忍者ブログ
海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
カレンダー
11 2025/12 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
カウンター
アクセス解析
プロフィール
HN:
おくら
性別:
非公開
自己紹介:
二次元、三次元問わず楽しいもの大好き。
常に読むものが無いと苦しい活字依存症。
ブログ内検索
P R
バーコード
アクセス解析
[84]  [83]  [82]  [81]  [80]  [79]  [78]  [77]  [76]  [75]  [74

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

急がなくていいよ3 (同居クレトム10)

記憶喪失クレトムの続き。長いです。



なんだかおかしい。
日が傾きかけた部屋で、クレイはシチューの鍋をぐるぐるとかき回しながら、ぐるぐるしていた。


記憶を無くす前夜、一緒に過ごしていたのはトムのはずだ。トムもそれを肯定したし、自分達がいわゆる“つきあっている”ことを認めもした。
に、しては。
昨日の夜。トムの腕を引いて部屋に行ったはいいものの、その後成り行きがなんともぎこちなかった。
トムの方もなんだか慣れない様子だった気がする。

金の髪と翠の瞳と。
意外に丸みのある肩と。きれいな眉から鼻のラインと。
気になって仕方ないそれを手に入れると同時に、なにか思い出せるような気がしたのだが。

はあ。
ため息をつく。
「どうした?」
横からひょい、とトムが鍋を覗き込む。
「ちゃんとできてるから大丈夫だぞ」
どうも、シチューの出来で悩んでると思われたようだ。

「そっちこそ大丈夫?」
顔を向けずに尋ねる。
「なにがだ」
トムの声は穏やかだ。
「昨日・・・さ、・・ごめん。あんなことまで忘れてると思わなかったんだ」
抱きしめている最中に一回だけ呼ばれた声が、耳について離れない。

『クレイ』

自分のことなのに、他人を呼んでいるようで、ああ、記憶を無くす前の自分のことなんだと思った。


「大丈夫だ。いつもあんなもんだぞ」
「へ?」
我ながら間抜けな声だ。
「でも、つきあってるんだろ?」
「最近な」
「じゃあ、その前は?」
「・・・親しい同居人?」
なんでそこで疑問形になるんだろう。

「俺は、別にもっと前からでも良かったけど、お前がな。ちゃんと付き合ってからにしようとか、すぐ身体ってのはどうとか気にして」
「そうなんだ・・・」
「どちらかっていうと、朝まで一緒にいたい、とかこだわってたな」
「へえ」
茶化すような口調で、でもトムの表情は柔らかくほころんでいる。
「それにしちゃ、昨夜自分の部屋に戻っちゃったよね」
シチューをよそいながら、ちらっと指摘してみる。
クレイとしてはできるだけ前の自分をなぞる行動をしたいのだが。
「だって、暑いだろ。ベッド狭いし。寝るときもあるけど、俺はもともと起きてたら部屋に帰ってた」
あっけらかんと言われると、そんなものか、と思ってしまう。別に気まずい去り方ではなかったのだ。それに確かに落ち着いて寝るには狭いベッドだった。


容姿も声も、すぐ惹かれた。
記憶がなくても、触れてみたい相手だと思う。だけど、自分があえて触れるのをためらうような、それよりも朝まで一緒に眠りたいというような思いを抱いていたことはさっぱり思い出せなかった。
 

たぶん、とても大事だったのだ。この男が。


「ちょっと外出してくるよ」
食事の後、声をかけるとパソコンに向かっているトムが頷いた。


家からあまりはなれ過ぎないようにぶらぶら歩く。多分、仕事が終わった後の自分がこの辺を通るなら夜が多かったはずだ。
特に記憶にひっかかるものもなく、2ブロックほど過ぎた。
トムの話だと、この街に落ち着いてまださして時間はたっていないらしい。だとすると無理も無いことなのだろうか。

ふと、思いついてクレイは携帯を取り出した。
ほんの数日前に登録した番号を呼び出す。


『クレイ?どうしたの、何か思い出した?』
急き込んだ口調に、申し訳ない気分になる。
「ホイットニー、突然ごめん。怪我をする前のことなんだけど、君と僕はよく話をする兄妹だったかな」
『どうしたの急に』
「トムと僕のいきさつについて、なにか知ってる?」
『・・・そういうのはトムに聞いたほうがいいんじゃないの』
ふと、声が固くなった気がした。無理もないのかも知れない。
足を止めると、ちょっとした広場まで来ていた。ベンチがあったので腰を下ろす。


「なにか、事情がありそうで・・。なんだか浮世離れしてるし、何で親しくなったのかとか」
『ますます私から話す内容じゃなさそうね。ここ数年、私よりトムの方がずっと兄さんに近いのよ』
はあ、と受話器の向こうでため息が聞こえた。
「ホイットニー?」
『忘れているとはいえ、兄さんの声でそんな話をされると変な感じね・・・』
「トムには感謝してるよ。彼はすごく良くしてくれてるし、でも彼といると、どうしていいかわからなくなるんだ」
『・・・・実家から持って来た兄さんのアルバム類があったの。あとでそっちに送るわ。それからその他の資料も』
「資料?」
『そう、資料』
「何についての?」
『見れば分かるわ』

 

 

ホイットニーから送られてきたのは電話通りのアルバムと、新聞記事の切抜きだった。
キャンプ場で多数の死者を出す殺人事件があったこと。行方不明だった女性が発見されたこと。
新聞からの切り抜きは少数で、多くはタブロイド誌のものだ。ホイットニーや自分の写真が載っている。
印象は猟奇的殺人事件。または都市伝説。
現実感なくパラパラと見ているうちに気分が悪くなってくる。


「何か思い出したか?」
トムの声にクレイは黙って首を振った。


       ■

どさどさ、とトムが車のトランクに何かを積んでいる。
柄の長い道具だ。刃が見えた気がしたが、気のせいだったのかもしれない。


「出かけよう」
ジャケットを着込んだトムがクレイを促す。
「どこに行くんだ?」
「行けば分かる」
普段から口数は少ないが、表情が固い。
「僕の記憶に関係するところ?」
何となくためらいながら聞くと、
「他にないだろ」
と苦笑された。


車は山に入っていく。奥に入っていくに連れて、トムの顔色が明らかに悪くなっていった。
助手席からちらちらと伺うと、微かに汗を浮かべ、呼吸も荒くなっている。
「トム」
不安にかられて声をかけると
「なんだ」
と視線を前に向けたまま返事が返ってくる。
「気分が悪いんじゃないのか」
車は山道を随分入ってきた。今頃気づくが、トムの車は街中よりは山道を走るのに向いたタイプだ。
「熱でもあるんじゃないのか」
言外にそれなら帰ろう、という意味をこめてみる。
「体調じゃない・・・山は、苦手なんだ」
歯を食いしばるようにしてトムが応えた。苦手なんてレベルを明らかに超えている。
「運転を代わろう。その様子じゃ危ない」
「お前の方が危ない」
クレイの記憶に関わる場所だから、という意味だろうか。
「覚えてないんだから平気だよ」
「・・・それもそうか」
呟いてやっと車を止めた。席を交代してハンドルを握る。
「道なりに走れ。もう少し行くと、キャンプ場の表示がある。そこを左折だ」
助手席でトムが呻くような声で言った。



湖畔に着き、車を停めるて降り立つ。
トムの様子が心配だったが、途中よりも却って落ち着いた様子だった。


「何ここ?新聞記事にあった所?」
問い掛けて振り向くと、トムの姿がない。仕方なく湖に視線を戻した。


濃い緑と湖。
そのどうということのない風景に、突然、先程見た記事が重なる。


『キャンプ場の惨劇』
『大量の遺体』
『行方不明の女性』


静かに見える水面。と、突然水が跳ねて、何かが飛び出した。
その瞬間、何かが弾け、瞬時に連鎖してつながっていく。


怖い

行きたくない
でも探さないと
誰を?

妹を

誰もあてにならない

ホイットニー
どこにいる?

恐怖

追ってくる
奴が


はあっと息を吸い込んで辺りを見回す。
誰もいない湖。

油断は出来ない
奴はどこだ
ホイットニー
探さないと
僕は一人だ
誰も助けてくれない
怖い


背後で物音がして振り返る。

男が立っている
手に持っているのはなんだ
鉈・斧・ナイフ・ボウガン・ありとあらゆる血を吸う物

どっと湧く笑い声

切り貼りされて自分の言葉じゃないようなインタビュー

胸糞悪い

売名行為?くそ喰らえ。ここに来てこの有様を見てみろ。

目がくらむ
焚かれるフラッシュ
ホイットニーが泣いている
またフラッシュ


暗い湖
廃屋
光る金の髪
伏せられる碧


トム


トムが長い柄のシャベルを持って立っている。

ゆっくり腕を持ち上げ、近くの木にそれを叩き付けた。


「まだか?マスク被って追いかけないと駄目なのか!?」
珍しい怒鳴り声。思わず笑いが漏れる。
 

「奴と全然巾が違うよトム。」
 

トムがシャベル片手に目を丸くする。可愛い。
木陰に佇んでいるその姿に近づく。
「それに、なんでシャベルなの?」
「・・・俺がうっかり変になって、お前を殺したら嫌だし、お前がかっとなって殺されるのも困るし」

「トムはもう大丈夫だよ。ハリーはもういないんだし」

「あんまり大丈夫じゃないぞ。お前が俺を忘れるから」

睨みながら言われて、ふいに時間の経過に気付く。

「ごめん!いま、思い出したから全部!」

「遅い!お前、何日たったと思ってるんだよ」
「え、え、えーーーと、1週間くらい?」
「10日だ!」
トムがシャベルを放り出して肩に顔を押し付けてきた。思いっきり抱きしめる。
こんなに不安定になっている彼を、なんで落ち着いてミステリアスで近づきがたいなんて思ってたんだろう。ちょっとさっきまでの自分を締めてやりたい。
 

「ごめん、トム。ほんとにごめん。心配かけて」
「・・・もう、どうしようかと思った。お前、俺を不審そうな目で見るし、近づいてこないし」
「いや、そんなことは全然思ってなかったんだけど・・・」
「俺がお前を見ると目を背けるし」
「いや、それはないから!」
「誘ってきたと思ったら、ものすごくそっけないやりかたするし」
「いやいやいやいや!え?でもトムいつもあんなもんだって言ったじゃん!あ、それに部屋に帰っちゃうし」
「しかも、1回寝たら懲りたみたいで指一本触れなくなったし」
「懲りたんじゃなくて自信喪失したの!」
 

半分抱き合ったまま怒鳴りあう。
少し、間があいた後、トムがポツリと言った。
「俺は、ずっと思い出さなくてもお前といたかったけど、お前が不審そうな目で見るから、いつ、お前が出て行けって言い出すか心配だった・・すごく」
「そう思うならさ、最初からはっきり『恋人だ』って言ってよ。空っぽになった頭にもわかるようにさ」
「・・・・俺だったら記憶を無くしたとき、男から『恋人だ』って言われたらかなりショックだと思う」
「僕は言うよ。ショックでも現実を受け止めなきゃ」
「クレイは・・・そうだな、言ってくれ。はっきり」
そっと離れながらトムが少し笑った。こすりつけたのだろう、鼻の先が少し赤くなっている。ごめん、と思いながら口付けた。

「なあ・・・」
「うん、帰ろう」
冷静になってきて、そろって青くなる。
山の中の湖。トムにとってもクレイにとっても長居したい場所ではなかった。


帰りの車の中。
「ねえトム」
「ん?」
「今日、トムの部屋行ってもいい?」
「いいけど・・珍しいな。最近お前の部屋の方が多かったのに」
「さすがに自分の部屋なら朝まで出て行かないだろ」
ふざけた口調で言うと、トムが吹き出した。
「ばあか。さすがに今日はお前の部屋でも帰らないぞ。いるよ・・ずっと」
横目でちらりとクレイを見て笑い、トムはアクセルを踏み込んだ。

帰ろう。早く。


END

ホイットニーには後で電話しました。
ついでに諸々の資料を「そっちで保管してて」と頼んで怒られます。
でも、逃げる時持っていけないと困るしね。
ああ長かった。読んで下さった方、ありがとうございます~


拍手[16回]

PR

お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
非公開コメント
この記事にトラックバックする:

忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne