「FBI?」
サムは受付の言葉に意識して怪訝な声を出す。
人生トータルで見れば意外でもなんでもないが、今現在突かれて痛いところはない。
「よう、お邪魔するぞ」
振り返った入口に、見覚えのある体格のいい捜査官が立っていて、サムは意識して取り澄ました笑顔を作ってみせた。
ビクター・ヘンリクセン。
サムとディーンを目の敵にして追い回してくれた捜査官だ。
「何の御用でしょうか」
この男に逮捕されて刑務所送りになったこともあるが、あれはある意味サム達がFBIを利用した事案だった。大学に戻る前にかなり無理な手も使ったが、公になった問題については処理済みでもある。
「最近はまっとうな暮らしをしているようだな。結構なことだ」
わざとらしく事務所の中によく聞こえるような声を出す相手に、常識的に当然な程度の不快な顔をする。
「過去に関わった対象がまっとうな仕事をするのは生意気で目障りだから、わざわざつぶしに来たということですか」
そう言うと頭は固そうだが悪気はない捜査官は、面倒臭そうな表情で肩をすくめる。
「FBIはそこまで暇じゃない」
「それはよかった。ではご用件をどうぞ」
一転して事務的に尋ねる。
「兄貴とは最近連絡を取ってるか?」
それもまた想定内だ。
まじめな学生は家族に巻き込まれて履歴にシミを付けた。
駆け出し弁護士を後ろ暗い過去で強請りたかったのかもしれないが、あいにくと過去のあれこれは世間で理解しやすい形でオープンにしているので、弱みにならない。他人にさらすことを前提に整えた履歴に絡んでくるなら、格好の話のタネだ。
とっていますとも、色々あったとはいえ、たった一人の家族ですよ。
兄の「仕事」にはもう関わっていませんが。ええ、もう数年になります。
逮捕状でも出たんですか?そこまでには至らない。へえ、それで善意の通報を求めると。
いや、わかりました。兄から連絡があったら、あなたのところに行くように伝えますよ。
露骨に適当なあしらいをして捜査官を帰し、自宅に帰ってからサムはディーンの携帯を呼び出した。
「ヘンリクセンって覚えてる?」
『あの血圧高そうな野郎か』
兄の言い草に噴き出すが、笑ってばかりもいられない。
「事務所に押しかけてきたよ。気を付けて」
そう言うと、電話の向こうの兄は『あーー、』と妙な声を出す。
「どうしたの」
怪訝に思って訊ねると、
『あいつも変なのに絡まれたから薄々気づいてるんだろうなあ』
「ふうん」
そんなやり取りをした数か月後だ。
「またですか」
ずかずかと偉そうなFBIはまたサムの事務所にやってきた。
「今日はなんの御用で?」
迷惑そうな顔を隠さずにサムが尋ねると、くたびれたコートを羽織った捜査官は、内ポケットから小さな包みを出した。
「ディーンからだ」
「は?」
「リリスって新しい悪魔が動き出してるから、お前にも用心するように届けてやれとさ。人使いの荒い野郎だ」
「…兄から話を聞いたのか」
「ここ20年あまりの話はな。こんな事態でお前が手を引いたのだけが理解できんが」
…この転身ぶりはなんだろう。
もしかして悪魔が唐突に乗り移ったんだろうかと聖水をカップにたらしつつディーンに電話をかける。
「ディーン?例の捜査官があんたからの荷物をもってきたんだけど」
『ああ、ビクターか?はええな』
あんたいつの間にファーストネームで呼ぶような仲に。
うるさい捜査官が理解を示すようになったのはいいけど、一気にハンター側に立って自分を非難するのはするのはうざったいなあと顔をしかめるさむでした、と。
わあわあやばい2分前!
とびとびだけど取り合えずノック!!!
みんながあんまりすごいから、今日は文章に近づけたいと思ったらこれじゃ
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