お前は通販作業をしないで何をやっとるのかとおしかりの声が聞こえそうですが、すみません。リビングに家人がいて動かないので店が広げられません(涙)
なのでこの時間を使いましてクレトムネタを打ちました。
やまなし!
おちなし!
意味なし!
ぴんくなし!
でございますが、今日は13金で明日はバレンタインですもんね。
何か上げることに意味がある、きっとある。
すぐに追い返したそうだった営業相手が、多少なりとも話を聞いてくれたのは仕事的には収穫だったが、雑談に紛らせて、事件のことを聞きたがっている様子が透けて見えて次第に沸々と腹が煮えてくる。しかしはっきりと不快感を示せば今度はころりと『昔のことをまだ振りかざして被害者面をしている』と反応は変わることが多いから注意が必要なのだ。
クレイは想像のなかでデスクと椅子を蹴り倒しつつ、困った風に目を伏せた。
同居人であるトムがこんな風に目を伏せると、長いまつげが余計に目立って目が離せないのだが、クレイの場合はこういうときの目付きが殺気だって仕事向きではないのでごまかすためだ。
何とか爆発せずに一日の仕事を終え、職場でデスクを片付けはじめてから大事なことに気がついた。
(まずい。トムに連絡を取ってない)
週末ということもあり、たまには外食に誘おうと思っていたのだ。明日がバレンタインデーだが、前日なら雰囲気もうるさくないだろう。前に一度行ったインド料理が気に入っていたようなので実は予約も入れていたりする。
だが、この時間だともう何か夕食を作ってくれているかもしれない。急いで携帯を取り出す。
「トム?」
『クレイ、どうした?』
受話器の向こうからの柔らかく低い声を耳にした途端、苛立ちも焦りも消え、うきうきした思考で頭が一色になる。
「もう夕食って作っちゃった?」
『いや…なんか思い付かなくてまだだ』
珍しいがちょうどいい。
「じゃあさ、たまには外に出かけない?」
『いいけど、珍しいな』
声の調子から、目を丸くする顔が浮かぶような気がして口許がほころぶ。
「一度帰るからさ、準備してて」
『分かった』
電話を切ると急いで片付けの続きをする。
「なんだ、デートか?」
同僚の冷やかすような声に軽く頷き
「まあね」
と応える。堂々とし過ぎてからかいの声も起きなかった。この頃では同居の恋人がいることも、クレイの精神状態がそれによって大きく上下することも職場に知れ渡っている。クレイとしてはどうだどうだと見せびらかしたい心境にすらあるのだが、「さすがに止めてくれ」とトムに真剣な顔で嫌がられて思いとどまっていた。
「お前、インド料理の気分だったのか」
一度着替えに戻って、一緒に出かけながら店を告げるとトムが妙に感心したように言うのでクレイは面食らう。
「いや、トムが前にあそこの料理結構気に入ってたかなと思ってさ」
「ああ、まあな」
寒さしのぎにマフラーをぐるぐる巻いたトムは、白い息を吐きながら瞬きをする。やっぱり目が大きいなあ、とクレイは分かりやすく頭の煮えたことを考えた。
「スパイスの効いたオイスターが美味かった」
「今日あるといいね」
「うん」
しばらく歩いたあと、トムがポツリと言った。
「なあ、急に外食って何かあったのか」
いつものことながら同居人はイベント事に疎いが、動じてはいけない。ちらりと周囲を見回すと、まだそれほど人通りの多い道でもないので隣に歩くトムの手をそっとつないだ。
「なんか、チョコとかカードとかって前にやったしさ」
笑いかけるとトムはただでさえ大きい目を、それこそまんまるに見開いている。バレンタインはもう気にならない、と以前に話したがもしかして外食までするのはやり過ぎだったか?と一瞬焦るが、次の瞬間にトムは目元をくしゃくしゃにして笑った。
「なんだ、そっちか!」
「え?」
そっちかとは他にどっちがあったというのだろう。だがクレイが考え込むとトムは気を逸らすようにつないだ手を引いた。
「いいから行こう。予約してるんだろ?」
その珍しく甘えるような行動にそっちがどっちでもどうでもよくなるが、後あとトムが気に病んではいけないのでもう少し追及する。
「バレンタインのほかに何があったっけ?」
するとトムは困ったような顔をして、少しつないだ手に力を入れた。
「今日って、13日で金曜日だろ」
「………」
だから何?と数秒間考えてから腑に落ちた。
「ああ!それかあ」
今の今まで忘れていた。思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「そんなに気にしてなかったか?」
見上げてくるトムを真っ直ぐ見つめ返して頷く。昼間のあの嫌な客のことがあってさえ、日付のことは頭から抜けていた。
「全然全く忘れてた」
「そっか」
笑うトムの表情からすると、どうもかなり気にしていたらしい。
「もしかして、色々考えてくれてた?」
「ちょっとな。こういう日に肉は嫌かなとかだけど却って野菜ばっかだと辛気臭いかとか、考えだしたら分かんなくなってきた」
夕食は冷凍食品と残り物になるとこだったぞ、とまた笑う。
「日付はもう全然関係ないよ。大丈夫」
「そっか。俺もだ」
目が合って、笑う。
あんたがいてよかった。一緒にいられて良かった。
思わず笑っているトムにその場でキスをしたら、
「さすがに止せ」
と手を離して逃げられた。だがその足は真っ直ぐに見えてきたレストランに向かっているので、クレイは笑いたいのをこらえて恋人の背を追いかけて足を早めた。
Be My Valentine!
いいの、相変わらず平和なんですこの二人は…