もうちょっと、もうちょっとなのに、何故か終わらずひたすら茶を飲んでる今回。
…もはや粗筋を言ったも同然。
「来たって何がだ?」
匙を使いつつ訊ねると二人は揃ってクスクス笑った。
「サムがディーンを『一番』にする決心を、やっとしたらしいってことよ」
「時間かかったわよねえ」
「見え見えなのにね」
マディソンが微笑みながら言うとメグが頷く。
「一番?」
先日の一件から少し経った週末だ。
案の定ディーンがあれこれ話す前に、情報通な先輩方は宮殿での一件を知っていた。
「特に何も聞いてないが」
「別に番号札がつく訳じゃないから。でもサムに今度の式のことは聞いたでしょ?」
そう言われて次の週の予定に何やら式典があったのを思いだす。
「いつも通り来い、って言われただけだがな」
そう言うとマディソン達が目を丸くする。
「…往生際が悪いわサム」
「まあ、無理もないけどね」
呆れたように言うマディソンに対し、珍しくメグがサムを擁護するようなことを言った。
「あのね、サムって沢山の人を囲いこむわりに、はっきりした一番っていなかったでしょ?」
「まあな」
話の流れが見えないディーンは、困って手元の溶けかけた氷菓を混ぜた。
正直、自分とサムの現状はともかく、他の女性たちとの順位など考えたこともなかった。それもまたはっきりしない故かもしれないが。
「あちこちから招待されるのはもちろんサムなんだけど、やっぱり愛妾の中の誰を連れていくかも見られてるから、今の一番、ってはっきりした人はいた方がいいの」
「なるほど」
だがしかし。
「だが、俺がそんなもんになったらまずくないか?」
もしかしてこれから宮殿に行く時は背後注意なのだろうか。何となく不安になって訊ねるとマディソン達が笑って手を振る。
「大丈夫よ。前にも言ったけど、みんな自分がなったらどうしようってびくびくしてるんだもの。」
「なんでだ?」
大勢いる愛妾の中で一番ということだ。普通はなりたがりそうな気がするのだが。
そう言うとメグが肩をすくめる。
「前も言ったけどお妃さまたちにはお子がおられないのよ」
「ああ」
そう言えば聞いた。というかあの正妃と子供というのが想像がつかない。
「サムは小さい頃からお妃様達がいらしたって言ったでしょ?サムが大人になって、自分で愛妾を選び出した時に、すごく夢中になった人がいたの。反対にお妃様たちには本当に行事の時くらいしか会わなくなって」
「あー…なるほど」
それは、なんというか、無理もない気がする。
「そうしたら、その人が一年くらいして火事で亡くなったのよ。お子ができてたんじゃないかってと噂があった」
「……」
「勿論事故よ?」
「だろうな」
予想外ではないが剣呑だ。
日曜日の陽は燦々と明るくて、たっぷり水を与えられているのだろう中庭の植物は葉も花も鮮やかだ。こんな穏やかで明るい景色の中でも事故は起こる。故意の禍も。
「だから皆突出するのを怖がってるの。ディーンが一番を引き受けてくれるなら、大歓迎ってことよ」
「お妃さまたちのお気持ちに触れなければ、王族との繋がりは自分の一族にも有益だしね」
「…女性も大変だな」
思わずため息をつくと、
「そうなのよ?」
とマディソンが言いながら茶碗に新しい茶を注いでくれた。
「…だけど、男でもあのお妃方の気に障らないとは限らないからなあ」
なにせ先日のことがあったばかりだ。
翌日無理矢理出勤してはみたものの、やはりミスを連発して我ながら使い物にならなかった。
が、
「取りあえずアザゼル様は大丈夫よ」
メグがパタパタと菓子くずを払いながら言いきるのに、うつむいていた顔を上げる。
「なんでわかる?」
「『あれならまあいい』ってこの間言ってたもの」
「話したのか?」
宮殿を離れた愛妾と、正妃の接点は少なそうなのだが。
「一族なのよ」
「そうなのか!?」
驚いた。
ここしばらくで一番驚いたかもしれない。
「遠縁だけどね」
ディーンの驚きは関知せず、メグは緑色のナッツがぎっしりと詰まった菓子をもう一つ取り上げた。
本当に把握できないほど入り組んでいる。
ディーンは金木犀入りの茶を啜りながら首をかしげる。
しばらく前にメグやマディソン達の話から少し親族関係を把握しようと書きだして整理しようとしたことがあったのだが、全然別に見えたメグと第一正妃がどこでどうつながって一族になるのかさっぱりわからない。
「…そう言えば、サムの兄が事故にあったと言ってたが」
微妙な話題だろうか、と思いつつ気になったことを訊いてみると、マディソン達の顔がふと真面目なものになった。
もうちょっとだけ続です
ここで切るのは何の意図もなくただ眠気がきただけでございます。
「お茶会したらアザゼルはディーンがサムのお気にになるのおっけーで、実はメグはアザゼルの親類だった」
……を書くとずるずる伸びるの巻。
追記 ふと読み返して自分で書いた「姉様」にダメージを受けたので修正。ああ、読み返すと本当に色々ダメージの多いネタだ