久しぶり過ぎてカテゴリが何だか忘れたぞ兄弟酒場。
えーと、今日はわちゃわちゃ仲良くしてる兄弟ということで。
「仕入だろ、電気代だろ、家賃だろ、改装費だろ…あ、畜生ペンキのレシートどこだ!」
「広告費、スーツ代、………家賃を払ったことにしようかな。ねえディーン、場所の使用料払おうか」
「ちょっと待て、こっちの純利益出してからだから黙ってろ」
引退した兄弟が細々と営んでいる小さな酒場は今日は休みで、とても珍しいことにディーンはさっきからレシートの山と計算機を相手に、サムはパソコンに向かいながら双方ブツブツ言っている。
何かと言うと税金計算だ。
真っ当な商売をするということは、利益が出れば納税をするということだ。
「うへえ」
と顔を歪めるディーンと対照的に、
「市民の義務だよ」
と最初ワクワクした表情だったサムなのだが、ネット上のソフトで納税金額を計算しだしてから次第に口数が少なくなっている。どうも、いざ具体的な金額が出るとそれなりに衝撃を受けるらしい。
なにせ居酒屋の隅を事務所として、情報サイトに広告を出したくらいで、ほとんどの集客は口コミだ。移動も自転車を使ったりしていたのが災いして、要は経費がものすごく少なく、結果としてがっぽり税金に取られる。
「………脱税したくなる奴の心境が少しわかった気がする…」
計算結果を見ながら呟くサムに、
「今頃か。俺は誰かが取りに来るわけでもねーのに自分から払う奴の気の方がわかんねーよ」
だが、うちはキャッシュオンだからなー、伝票なんてねーんだからまあ何とでもなるぜははははは
要は売り上げをごまかすぜと言うディーンの発言なのだが、今日のサムはそれを咎めない。
眉間の縦ジワを少し揉んだ後、
「……店の方が大丈夫だったら、家賃払わせてよ。焼け石に水だけどないよりましだ」
と、振り返った。だが、ディーンが珍しく弟に道徳的指導をする。
「だめだ。借りるときまた貸し禁止だって言われただろうがよ」
「でも、看板出してるよ。ネットにも載せてるし」
「それより、俺に電話番させてんだから人件費にしろよ」
「え」
「俺はものすげー手際がいいから、店の仕事をしだすのは開店15分前だ。朝早くから夕方までお前のくるかこねーか分からない電話番をしてやってんだから」
それを聞いたサムが何となく目をキラキラする。
「うん!そうするよ。ディーンに高給を払う! あ、店も僕に夜のバイト代払う?」
「うちの店はかつかつでそんな余裕ねえよ」
「それはいいね!!」
わいわいと盛り上がった兄弟だが、サムが実に高い給料をディーンに払うことにしたため、今度はディーンが被雇用者としても納税をしなければならないことになり、盛大なブーイングを受けたサムは、謹んで従業員である兄の納税手続きを代行することになったのだった。
つまりは酒場も事務所もそれなりに儲かっている引退兄弟であると。
[34回]
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