわけでもないので、首にさえならなければ、ゲイだという噂がたって多少白い目で見られようとも知ったことではなかった。

 

 

夜も結構遅くなって、クレイの自宅残業は終わった。
「終わった・・・・・・!」
書類の束をファイルに入れて鞄につっこみ、思い切り伸びをする。
ついでにソファで何冊目かの雑誌をめくっていたトムによろよろと近づき、腕を回して抱き込んだ。

「やっと片付いたよトム・・・・」
後ろから首筋に顔を埋めて息をついた。
「お疲れ。すごいな。あの山を片付けるなんて」
柔らかくトムはクレイをいたわり、腕を上げてその髪を撫でた。
自分でも意外だ、とクレイ自身も思う。今までの自分は別にそれほど不真面目ではなくても、必要以上の仕事を持ち帰ったりする性格ではなかった。
トムとこの家に暮らしだしてから、今まで持ったことの無い義務感や責任感を生活自体にも、職場にも感じ出しているのがわかる。
トムに不自由が無いよう、必要な限り仕事を続けられるよう気を配り、いざという時に多少の無理が聞くように普段の態度を真面目にする。
トムが家の周辺で不快な思いをしないように、いざという時には防波堤になれるように周囲とそつなく関わる。

先日の件で記憶が戻った後、何かの折にホイットニーと電話をしていてしみじみと言われた。
『大事な人がいるとフラフラ兄さんも変わるのねえ・・・』
フラフラとはなんて言い草だ、と思ったが、反論する言葉は見つからず、結局
「そうかも」
と神妙に応えるしかなかった。


「風呂入ってきたらどうだ?」
そういって、トムが肩を軽く叩く。

そうしよう、と思いつつ、不意に外に行きたくなった。
トムと夜の街を散歩するのも悪くない。
「ちょっとだけバーに行かない?」
誘うと
「今からか?」
と目を丸くされた。

ほんの数ヶ月前までの二人は、日付が変わるまで酒場にいることも、夜通し車で走ることも珍しくなかった。それこそ野宿も。
トムがすっかりこの家で過ごすことに慣れてくれたのが嬉しい。気が向けば夜中だろうと明け方だろうと飛び出すことがしょっちゅうだったのに。

 

自宅から徒歩でいける範囲のバーを目指してぶらぶらと歩く。
「手をつながない?」
と言ったら
「そりゃさすがにないだろ」
と、あっさり振られてしまった。


そしてちょっと1杯飲んで帰る予定だったのに、クレイは仕事先の女性グループに遭遇してしまい声をかけられた。
ひきつるクレイに、トムはあっさり「行って来いよ」と手を振った。

 


     ※      ※       ※

隣からクレイの背の高い身体と体温が消えると、唐突に人込みの中で孤独を感じる。
一人で酒を飲むのは久しぶりだ、とトムは思った。


病院の壁の中に閉じ込められていた時、もう一度他人に管理されずに暮らすことができるなら、他に何もいらないと思っていた。

自由になって故郷に帰ってみると、10年前の事故を許さない周囲の目が辛かった。
逃げ延びることだけが生きる目的になった。
逃げるうちに今度は孤独が辛くなり、そして今、クレイにしがみついている。

自分で振り返ってもどうしようもない。

ため息が出そうになり、酒と一緒に飲み込む。

クレイに目を向けると、気遣わしげにこちらを見ている顔と目があった。
大丈夫だ、とまだ中身のあるグラスを少しかかげると、にこっと音がしそうな笑顔が返ってくる。途端に浮上する自分が可笑しかった。

今、自分は自由で、ハリーに乗っ取られる不安もない。
追われるトムの過去を知りつつ、一緒に居てくれるクレイがいる。
上出来だ。
これ以上は望めないほど。


肩の力を抜いて周囲を見回すと、こちらを見ている女と目が合う。とっさに視線を外すが、あれは来るなという予感通り、グラス片手に近付いて来た。
「ハイ、一人なの?」
スレンダーな体つきに長いブロンドが微かに昔の恋人を思い出させた。が、意図的に素っ気なく応える。
「いや」
「待ち人が来るまで話さない?」
「もうそこにいる。悪いな」
クレイを見ると視線が合った。まだ解放してもらえないらしい。
気にするな、と笑いかけると
「彼、友達?」
と隣から声がした。まだいたのか、と振り向くと、別の若い女だった。癖のあるブラウンの髪と、つんと尖った鼻がなんだかクレイを女の子にしたようで、思わず微笑んでしまう。と、見る見るうちに相手の首筋に血が上り、トムは内心でしまったと思った。
案の定あれこれ話し掛けてくるのに閉口しつつ、クレイを探すと、いつの間にか姿がない。
「もう行くよ、じゃあ」
いい機会なのでそのままカウンターを離れた。混んだ店内を見回していると、ふいに腕を引かれる。
振り向くとクレイの顔があって、トムはほっとして笑った。
だがクレイの表情は固いまま、トムの腕を引く。強い力でそのままレストルームに連れ込まれた。
「クレイ?」
聞くが黙ったまま押さえ込まれる。冷たい壁を背に感じながら噛み付くようなキスをされた。
「ちょ・・こんなとこで・・」
顔をそむけようとすると、クレイがいらだったように追ってくる。
諦めてトムは力を抜き、クレイの好きなようにさせた。逃げないことがわかったのか、クレイの動きも穏やかになる。
少しナーバスになっていた神経に、キス自体は心地よくて目を閉じた。
「どうした?」
唇が離れたので見上げると、クレイは何だか困ったような顔をしている。
「・・・や、なんか楽しそうに話してるから」
「・・・うん?」
クレイがなんのことを言っているのかよくわからない。
いつの間にかクレイの背にしがみついていたトムは、どのタイミングで手を離そうか悩み始めた。
なにせ場所が場所だ。
「トムは僕と付き合ってるんだからね」
「そうだな」
なんだかくすぐったい響きに照れてトムは笑った。
でも、クレイはますます情けなさそうな顔になる。
「浮気したらだめだよ?」
「しないぞ」
お前のそばにいることだけが望みなのに、するわけがない。
「・・・心配だよ。ちょっと離れただけなのに、あっという間に人が寄ってくる」
「俺にその気がないんだから意味無いだろ」
「そうだけどさ・・」
眉を下げてしょげているクレイは、なんだか酷く可愛いな、とトムは思う。
「なあ、もう抜けられるなら帰らないか?」
掴んだままのジャケットを引っ張って提案してみた。
「俺、もっとちゃんとお前とキスしたくなった」
言うとクレイの頬に血が上り、もう一度顔が近づいてくる。とっさに手のひらでブロックした。
「便所ですんのはやだぞ」
いつ、誰が入ってくるかも分からないし。するとクレイはなんだかがっくりと俯き、
「そうだね、帰ろう」
と同意してくれた。


帰り道、隣を歩くクレイに聞こえるか聞こえないかの声でトムが言った。
「手、つなぐか?」
瞬間、ぽかんとした顔をしたクレイは、次の瞬間顔全体で笑って
「うん!」
と応えた。
店の灯りもポツポツ消えかけた街で、手をつないで歩く。
これって恋人つなぎってやつか?
と、トムがぼそぼそ呟くと、
恋人だからいいんだよ!
とクレイがまた笑った。


この後、本当にキスだけ山ほどしてなぜか先に沈没したトムを前に、クレイは明け方まで悶々とすることになったりする。


おわり


トムは悩むと疲れやすいのです。悪気はありません。男性心理も分かってるはずです・・・多分。
翌朝爽やかに起きてから、あわあわするのでしょう。でもそれでトムがデレデレするからまあいいか、と。

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