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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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大雨の酒場

さっきすごい通り雨(雷雨)があったんですよ。
お店の人は大変だろうなあ。






夜には雨が、と天気予報は確かに言った。
雷が鳴るところもあるだろう、とも確かに言った。

しかしまさか、夕方にもまだ間があるというのに空が真っ暗になり、文字通りバケツをひっくり返したようなこんな大雨になるとは思いもしなかった。
「これは、誰も来そうもないね」
「だろうな」

雨漏りしそうな窓から外を見ながらサムが呟くと、グラスを磨きながらディーンも頷いた。
こんな傘も役に立たなそうな天気では、それこそプロポーズの約束でもしていない限り、外出を取りやめて部屋で過ごした方が賢明だ。勤め人ならまっすぐ家に車を向けるに違いない。


「飯をなにか買って来ればよかったなあ」
グラスを置き、首を回しながらカウンターの中でディーンがぼやいた。いつもだと客の相手をしながら少し手の空いた時にどちらかが買いに行ったり、あるいは事務所から帰ってくる途中でサムが買ってきたりすることが多いのだが、生憎今日は日曜でサムはずっと自宅兼店の周辺でウロウロしていたし、ちょっと買い物どころか一歩も出たくない土砂降りだ。

「何か作ろっか」
だからサムがそう提案したのは、実に自然な流れではあったが、至極珍しいことでもあった。優秀な学生で有能なハンター、そして現在は有望な弁護士であるところのサム・ウィンチェスターはだが、こと料理に関しては自炊が当たり前の独身男生活において、一応存在意義が認められる程度としか言いようがない。
決して味覚音痴というわけでも料理下手でもないのだが、必要最低限のことしかしないのだ。
缶詰を温め、パンを焼く。以上終わり。
しかし、今現在この小さな酒場の中に即席の食べ物はなく、ディーンは非常に久しぶりに真面目に料理をする弟を見ることになった。


40分後
「おい、まだやるのかよ」
暇そうに携帯端末を見ていたディーンが呆れたような声をかける。
サムは、先ほどから延々と切り刻んだ大量の玉ねぎを炒め続けていた。
「ベースをちゃんとするかどうかで味が全然違うから」
きりっとした顔でそれらしいことを言うが、普段は缶詰を鍋にあけるか、缶ごと温めるしかしない奴なのであまり説得力はない。脇で見ていてもフライパンから溢れそうだった玉ねぎはとっくの昔に原型をとどめず、茶色く縮み切っている。
そういえばエレンが昔そんなことをジョーに言いつけているのを聞いたような気もするが、死ぬほど暇でなければする気もしない話だ。ちなみにディーンなら暇でもしない。
しかしながら極端に完璧主義らしいサムの粘着的努力は無駄ではなく、雨に閉じ込められた店内には、何やらウィンチェスター家の食卓ではあまり嗅がないような類の香りがただよってきた。

「できたよディーン」
「…旨そうだな…」
うっかり何のひねりもなく返してしまったが、サムが得意げにかき混ぜている鍋の中身は兄馬鹿を発動させるまでもない出来だ。ほら、とつまみ用の小皿で味見をしろと差し出され、思わず口笛を吹きそうになった。
「すげえなサミー」
褒められて珍しくサムが素直に笑う。
「久しぶりだったけど、結構うまくできた。大量に作ったから夕飯たべたら残りは分けて冷凍しておこうよ」
「いいな」
パンはないが、つまみ用のクラッカーを添えればいい。
スムージー用の野菜を添えればサムの大好きなヤギのエサも完備だ。
「食ったらもうさっさと閉めるか」
「だね」
何となくクスクス笑い合いながらカウンターの中で食べ始めたその時だ。


「ひでえ雨だ!!!」
むさ苦しくずぶ濡れの物体がいきなりドアを開けて飛びこんできた。
「………」
なんだお前、とは辛うじて言わなかったが、「いらっしゃいませ」は商売修行の足りない兄弟どちらも咄嗟に口にできなかった。
強い酒をくれ、とカウンターで身を乗り出してくるハンターに、
「いいけど、まず上着の水をしぼってくれ」
とサムが顰め面で返す。天気が悪いので実感はないが、どうやら時刻は夜に突入したらしかった。


うっかりしていたが、プロポーズを控えた恋人たちや勤め人ならこんな天気の夜にこんな酒場に足を向けるわけもないが、そう言う人種はもともと客層にいない。そしてハンターというのもプロポーズに負けず劣らず『どうしてもこの時間にあの店に行かねばならない』用事を作りがちな人間だった。
その後も次々に見たような顔が床をびしょびしょに濡らしながら入ってくる。そして酒を頼みつつ店内に立ちこめる食べ物の香りに、食わせろ、ひとつくれ、という声が次々に上がった。
「いや、これは店用じゃないから」
「そう言うなよ、朝からほとんど食ってないんだ」
こんな匂いを嗅がせておいて売らないなんて殺生だぜ、と粘るハンターに思いきり胡散臭い顔を向けた後、サムはため息をつきつつ振り返り、ものすごいスピードで自分の分を飲みこみ終わったディーンに、『どうする?』と目顔で尋ねる。ディーンは無言で親指を立てると弟の苦労の結晶をほめたたえ、続いて『思いっきりふっかけろ』と目顔で伝えてくる。
頷いたサムはカウンターにベッタリ張り付く客に向き直り、
「さっきも言ったけど売りものじゃないんだ。どうしてもって言うなら…」
と通常出しているつまみの10倍くらいの値段をふっかける。はっきりいって売れなくて結構なので超強気だ。

だが。
ハンターというのはある意味金に糸目を付けぬ人種だった(たぶんどいつもこいつも宿の払いは偽造カードだ)。
「足元見やがって」
と言いつつカウンターに金を出すので、吹っかけておいてなんだがサムは呆れて言う。
「食事をしたいならダイナーに行けよ。半分以下でたっぷり食べられる」
「店がやってて、入れりゃあそうするさ!」
言われてなるほどと納得する。びしょぬれでも善良そうな市民なら違うのかもしれないが、ハンター生活の長い兄弟でさえ、うっかり追いだしたくなるような「むさ苦しい+ずぶ濡れ+床を濡らして平気で動き回る」物体だ。
「…ならどうぞ」
多少の同情と共に午後の労作を皿に盛り、スプーンを添えて出してやる。
「パンかなんかないのか」
「クラッカーがあるけど。別料金だよ」
先ほど夕食用に封を切ったとは勿論言わないのだ。

需要と供給の力は恐ろしいものがあり、一週間くらい楽しめる予定だったサムの執念の料理は、雨が止む前には馬鹿高い値段で売り切れてしまった。

「さっさと閉店しておけば良かったな」
辛うじて自分の分は確保したディーンが気の毒そうに言ったが、その日の売り上げを数えながら、兄弟はまたしても無言になる。

だが、他のダイナーが営業して居ればもちろん味値段とも競合など考えるだけ無駄なので、サムのやたらと時間のかかる料理はその後酒場に出現することはなかったのだった。






最初と予定が変わったけどもう終わる。
久しぶりの酒場兄弟




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