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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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アラブ太腕繁盛記26(最終回)

というわけで続きです。







「……もし、断ったら俺はどうなるんだ」

「断るのか」
「条件が聞きたいだけだ。処分されるのか」


そう言うとサムは小さく息をついた。


「いや。もしも断るなら、国に送り届けよう。送るだけで大したことはしてやれないが」
「…!?本当か」
「本当だ。この国に来た経緯について他言しないことは約束してもらうが。そうすればこの国も僕も、二度とあんたには関わらない」


「………」
いきなり降ってわいた解放のチャンスに言葉が出なかった。
もちろん、速攻で断って故国に帰るのが当然だと頭の片隅で声がする。だが、ディーンの喉から声は出ず、サムはまた口を開いた。


「もし受けてくれた時も、将来僕の身に何かあればアメリカに送り届けるようにする。元の暮らしとはいかないが、向こうに小さな島をいくつか持っているし、他にも妃の生活の保障ということである程度のことはしてやれる」
「何かって」
「事故や病気、または王家自体に何かあった場合もだな」
「ありそうなのか」
「可能性はいつでもある。この国は全般的に、皆血の気が多いからな」
ロキの言っていたように金も権力も集中した王族は憎まれることも多いということか。


「受けたとしたら、俺の生活はどう変わるんだ」
「望むなら今と同じ暮らしもできる。愛妾ではないから一年の期限は無くなる」


そう言うと、サムは両手の指でディーンの手をそっと撫で、返事を待つように口をつぐんだ。


脳内を思考が駆け巡る。


アメリカに帰れば。
国民としての権利が保障され、王子の寵愛やら不敬な態度などといったばかばかしい理由で命を脅かされることはなくなる。


だが、数年間の失踪の後理由も言わず戻るとなると、前のような仕事につけるかはかなり怪しい。好奇の目にさらされるかもしれないし、単にいかれた人間として扱われるかもしれない。
こんな時に頼れそうな親類も知人もとっさに思い浮かばないのが痛かった。


この国にとどまれば。
今は大丈夫と言われても、サム自身がもしものことを口にするようなお国柄だ。そのうちまた理不尽なことを押し付けられる可能性はある。
だが、仕事の上では数年間の努力でやっと地位を築きかけたところだ。さらに身分が安定するとなればサムの気持ちが冷めようが七光り効果は続行する。


命か、仕事か。
極端に言えばその二択だ。そして常識的に考えれば当然命が優先する。つまり結論は出ている。
そう思うのにディーンは躊躇っていた。


(…くそ)
視線を落とすと両手を包み込むサムの手が目に入る。細く、長く、形のいい指。
指に続く骨ばった手首。
ゆったりした衣装越しの腕、肩、首。
何となく、顔を見てしまったら終わりのような気がして顎までで視線を止めた。


『宮殿の外で暮らして何年も経つのに』
『一途だこと』
例のお妃達にそう言われた時は、そんなもんじゃないと思っていたが、本当にそうだっただろうか。海外に行き来する相手も多かった。見張られているとはいえネット環境もあった。多少の危険を冒しても、逃げるためにできることは多分あった。


(命あっての物種じゃないか)
そう、もう一度自分に言い聞かせる。


(命が惜しくないのか)
勿論惜しい。だけど、アメリカに帰ったって交通事故でも強盗でも新型インフルエンザでも、予測できない危険はある。


何度考えても、断って帰国するのが最善なのに、それをしない理由を探したがる自分に苛立つ。


沈黙を続けるディーンに、サムが低い声で囁いた。
「ディーン、急かして悪いがこの場で決めてくれ。ロキが今夜だけ自家用機で待機している」
「今夜?」
「そうだ」
「今夜すぐに帰れるのか」
「そうだ」
「考える時間はないのか」
「無い」


思わず見返して、目が合った。
サムは相変わらずの落ち着き払った顔で、ただ目だけが微かに不安そうな色で揺れている。


(畜生)
ディーンは自分を罵る。


二度とこんな奴に心を許すかと思っていた。
今も、前のような恋はしていない、と思う。
年に一度顔を見るか見ないかでも全く平気だ。ただ、完全にこの男が自分の世界から消える、そう考えると途端に脳が拒絶する。


(畜生。俺は懲りない馬鹿だ)
自分を罵って、そして認めた。


失くしたくない。
自分はこの我儘で飽きやすい傍若無人な男を失くしたくないのだ。
あんな目に合いながら。こんなに好き放題に扱われて来ながら。この男と微かでいいからつながっていたいのだ。
プライドは無いのか。命が惜しくないのか。
罵っても罵っても、そこから思考は動かない。


「ディーン」
「条件がある」
促すようなサムの声をディーンは遮った。
「言ってみろ」
「もしも、お前の身に何かありそうな気配がしたら、俺と一緒にアメリカに来い」
「……国を捨てろと?」
「もしもの時はな。それくらいの手筈できるんだろ」
「……」
サムは意表を突かれたような顔で口をつぐむ。
ざまあみろ、少しは悩め。そう思いながらディーンは言葉を続けた。


「それが飲めるんなら、…受ける」


サムの目が見開かれ、その頬が赤味を帯びる。
そして顔全体で笑うと、次の瞬間長椅子の上で猛烈な勢いでぶつかってきた。


(ああ、やっちまった)
ディーンは大型犬のようにのしかかるサムの頭を押しのけながら、天井を見上げてため息をつく。


ダメだと分かっているのに止められない。
自分が恋愛感情で人生を決めるような人間だとは知らなかった。脱出の機会を自ら捨てたというのに、妙にせいせいしている。


「おい、条件を飲むのか」
そういえば返事をしていない大型犬の頭を叩くと、身体を起こしたサムは笑って、
「決まりだ」
と囁いた。


 


・・・


 


「…驚いたわ」
「思いきったわねサムったら」


マディソンとメグがそろって目を丸くするのはとても珍しい。
ディーンは何となく居心地悪く、クッションの上でもぞもぞ座りなおした。


やっぱりどこから洩れるのか、式典前の茶会では二人ともサムからの申し出を知っていて、
「「本当なの?」」
のデュエットから始まった本日だ。
茶も菓子も、ほとんど手を付けられていないのが本当に珍しい。


「てっきり愛妾の中でも特例でお披露目するのかと思ってたわ」
「…まあ、完全に正式なもんじゃないとかは言ってたけどな」
「王族が言いきったらそれが慣例になるわよ」
「…そうか」


ポンポンと畳みかけられて、たじたじとしながら手の中で茶碗を持ちなおした。と、マディソン達が顔を見合わせて笑う。


「いやあね、大出世じゃない」
「よかったわね」


お茶が冷めちゃった、取り替えましょ。
そう言って店の者を呼ぶと改めて三人の茶碗に注いだ。ふわりと花の匂いがする。


「宮殿に入っちゃってもたまには外出できるでしょ?」
「サムは留守番させていらっしゃいね」
くすくすと笑いながら菓子の皿を回されるのに戸惑いながら、
「いや、宮殿なんぞ行かないが」
と返すと、二人はまた目を大きく見開いた。
「「そうなの?」」
「仕事があるし」


そう言うと二人そろって身を乗り出してくる。
「ほんとに!?お妃なのに?マンションに住んで働くの?」
「サムは、それでいいって言ったの?」


「…いや、それが話を受ける前提だったから」


大声で笑いはしなかったが、マディソンは肩を震わせながら柔らかい丸い菓子を指で摘まむ。
「すごいわ…サム、なりふり構わずだわ」
メグは小さな石をつけたネイルをちょっと陽にかざしながら口の端を上げる。
「無限の可能性があるわね」


「まあ、どうせまたすぐ飽きるだろうし」
ディーンは本気で言ったのだが、マディソンは不思議な顔で、
「どっちもどっちねえ」
と笑い、メグは
「男ってしょうがないわよね」
とクッションの上で伸びをした。


 


・・・


 


式典の準備をして控室に入った時、サムは少し目を見開き、何も言わなかったが目元で笑った。


「これはこれは。馬子にも衣装とはよくいったもんだな」
サムが用事で部屋を出ると、大げさに手を広げてみせたのは例のギョロ目侍従のクラウリーだ。
「よせ。不敬になるぞ」
横でボソボソとカスティエルが止めるが、クラウリーは肩をすくめる。
「式が終わればな。言い収めだ」
じゃらじゃらとつけられた装飾品で身体も首も重いディーンだったが、却って気が紛れてニヤリと笑う。
「へえ、じゃあ明日からは何かあっても蹴られなくて済むわけだ」
「クラウリー」
「蹴る?とんでもない。足がよろけたことはあるかもしれないが」
どうもその言い草からして、式が終わろうとなんのかんの言い逃れて蹴ってきそうな気がする。護身術の手ほどきをしてくれたカスティエルの方を向いて、
「俺もよろけるかもしれないが、侍従に足がぶつかったら、何の罪になるんだ?」
と尋ねると、
「何の罪にも。よかったら効果的なよろけ方を教えよう」
相変わらず辛気臭い声で、しかし話せる返事が返ってきた。クラウリーが目を剥き、カスティエルが珍しく口元を緩ませる。
「しかし良かった」
「あ?」
「お二人とも日付の感覚がおおらかなので、これで私ももう一年を気にして勘定しなくて済む」
「……ああ、そういえば」
「他の仕事がはかどっていい」
「…すまんな」
どうも知らないところで長年気を使わせていたらしい。


正妃二人が入ってくると、侍従たちはピタリと黙り、姿勢を正す。ディーンもじゃらじゃらと重たい装身具がずり落ちそうな気がしながら礼をとった。サムがいないせいか、お妃達は口を開かない。
了承していようがなんだろうが、やっぱり怖いものは怖かった。


式自体はディーンの去就と全く関係のない、王家の年間行事の一つだった。
継承順位がどうのこうのと言われていたが、なるほど、ぞろぞろと並ぶ顔触れが順番に並んでいるのなら、サムの順番はかなり遠い。並ぶ直系の王族の隣にはその妃達がいる。
ディーンはサムの後ろに立っていた。誰に紹介をされるわけでもなく、誰に挨拶をするわけでもない。
それでも正妃二人に続いて広間に入った瞬間から、さざめくような気配と視線がサムの率いる一行に向けられているのは強烈に感じた。
「大丈夫だ。心配ない」
サムが振り向いて低い声でささやく。
「サム」
「サミー」
同時に正妃たちが振り向かぬままたしなめるような声を出したが、サムはディーンと視線を合わせるとちらりと笑う。そしてまた周囲の視線を受け止め、背後を守るように前を向いた。


同じ男として複雑な気もしたが、その後姿は色々なものを差し引いて見たとしても、精悍で頼もしい背だった。


 


・・・・・


 


休暇が明けて出勤すると、入り口付近にいた社員がどよめいて左右に道を開けた。
(…モーゼの十戒みたいだ)
ディーンは思わず古い映画を思いだす。


「本当に来たのか」
ロキが呆れたように言うのに、
「約束がありますので」
と返す。
「普通働かねえだろ一国の妃が」
「俺の国では大統領夫人も職を持ってますし、俺は妃としては難アリですから公務には向きませんよ」
そう言うと、ロキはなにやら嘆かわしそうに首を振る。


「そうだ、愛妾から妃に変わりましたが、これは給与査定の対象になりますか?」
宣伝の素材としてはランクアップした気がするのだが、
「民の税金からもっと支出しろとは何事だよ。国民を慈しめ」
と、訳の分からない返事が返ってきた。給与の元は税金ではなくて社の収益だと思うのだが。
まあいい、サムからもらった立場は立場として、宣伝実績を上げて交渉しよう。ディーンは約束を取り付けていた企業に回るべく、資料の準備をする。


「おい、皆いいか。第三正妃は気を使ってくれるなとご所望だ。社内では敬語もいらん。いいな」
社長はざわざわし続けている周囲に大声で告げた。それでいいな、と振り返るのに、もちろんと頷き返す。
「おいベニー、お前今日からこいつに付いてけ。あと、先方に正式な迎えはいらんと連絡しとけ」
「わかりました」
「すまんな、手間かける」
マンションに帰った時も近所の住人であるベニーは驚いていたので、ゆく先々で迷惑をかけて悪いとは思う。ベニーは気にするなと手を振って、親類に送るから端末で写真を撮らせろと笑った。


「そうだ、社長」
周囲の人が減ったところで、ディーンはそっとロキの近くで囁く。
「なんだ。お妃の不義密通は縛り首だから俺は気持ちに応えられんぞ」
さらりとまた剣呑なことを言うが、いちいち反応して居られないので構わず用件に入る。
「先日自家用機を」
言いかけると、止せ、と遮られる。
「俺は知らん。誰にも言うなよ」
多分、それなりに危ない橋だったのだろう。
「はい、ありがとうございました」
サムとの間でどんな話だったのかは分からないが、礼は言っておきたかったので気は済んだ。


と、そこでディーンの携帯が鳴る。表示名を見てディーンは苦笑した。話したいが私用電話はまずい。
「誰からだ?」
「サムです」
そう言って鞄に携帯をしまいかけると怒鳴られる。
「なにやってんだお前!」
「いや、仕事中ですし、留守電にしてますから後で」
「オーナーだぞ出ろよ!」
「はあ」


上司が直々に出ろというならまあいいか、と通話ボタンを押す。
『どうだ職場は』
電話越しの会話というのは何となく新鮮だ。
「変わりない。最初構えられたので気が引けたが」
『そうだろうな。前代未聞だ』
サムの声が笑っている。
「悪い、これから外に行くんだ。用事は何だ?」
『特にない。声を聞こうと思っただけだ』
「なんだそりゃ」
朝別れたばかりだろうが。思わずディーンも笑ってしまう。
『今日の昼は社に戻るか?』
「ああ」
『近くに行く用事がある。昼食を一緒にとろう』
「わかった」
じゃあな、と電話を切ると、ロキがものすごく嫌そうな顔でこちらを見ている。


「…だから私用電話ですって」
「何なんだお前ら。高校生かよ」
「まあ、今朝初めて番号を交換したのでかけてみたかったんじゃないかと」
「うわーーー!聞きたくねえ。仕事しろ仕事」


自分が出ろと言ったくせに、好き勝手なことを言う社長がしっしと手を振るので、ディーンは肩をすくめて仕事にかかることにする。


リスクはある。
未確定なことも多い。
それでもとにかく、これからは欲しいものを自分の意志で選んだ人生だ。


飽きっぽい王子と右手をつなぎ、七光りで得た仕事を左手に掴み、行けるところまで行ってやる。
ディーンは書類とデータを鞄に入れて立ち上がった。


 


 


終わり


や、、やっとだ。
まめたんさん発案のネタから発火したおふざけハーレクイン適当話、足掛け一年以上かかりまして終了でございます。
お付き合いありがとうございましたーーーーーー!!
ハピエンでしょ?三人目でもハピエンで一つ!生きてるし!昇給したし!


 


 


 


 


 

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