幼馴染でもあり、営業部から引っこ抜いた第一秘書にセクハラをしまくった挙句、結婚にまで持ちこんだロボサム社長。
「結婚までしてやったんだからもういいだろ。俺は絶対に営業の方が向いてるんだ。戻せよ」
とディーンは言うが、完全黙殺。
周囲も避雷針を他所にやれば、ロボサムの無差別爆撃の被害がまた増えることが分かっているので、良い顔をしない。
「君は有能な営業だが、社長の被害を軽減することはさらに大きい社への貢献だ」
「俺のやりがいはどうなるんです」
諦めきれずに元の上司に訴えるが、食えない親父の微笑みは
(お前の満足より多くの安全)
と雄弁に語っていて、ディーンとしてはがっくりすること限りない。
「まだ諦めてないのか。未練がましいなあんたも」
社長室に戻ると、ボビーと出かけていたサムが戻っていて、見透かしたような顔で口を歪める。
「無能無能と毎日聞かされるのは胃に悪いんでな」
ふん、と言い返しながら上着をしまうと、昼休みに入るボビーとカスティエルを見やりながらサムが、
「その割には毎食良く食ってるじゃないか」
と言いながら立ち上がる。
「消化が悪くなるって言ってんだ」
深く考えず言い返す。気が付くと立ち上がった長身が至近距離に来ていて少し驚いた。
「おい、なんだよ」
「昼休みだ」
そう言いながら腕を回してくる。
だからなんだ、と思うが、残念なことに数日前に仕事中にちょっかいを出されて、最低でも昼休みまで待つとかできないのかと上司(結婚相手だが)をくそみそに貶したことを覚えているので何となく叩き落としづらい。そして髪や額に唇が触れるのを感じると、動けなくなってしまうのはディーンのなかなか治らない弱みだ。サムはもちろんディーンが弱い触れかたを分かった上でやっている。寝ている相手でも怒らせる普段の無神経な言動を封印し、穏やかで軽いキスを繰り返す。
いつのまにやらしっかり抱き込まれて、頬が触れると不覚にも深い息をついてしまった。サムは黙ってスーツの背を撫で、髪に唇を落とす。
「おい」
「ん?」
なんだかまずい気がして声を絞り出すが、軽くかわされて触れるだけの接触は続く。
そうなのだ。ディーンは黙ってこういう風に触れられると弱いのだ。何か知らないが前からそうで、もういい加減それどころじゃないことを山ほどしているというのに、いまだに変わらない。
家に帰ってからにしろよ、
そう言うべきかとちらりと思うが、それも何やらねだっているように聞こえたら業腹だ。
サムの首筋に顔が近づくと、微かにコロンが香る。付けすぎないのは結構なことだ。
鼻が触れあい、角度を変えてはキスを繰り返しながらぼんやり思う。
と、突然ノックの音がしてディーンはハッとサムに凭れていた身体を離す。
「戻りました」
「入りますよ」
出かけていたボビーとキャスの声だ。もう帰ったのか、と思いつつ時計を見てぎょっとした。貴重な昼休みが半分以上過ぎているではないか。
「昼メシ!」
「胃が痛いんだろ」
「痛くても食うだろうが!」
思わず怒鳴ると腹がぐうとなる。
数分後、昼休みの終わり際にデスクで軽食を口に突っ込む社長と秘書を見かけた取引先が、
「忙しそうですねえ」
と呟いたが、第二、第三秘書はだまって微笑むのみだったという。
終わる!ぼくはギリギリノック企画をしているわけじゃないんだ。
余裕をもって0時には寝る生活をしてもいいんだ。明日はもっと早くあげたいなー
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