余りにも間があいたので、自分でもどこまで書いたかわからなくなって今回ちょっと過去を振り返りました。
………どうするつもりなんだろうこの話。
しかし、深く考えてはいけない、キーワードは何が何でもハピエンのハーレクインです。
なせばなる。きっとなる。
黒っぽい衣装をまとったお妃達がゆっくりと会釈をする。ディーンはとっさに頭を低く下げ、貴人への礼をとった。口うるさい侍従どもからの指導にこの時ばかりは感謝する。この二人の機嫌を損ねるのはまずい。ものすごくまずい。営業で培った神経がえらい勢いでビリビリ警報を発している。
「久しぶりだね二人とも」
平然とした声で応えつつ、ディーンの手を掴んだままのサムの指に力が入り、サムもまた緊張しているらしいことを伝えてくる。同時に、正妃の目の前で手を繋いだままであることに気づいて焦るが、サムの手はがっちりとディーンの手を掴んでいて、目立たないように離すのは難しそうだった。
何とかすんなりとすれ違ってくるないものだろうかと願うが、久しぶりに顔を会わせた夫婦は多少なりとも会話をするものらしく、天気のことから親族の健康、新しく慈善事業で建てた施設の話などが熱なく礼儀正しく長々と交わされる。
「ところで、私たちの東屋から出てきたように見えたが」
そう妃の一人が口にすると、もう一人が心得たように驚いた声を出した。
「おや、私たち以外の者をあの東屋にお入れになったと?」
サムの手が一瞬冷たくなり、次にかっと熱くなる。理由は不明だが、何かがサムの神経に触れたらしい。顔を見ているよりも妙に分かりやすいのがおかしかった。
仕方がない。
おかしさついでに咄嗟に腹をくくったディーンは頭を低く下げたまま口を開く。
「申し訳ございません」
途端にサムの動きが止まり、顔を伏せたままでも三人の視線がこちらを向いたのを感じる。察するにあそこは何か夫婦にまつわる思い出の場所なのだろう。つくづく茶など飲んでいなくて良かった。
「先ほど目に砂が入り、水場をお借りいたしました」
「おや」
「ほう」
大して驚いたようでもない反応が返り、
「顔を上げよ」
とどちらかが言った。これまた仕方がないのでディーンは低い姿勢のまま頭をあげる。ただ直接顔を見るのは非礼だと煩く言われていたので視線は向けなかった。
「この者は男に見えるよ、サム」
「そうだよルシファー」
「男に部屋を与えたのかい、サミー」
「そう言ったよアザゼル」
顔を上げなくても体格だけで男だと分かるだろうが、そこに立っているだけで恐ろしい奥方達に突っ込めるわけもない。
「ふうん」
「相変わらず我が殿は気紛れだ」
正妻達の前で悪びれないサムの態度のせいなのか、思ったよりあっさりと追求は終わるかと思えた。だが甘かったらしく話は続く。
「その男、手放す時には私におくれ」
「いいね、私も引き取るよ」
歌うように柔らかな低音が重なり、ディーンは文字通り血の気が引くのを感じる。夫の興味が薄れて正妻に引き取られる男の愛人。なにをどう想像しても、恐ろしい展開が待っているとしか思えない。
「手放す予定はないので、約束はできないな」
幸いサムがそう返したので、ひとまず胸を撫で下ろす。思わずほっとしてつないだ手を握りそうになったが堪える。なにせ正妻の前だ。言葉のあやでなく生殺与奪権を握られている感が満載だ。
「おや、移り気な我が君が手放さないと断言したよ」
「珍しいね」
「もしかして今後のお連れはその者にするのかな」
「そうなのかい?サミー」
二人のお妃は物凄く息の合ったペースで、畳み込むようにサムに問いかけを続ける。
「まだ決めていないけどね、もしかして二人とも賛成かな」
波状攻撃には慣れているのか、ゆっくりとサムが言葉を返す。
これまた今後の自分の身に関わることだというのは分かるが、ディーンが口を挟める雰囲気でもなかった。
「私達が決めることではないよ」
「お心のままになさるといいよ我が君」
ふふふと低く笑う声はゆっくりとして穏やかなのに、どうしてぞくぞくするのだろう。ディーン砂嵐に襲われた心境で、とにかく身を低くしてやり過ごすことにした。できれば自分のことは石なにかだとでも思ってほしい。
「ではまた」
「会うのは来週だねサミー」
やがて気が済んだのか、ようやく奥方達が暇の挨拶を口にする。
「うん、ではね」
答えてサムも歩き出した。奥方達の横を通り過ぎながらふと思いだしたように足を止める。
「そうだ、アザゼル」
そう言って振り返るので、釣られてディーンも後ろを見てしまう。うっかり見てしまった奥方達は夫に頭を下げるでもなく、黒く長い影のようにそこにゆうらりと佇んでじっとこちらを見ていた。
「なにか?わが君」
そう返す顔の瞳が奇妙に黄色がかって見えたのはおそらく光の加減だろう。
「前にも言ったがサミーと呼ぶな。サムだ」
抑えた口調に苛立たしさがにじむ。咎められた第一王妃はにいいと笑って、
「仰せのままに。わが君」
ねっとりとした声で応えると優雅に一礼した。
その夜ディーンは突然明日戻るように告げられる。サムは何も言わなかったが、奥方達との邂逅に関係しているような気はした。
続
そろそろ終わらねばと思ってるのに書いてみたら終わりませんでした。うぬーーー
今回のネタメモは、
「怖いお妃に「その子をおくれ」と言われてまっさお。サムも緊張して手に汗」
でした。のびるのびる。続きはもう少し急ぎます。