クレイが駅に直結したアーケードを突っ切ろうと思ったのは、雨が予想外に強くなってきたからだ。店にあふれるクリスマスデコレーション用品にもプレゼント用のけばけばしくチープな品物にも興味はなかった。
(くだらない)
あと数日、赤や緑の物体を飾ったからといって、何がどうということもない。
本当に昔、まだ両親がそろっていたころにはクリスマスの準備にはしゃいだ記憶はあるが、今のクレイはサンタなど信じない成人だし、一緒に暮らしているのはクリスマスどころか一般的な人間が意識するイベント事の殆どに興味のないトムだ。関係ないと思うとちかちかしたディスプレイは実に空しい。数日後にはごみになるものを必死に選んで買うのもばかばかしい話だ。
そう思いつつきらびやかなフロアを通り抜けかけ、クレイは足を止めた。
一般人の生活全般に興味がないと思っていた同居人のトムが、込み合う店内でゆっくりと棚を見て回っている。
「なにやってんのあんた」
「あ」
声をかけると驚いたように目を見開く。この間買ったキャメルのコートを着ていた。
「何してるんだお前こそ」
逆に訊き返される。
「別に。通りかかっただけだけど」
事実その通りなのだ。どうだ、と何となく思いながら言いきると、トムは別段気にかけた様子もなく「ふうん」と頷く。そして、
「暇だったから、クリスマスだなと思ってちょっと来てみた」
と言いながら棚をじっと見た。
「…………なに、あんた何か買う気なの」
「普通の家で過ごすのは久しぶりだからな。…あ、もしかして飾りとかは嫌か」
「別に。どっちでもいいけど」
「そっか」
どうでもいいということはあろうがなかろうがいいのだから、自分は矛盾していない。何となくクレイは心中でそう確認する。
「ツリーまではいいかなと思うんだよな。もうあと3日だし」
「まあね」
「リースくらいか?」
「ま、そんなもんじゃないの?」
ぽつぽつ話しながら棚を見て回る。
「これどうだ」
「ま、スタンダードだね」
「なんだそりゃ」
「ありきたりというか」
どうでもいいと思って居た無駄なもの売り場が、ぼんやりした同居人が一人いるだけで意味を変える。いつの間にか何となく真剣に検討しながら歩き回る二人連れは、慌ただしい年末にも十二分に人目を引くのだった。
あ、時間切れだここまで。
[31回]
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