トムが何を考えているのかよくわからない。
クレイは隣で眠るトムをじっと見つめた。
トムは時々うなされる。
大声を出すわけではないが、呼吸が苦しそうになるのですぐわかる。
モーテルを転々としているころからそうだった。
うるさいわけでもないので、二人で一つの部屋を使うようになってからも、大して親しくない頃は起こした方がいいのかどうか迷ったものだ。
あの頃でさえ、夜中に目を覚ましたトムはクレイの姿を見るとt大きく息をつき、明らかに安心した様子だったのに。
一緒に住みだして、それぞれの寝室で休むようになった時、パーソナルスペースが確保できたことよりも、トムの様子が朝までわからなくなったことが気になった。
(トムは平気なの?)
唇だけで問いかける。
長い睫毛にそっと口付けた。
過去の影に追われ、夜中に一人の部屋で目を覚ますトムを思い浮かべる。
たとえトムが平気だと言ったところで、そしてそれが事実だったところで、一人にしておきたくないのが自分のエゴなのだとクレイは思う。
トムが好きだ。
できるだけずっと一緒に居たいし、声を聞いていたい。
トムはまだ気にしているが、互いに触れ合う今のままでも、クレイは満足していた。
行為自体にはこだわるくせに、朝まで一緒に眠ることには消極的なトムを、半ば強引に引き止めている。
幸い窓を開けると風がよく通るので、暑くはなかった。
汗っかきなのは自覚がある。
体温も多分高いんだろう。
それでも一緒に寝たいものは寝たい。
瞼にもう一度口付けると、髭でもあたったのか、それともやはり暑いのか、微かにトムが首を振るようなそぶりをするのにちょっと傷ついた。
何となくむきになって追いかけると、トムが小さく声を上げて瞼を開く。
「くれい・・・・?」
「ごめん、起こした」
小さな声で謝る。できればこのままもう一度寝て欲しい。
「眠れないのか・・・・?」
ぼんやりした声で聞かれて苦笑する。
「大丈夫」
枕に頭を戻して目を閉じる。
もしもトムが起き出す気配があったら即座に夜着をつかむつもりだった。
だが
「んー・・・・ほら」
そっと手が伸びてきて、引き寄せられる。
胸元に抱き込まれ、軽く背を撫でられた。
「おやすみ・・」
ふわあ、と頭の上で小さなあくびをされる。そして
「あつぃ・・・・・」
という微かな声を最後に、再び寝息が聞こえてきた。
トムが自分から近づいてきてくれたのは嬉しい。
でも、どちらかというと自分がトムを抱き寄せたい気分だったので、男らしく優しい仕草で抱き寄せられたクレイは、とても微妙な心境でトムの鎖骨を頬のあたりに感じながら目を閉じた。
その後やっぱり暑くなったらしいトムは離れてしまったが、明け方になると冷えてきたらしく身を寄せてきた。
ほくほくと抱きしめ、髪に顔をうずめながら、早く寒い季節になればいいなあとクレイは思う。
「・・・・・・それってお前、一晩ろくに寝てないんじゃないのか?」
「トムの顔を見てたら時間がたっちゃったんだよ」
朝食のテーブルで、目でも充血していたのかトムに問いただされ、夜のことを話したら呆れられた。
「トムはよく眠れた?」
「まあな。ずっと砂漠を歩いてる夢みてた」
「・・・・・そんなに暑かったんだね・・・ごめん」
自分と一緒のベッドは砂漠のような環境なのか。それにしては湿気が多そうだが。
よっぽど情けない顔になったのか、トムがちょっと慌てた様子で覗き込んでくる。
「気にするな、クレイ。それに心配するな。暑くたってお前と一緒に朝までちゃんといるよ。俺は砂漠地帯は随分通ってきたから慣れてる、大丈夫だ」
だから、安心してちゃんと寝ろよ?
恋人が自分をきづかってくれるのはとても嬉しい。
だが、砂漠を走行する覚悟で臨まれるのかと思うと情けない。
やっぱり中古のエアコン探しに行こう・・・・
少し濃い目のコーヒーを啜りながら、心に誓うクレイだった。
えー、そんな感じで。
ほとんどベッドの中の今回でした。
その割りに色気がありませぬ・・・・