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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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人魚だよ

えー。
某所で、「自分の性癖をベスト3を晒そう」という話になり、ワタクシぱっと思いついたのが
「下剋上、拘束、事後」でした。
その中の拘束をテーマに一つ。
久しぶりの人魚と漁師で。




日の暮れかけた海面は凪いでいる。
その日の漁を終え、船をつないだディーンは桟橋で夕食用の魚をさばいていた。
相変わらず他の漁師たちから少し距離を置いて暮らしているディーンだが、別段外れものにされたわけでもないし、今は両親も戻っている。必要時にはいつでも行き来ができた。
10年以上不在だった両親は一緒に暮らそうと言ってくれているが、長年続けた一人暮らしは否応なく身に沁みつき、ディーンはこの小さな島での暮らしを続けていた。

切り開いた魚を海水で洗う。寄り分けた身から青く光る皮をこそげとった後、ふと思いついて刃の角度を変え、薄く透明がかった身を切り取って口に運んだ。生でも食えるが、焼くか煮るか。そんなことを考えつつナイフを海水で洗うと立ち上がって伸びをした。今日も何事もなく一日が過ぎようとしている。
酒が少なくなっていたから明日買いに行こう。呟きながら家に戻りかけたところで不意に波ではない水音が聞こえ、ディーンは足を止めた。

「サムか?」
振り返って呼ぶが人魚が海上に浮かんでくることはない。少し前に用事で遠方に行くと言ったきり、ディーンはその姿を見ていなかった。
桟橋の上に戻って海面を覗き込む。と、突然何か黒っぽいものが海から飛び出し、ディーンの足に巻き付いた。
「うわ!」
咄嗟に魚を捌いていたナイフで切りはらう。桟橋に落ちた切れ端は黒っぽい海藻だ。急いで桟橋から地上に戻ろうとするが、凪いでいた海面が急に持ち上がり、波と言うより海面の塊に押されて海に落とされた。

ちょうど日が落ちたところで海の中は暗い。海面を目指そうとして泳ごうとする手足が先ほどと同じ黒っぽいものに巻き付かれて拘束された。もがけばもがくほど余計に絡みついて来るので解こうとするのを止める。幸い喉に入れられたサムの鱗のおかげで呼吸はできるのだ。
ディーンが大人しくなると拘束もそれ以上きつくはならず、強い力で海面に引き上げられた。
ざばり、と海上に頭を出すと、雲の後ろにうっすらと月が見える。そしてディーンを拘束し、引き揚げた当の相手も。
「サム」
思わずはーっとため息をつく。十中八九そうだろうと思っていたが、久しぶりに会うのにいきなり不機嫌全開な、ディーンの人魚だった。
「帰ってきたんだな。用事は済んだのか」
「……なんでそんなに平然としている」
いきなり良く分からないことを言われて、ディーンはぱちぱちと瞬きをする。
「いや、もちろん最初は焦ったぞ」
現に今も手と足が動かせない状態だ。ただ、相手がサムだと分かったし、今はサムの腕ががっちりと自分を掴んでいるので慌てないだけで。だがそう言うとサムのしかめつらがますますひどくなる。
「そうじゃない。僕の留守中だ」
「え」
さらに話が分からない。
「僕は出かける前に、一人で寂しいかと訊いたらあんたは頷いた。話す相手もいないし、早く帰ってくれと」
「……ああ」
そう言われればそんな話もした。ちょうど抱き合った後のうとうととした時間だったのであまりよく覚えてはいないが。
「だが、帰ってきたら全然寂しそうじゃない。ここを見張らせていた者に訊いても全く平然と過ごしていたというぞ」
「……そりゃあな」
そうか、全然気が付かなかったが見張られていたのか。人魚が近づいてきた覚えはないから、魚だったのかもしれない。知らずに網にかけていないといいが。
だがそれよりもまずは目の前の不機嫌な人魚だ。
「サム、俺は誰かを待つのは慣れてるんだ」
そう言うと、サムの表情が少し動く。
「そうか、父親を10年以上待っていたんだったな」
ディーンは頷く。
「一人で寂しいか、と言われれば寂しいんだろうけど、一人でいるのも誰とも話さないのも俺には当たり前で、正直よくわからん」
お前がいて、話ができるのはいいけどな。
サムの表情が少し柔らかくなったので、解いてくれ、と手足を示す。巻き付いていた海藻が緩み、自由になった腕をサムの首に回した。サムの表情がさらに和らぎ、初めて少し笑う。ディーンはほっとしてもう少しサムに身体を寄せた。
「…ダッドと違って、お前に何かあれば誰かが教えてくれるだろうし、だから心配はそんなにしてなかった」
「当たり前だ」
僕が言っているのは心配じゃない。そう鼻を鳴らす強い人魚を見てディーンも笑う。
「僕が帰ってきて嬉しいか?」
「ああ」
「僕がいない間寂しかったか?」
「ああ、そうだな」
わざわざもう一度訊いてくるのに神妙に返すと、満足そうな人魚が長い尾を水中でディーンの胴に巻き付けてきた。
そのまま今度は固い腕に拘束されそうになるのを、少し焦って身をよじって止める。
「ちょ、ちょっとだけ待ってくれ」
「なんだ」
サムがまたも不機嫌な顔になるが、状況は切実だ。
「俺、今夕飯食おうと思ってたとこで…」
「僕との時間より食事を優先する気か」
「だって朝に食ったきりなんだぞ!」
人魚との交わりは酷く長い。一日の仕事を終わったこの状態で抱かれたら、文字通り気が遠くなりそうな気がする。
だが、
「心配するな。僕が支えていてやる」
見当違いの保障をしつつ海の中に引き込まれる。主の帰還を祝うように、周りには青く光る小さな魚がまとわりついてくる。サムの髪や目や尾の鱗がちらちらと海の中で光った。
(まあいいか)
水の中で上下も分からずゆっくりと回りだすと、深刻だったはずの空腹感も曖昧になってくる。

人間の都合など考えないサムとの時間は困惑することも多いが、その日の糧のこと以外何も考えないようにしながらひたすら父を待っていたあの頃とは確かに違う。
ディーンは自分から手を伸ばし、帰ってきた人魚を強く抱きしめた。



終わる

大好きなお師匠に捧ぐ。返品可でーす。





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