いや、まったくお待たせしてる割にだらだらしてて申し訳ないんですが、アンソロやってる間にもアラブのことは考えてたのです!ということを実証するべく努力だけはしております。
今日はコメントのお礼をこの後書きたい。
そしてそして、週末のトロントコン、やっぱりJ2は仲良しでしたね!
しょっちゅう磁石みたいにひっついてるし、「そこ、腕、いらんだろう」というところでお互いの肩やらなんやらに腕が回るし。
けしからん、けしからんもっとやれーーーー
例によって式典について行った後、泊まって行けというサムに対してディーンが帰りたいと言ったことが発端だった。
「また帰るのか」
サムは不満そうな顔をするのに、ディーンが肩をすくめる。
「明日の準備もあるし宮殿から出勤じゃ落ち着かない」
ワンパターンな理由ではあるが、実際まだ週半ばなのだ。
「そんなに構えるほどの仕事か」
だが、不満そうに言ったサムの言葉に、一気にディーンの頭に血が上った。
「…そうかもしれんな。いまだに部下も持てない現場回りだ。だれかさんのおかげでな!」
荒くなった口調に、サムが顔をしかめる。
「まだ蒸し返す気か」
「始めたのはそっちだろう」
順調にキャリアを積んでいたのを拉致されただけでなく、この国での行動にあれこれ制約をかけられているおかげで、ディーンはなかなか仕事の幅を広げられずにいる。
随行も外に顔を売る仕事といえば言えなくもないが、要はサムの愛人でございと公に付属物であることを宣伝しているわけでもある。考えるほどにどんどん腹が立ってきて、とにかく帰る、と出口に向かう。
「待て」
「放せっての」
肩にかけられた手を振りはらうと、打って変って荒い仕草で腕を掴まれた。
一見穏やかになったように見えても、サムが意外に短気なのは相変わらずだ。
だがディーンも実は気の短さでは似たり寄ったりだったりする。
捕まれた手を振り解き、反撃する。ここ数年は侍従たちに護身術のてほどきを受けたこともあって、以前ほどあっさり抑え込まれることもなくなってきた。もみ合いと言うより格闘になる。
一頻りドタンバタンと揉めた後、頑として折れないディーンに、
「そんなに帰りたいなら帰れ」
サムが不機嫌そうに息をついた。
「では失礼いたします」
立ち上がると息を整え、わざとらしく礼をして部屋を出る。勝負的にはやはり付け焼刃がかなう相手ではなくてあちこち痛いが、それでも久々に主張が通ったので気分は良かった。
サムの部屋の扉が閉まり、長い廊下を歩いて出口に向かっていると、不意に見慣れない男たちに囲まれた。
「…なにか?」
訊いても答える者はなく、両腕を掴まれると問答無用で引き立てられる。
「ちょっと待て!」
慌てて見回すが知った顔はいない。サムの部屋からついていた侍従たちもいつの間にか姿を消している。
まずいまずいまずいまずい。久々にこれはまずい。
昔、仕事先で会った女性とデートをしようとしたら黒服たちに拉致されたことがあったが、雰囲気的にさらにまずい。
「待ってくれ、いったい何なんだ」
「殿下への態度が無礼と仰せだ」
「え?サムが?」
何だかとても今さらだ。というよりさっき自分だって結構腹やら足やら殴ってくれたし、残念ながら優位だったのも向こうだ。
「…あ、」
そこまで考えて何となくサム以外の人間の指図なのだろうと推測がついた。
「待て、サムと話をさせてくれ」
「必要ない。好きにしろと仰せだ」
えええええ。
危ないときには大声を出せと良くいうが、なかなかとっさの時に叫ぶのは難しい。
仰天している間にどんどん見知らぬ廊下を運ばれ、行ったことがない階段を降り、見事なまでに牢獄然とした暗い小部屋に放り込まれる。
「待て、話を」
言っている間に扉が閉められて、小さな電球一つの部屋に閉じ込められた。
「おい!」
やっと声が出るようになってきたので覗き窓から立ち去ろうとしている男たちに叫ぶ。と、一人が振り返って扉の近くまで戻ってきた。
「騒ぐな。今度騒いだらすぐ始末するぞ」
低くドスの効いた声で囁かれ、自然と声が引っ込む。
(弁護士を呼んでくれ)
こんな時でも咄嗟に思ってしまう自分を笑う。
ここは自由の国じゃない。人権という言葉すらない。
分かっていたのにいつの間にか油断していた。サムといるとき、宮殿の中は安全地帯のように錯覚していた。
ため息をついて座り込む。見た目が暗くじめじめしていそうな壁は、意外にそう冷たくもなかった。極限まで早くなっていた鼓動が、少し落ち着いてくる。
扉の窓からしばらく外に人が来ないかと見ていたが、誰の姿もないので諦めてまた同じ姿勢に戻った。
携帯端末の入った荷物は侍従が持っていたので手元にはなにもない。腕時計を外していたので時間も分からなかった。
1,2時間はたったのだろうか、人の気配がして扉の窓から知らない女の顔がのぞく。
よそよそしく冷たい視線だがこの機会にひるんではいられない。ゆっくり立ち上がって扉に近づいた。
「教えてくれないか。俺を捕えさせたのは誰なんだ?」
「お前の処分は明日の朝と決まった」
女はディーンの問いには答えず、平坦な声で言った。
「お前には一度だけ機会が与えられる」
そして扉の下の小さな入り口から、黒い端末が室内に入れられる。
「話したい相手がいれば、一回だけかけるがいい」
(こんなところで電波が通じるのか?)
思いながら手に取るがちゃんと通じるようで、意外に環境の整った地下室らしかった。
「どこにでもかけていいのか?」
「どこにでも」
手早く端末の設定を確認するが、海外通話もできるようになっている。
ディーンは端末を手に少しためらった。
この国に大使館があればもちろんかけたいところだが、生憎と無いのは承知している。
かといって母国にかけたとしても訴える相手がいない。姿を消した直後ならともかく、もう年単位で時間が過ぎているのだ。
遠縁の親族や友人も思い浮かべるが、心配はしてくれてもこの切羽詰まった状況を何とかできるはずもない。
この国に来てから知り合った知人類も相手が王族では論外だ。
と、すると助けを求められる相手は情けないことながら限られてくるのだった。
すっかり覚えてしまった番号を押す。
『……なんだ』
もう深夜だから寝ていたのだろう。ぼそぼそいつも陰気な声は珍しく掠れている。
「サムへの不敬罪で捕まった。宮殿の地下の牢にいる。助けてくれ」
ここに至っても、ディーンはサムの個人携帯さえ知らないのだ。
もうちょっと続く
誰も心配してないだろうけど、安心してください。ハピエンですよ~
ここ数かい色気も何もない展開で申し訳ない…