えー、年も押し詰まってまいりまして。
2015年も残すところあと25時間余り。
去年はあれ?ノックやってたのかな。今年じゃなくて良かった。風邪でラストにとん挫するとこだった…
拍手ぱちぱちありがとうございます。
お礼がここのところすっかり遅れておりましてすみません!そのなかでむぱら26でのペーパーのことについてお問い合わせをいただいたのですが、11月はプチにエネルギーを注ぎこみすぎてペーパーはでませんでした…
でも、年内更新無しで終わるのもつまらないので、まだアップしてないペーパーは無いかとさがしたら、監禁クレトムの後日談がありましたので、上げちゃいます。
二月十三日 金曜日 深夜
「十四日が土曜日で、ちょうどいいかもね.寝不足でも仕事に差し障らずに済む」
軽く笑いながらクレイが言い、
「そうかもな」
トムは固い表情で頷いた。
時は週末の夜だが、部屋の中には週末にもイベント日前にも似つかわしくない、張り詰めた空気が満ちている。
「っていうかさ。覚えてないのあんた。何回もバレンタインなんかあっただろ。毎年出てくるのかとか、せめてもめ事がなかったかどうかぐらいさ」
顔をしかめてクレイが言い放つ。夜中だというのに、二人ともがっちりと着衣のままだ。
「出て来てもめ事があった年もあるし、出なかった年もある。それに今まではバレンタイン以外でもしょっちゅう奴は出てきてたんだ」
言われたトムも珍しく強い口調で言い返した。
何の話かと言うと、トムに長年取りついている悪霊『ハリー』がバレンタインをきっかけに表に出てくるかどうかだ。クレイと出会い、出てくるたびに撃退される内に、めっきり表に出てこなくなって久しいのだが、なにせ二回も起こした『血のバレンタイン』だ。クレイの部屋に住みだしてからは初めてのだが、何か起きても不思議ではない。
「だからつないでおけよ」
「やだね、手かせ足かせは奥にしまったし。めんどくさい」
腕をつきだすトムに素っ気なく答えると、クレイはふああ、とあくびをした。
「まあ、別にかまわないよ。出てきたら出てきたで」
そして顔をしかめるトムに、薄く笑う。
「むしろ、出てくるなら今日のうちの方が良いな。多少ずれても構わない」
怪訝そうな顔をしたトムが、ああ、というように頷いた。
「十三日で金曜日か」
クレイが行方不明の妹を探して、湖のキャンプ場に行き、殺人鬼と出くわした時期だ。トムと居るようになったきっかけが「殺人鬼を死ぬほどたたきのめしたい」だったから、物騒な気分になっても無理はない。
「でもいいや。寝る。ハリーが出たら殴る」
もう一度あくびをしてクレイが寝室に向かい、トムは慌てて立ち上がった。
「止せって、危ないぞ」
「うるさいよ」
いくらクレイが強くても、眠っているところに襲い掛かられたらどうする。キッチンでも工具でも、凶器になるものは部屋の中にいくらもある。思いついてしまった想像にトムは身震いし、クレイを止めようと手を伸ばした。すると払いのけるかと思ったクレイは、逆にトムの手を掴んで引っ張る。
「要は危険度はいつもと同様ってことだろ。来なよ。一緒に寝た方が早い」
最近はさすがに毎日ではないが、クレイは同じベッドで寝るときはトムを抱えるようにして寝ることが多い。その方がトムがハリーになって動き出しても分かる、というのだが。
「やめとけって」
トムは言いづらそうに掴まれた手を引こうとする。
「なんで」
「お前、時々俺が抜けだしても全然起きないで寝てるぞ」
最近、水を飲みにキッチンに行ったりするが、腕を外して抜け出して寝室に戻ってきてもクレイはいつも熟睡している。トムがシーツの下に戻ると、何となくわかるのかまた腕を回してくるが、あの様子だと刃物で突き刺そうが鈍器で殴ろうがやり放題だと思う。
だが、指摘してもクレイはフンと鼻で笑った。
「ハリーになりゃわかるよ」
そしてトムの手を離すとさっさとベッドに入ってしまう。
「来なよ。それとも凶器の多いキッチンで待機するつもり?」
先ほどの思考を読まれたような言葉に、ブルリと身震いをした。確かに寝室の方がそうした物から遠くはある。トムはのろのろとベッドに近づき、ふと怪訝な顔をした。クレイが着衣のままだったからだ。
視線に気付いたクレイが馬鹿にしたようにまた鼻を鳴らした。
「何その顔。心配なんだろ」
「……そうだけどな」
なにせ靴まで履いたままだ。トムの危機感を思ったよりはまともに取ってくれていたのはよかったが、なんとも寝苦しそうだ。ベッドの横に立っていると、クレイはちらりとトムを見て放り投げるように言う。
「あんたは普通に寝るかっこすれば?」
「はあ?」
「あんたが薄着の方が凶器も隠せないし、何かあった時も倒しやすいだろ」
分かるようなわからないような理屈だが、クレイの安全度が高まるならトムとしても否やはない。夜着を破いたり汚すのは嫌だったので、薄いシャツとアンダーという恰好になってクレイの横に入ると、腕を回してきたクレイがわざとらしく息をついた。
「一週間働いた週末に、詰まらないことさせるよね」
「…」
大変全くその通りなのでトムは黙るしかない。引き寄せられてクレイの襟元に顔を埋めた。自分だけが裸に近い無防備な格好で抱かれる状況は、なんとなくあの廃ビルの頃を思い出す。
「こんな疲れることさせるんだから、何もなかったら明日は好きにするからね」
「明後日だろ」
「もう日付が変わるよ」
前に外食につきあえと言われ、「外に出たくない」と断ったから、そのことかとちらと思う。十四日を無事に越せればとにかく何でも良かった。
・・・
結論から言えば十三日の金曜日も十四日のバレンタインも、何事もなく過ぎ、トムはクレイからせっかくの週末をつぶした(部屋に籠っているのは珍しいことでもなかったが)と盛大な苦情を言われ、埋め合わせとしてとある店での夕食に付き合うことになった。そしてブルーカラー丸出しの古着で行ける店ではないので、クレイが時々使うという紳士服店にも連れて行かれる。
二月十五日、日曜日 昼
「誰かに見つかったらどうするんだ」
「あんた死人扱いじゃん」
食事一つに随分と手間をかける、トムはそう思いつつ、店員が持ってくる服を、適当に選んだ。
数分後、試着室から出てきたトムを見て、クレイは口を緩める。
「とてもよくお似合いですよ」
店員がそう言ったのはまんざらお世辞でもなさそうだった。クレイは仕事用のシャツを選びながらちらりとコートを試着するトムの方を見やる。店員の言葉を聞き流しながら袖の具合を見ていたトムは振り返りはしなかったが、鏡の中で視線が合った。その目がどことなく
(どうだ?)
と訊いてきた気がしたので
(いいんじゃないの)
と頷き返す。別に自分の気のせいでも構いはしなかった。
最近のトムは以前と違って髪や髭も手入れしているし、風貌はもともと悪くない。丈の長いグレイのコートはトムのダークブロンドと良く似合っている。
二月十五日、 夜
「何かあるのか?」
トムはワインを注ぎ足そうとしたウェイターを手振りで断ると、テーブルの向こうでにやにやしているクレイに尋ねた。
「まあね」
悪びれずに頷く家主兼恋人にため息をつく。理由はあるに決まっていた。出会ってこのかた来たこともないきらびやかな店だ。バレンタインは昨日だったが、日曜の夜ということもあり、周囲の客は明らかにカップルが多い。そして急遽クレイに連れて行かれた店で上下を揃えた自分とクレイだが、おそらくビジネスでの話をしているようには見えないだろう。
「一緒に住んでる相手がいるって言っても信じない人がいてね。でも部屋には来させたくなかったからこの店で見せてやるって伝えたんだ」
半ば予想通りの答えが帰ってきてトムはもう一度ため息をつく。また女性とのトラブルらしい。相手に見せるためにトムをこの店に連れてきたのなら、店内のどこかにクレイのいう相手がいるのだろう。
「だけど、なんでわざわざこの店なんだ」
随分無駄な出費が多い気がする。その疑問にクレイはしらっとした顔をした。
「あんまり小汚ない格好のあんたを見せるのも詰まらないしね。用意する間もない不意打ちならともかく」
「男を着飾らせてもしょうがないだろ」
「そうでもない」
クレイが笑ってトムはふうん、と窓に映る自分の姿を見る。昔から容姿だけは褒められることが多かった。今でも小汚いとまでは思わないが、さすがにもう年を食ったし金をかけるほどのものではないような気がするのだが。
「あんたはそういう格好でいると映えるよ。店の感じにも慣れてるし」
「別に慣れてはいないんだがな」
何せ生まれは武骨な炭鉱だし、十七才からこっち、病院だの小汚ない安宿だのしか縁がない。
「それにしちゃ落ち着いてるね」
「うん、まあ」
いくらきらきらしても食事に来ただけの店でを緊張する理由もなかった。値段は知らないが、クレイが選んだのだから承知の上だろう。
「よし、帰るみたいだ」
クレイが片手をあげて誰かに合図を送る。トムもちらりと振り返ると、鮮やかなドレスに髪を結いあげた細い姿が店を出ていく所だった。
・・・
二月十五日 深夜
「もう、バレンタインは過ぎたからいいだろ」
そう言って奥の部屋に引っ込もうとしたトムだったが、クレイは「なにそれ」と鼻で笑うと腕をつかんで寝室まで引っ張っていった。体温が高めなのはいつものことだが、ワインとブランデーが回っているのか、顔も珍しく少し赤い。
ベッドに転がりこんで息をつく。
「あれで済んだのか?」
隣に転がるクレイに訊くと、
「勝てると思ったらテーブルに乗り込んできたさ」
と笑う。いや、どちらかというとゲイだと思われて敬遠されたんじゃないだろうか。しかしそれを言うと腕が足が飛んできそうな気がして口をつぐむ。ごろりと寝返りを打つ気配がして、腕が回ってきた。
「あんたが抜けだして戻ってきた時ってさ」
少し眠そうな声でクレイが呟く。
「自分からまた僕の腕を持ち上げて入って来ようとするから面白い」
何がおかしいのかくつくつ笑う。しっかり腕が回っていないとハリーが出てきて不穏な動きをしてもわからないではないか。いわば車のシートベルトのようなものだ。だがこれも言うと身の危険がありそうな気がしたので、トムは引き寄せられるままに、少し汗の匂いのするクレイの首に顔を埋めた。
END
というわけでそれなりに平和な監禁ワールドの二人。