いそげーいそげー
進みが悪いし思ったように書けないけどいーそーげーー
「うわ」
目の前に広がる光景に、ディーンは思わず小さな声を上げた。
今日の式典会場は平地の多いこの国では珍しい高台だ。ずいぶんと歴史のありそうな建築物の背後には不思議な形の岩が列をなしている。
「初めて見たか」
「当たり前だ」
サムが面白がるような顔で振り返るのに、顔だけは笑顔で答える。
お前のせいだろう、と言いたいがそこは省略だ。
しかし普段通勤経路と自宅周辺以外の遠出を制限されている身としては、随行してでかけること自体が物珍しい場所であることも多い。
大して自然に興味がある方ではないが、久々に広々とした風景の中にいるのは気持ちがよかった。
「この辺りは昔海だったらしい」
「ふうん」
サムが話しかけるときに答えるのは侍従たちも邪魔しない。話していると関係者が近づいてきた。
「よろしければご説明いたしましょうか」
もちろん解説相手はサムだったが、隣で笑顔を貼りつけながらディーンも土地や建物の由来を一通り聞くことができた。
・・・・
「今日の放送だ。見ておけ」
翌日例によって無断でずかずか自宅に入ってきたカスティエルが、ディーンの見ていた番組を問答無用でニュースに変えた。
「何する」
大して面白くもない番組だったが文句は言う。だが、次の瞬間昨日の式典の様子が画面に映ったのでディーンも思わず黙った。カメラは随行中よく見たが、放送を見るのは初めてだ。
覚えのある場所に立つサムと、後ろにいる自分も一緒に映っている。サムがなにやら妙に穏やか笑みを浮かべて振り返ると何か話しかけ、答えるディーンも口に柔らかな笑みを浮かべている。
「……………」
いや、あの笑顔はうるさい侍従どもの指示だから。
誰に何を言われたわけではないが、自分で自分に弁解する。
あの場の心情と画面に映る光景のギャップが結構なもので、何となくショックを受けてしまった。
確かに険悪ではなかったが、ここまで親密に見えるというのは。
思わず横に立つ侍従を振り返る。無表情な顔を見て、しかし何を言うというわけにもいかなかった。
「これは多くの人間が見る」
唐突に侍従が口を開いた。
「ああ」
「君は殿下が公の場に連れて行く者として広く認識された。言動にはこれまで以上に気を付けろ」
「…わかった」
少し前にマディソン達にも注意されていたこともあり、ここは素直に頷いた。
放送後、何となく構えてそろそろと出社したものの、思ったほど周囲の態度は変わらない。
「あほかお前は」
何を言ったわけではないのだが、ディーンの緊張はあっさり見抜かれて、ロキに盛大に馬鹿にされた。
「うちの社内はとっくに知ってんだろーが」
「まあ、そうですが」
しかしそういうと住んでいる部屋の近隣住民も、とっくの昔に知っている。初見のところでも営業先がいつの間にか知っているのも前と同じだ。
近所と職場と取引先とが今さらだとなると、ディーンの接触する相手はほぼそれだけなのだった。
「なんだ、気が抜けたな」
ディーンは呟きつつ資料や報告書類の作成に励む。
だが、「ほぼ全部」は「ほぼ」で、「全部」ではないのだった。
まだ続く
うわあああん終わらない