衛兵を下がらせた後も退出しようとしない黒づくめの侍従にサムが視線を向ける。
「まだ何かあるのかクラウリー」
「叔父上がおいでです。お話しがおありだと」
「わかった」
促す侍従に頷いて部屋を出ながら、サムはもう一人の侍従に言いつける。
「キャス、街中に適当な部屋を用意してやれ」
「よろしいのですか」
「部屋に一人でいると気が塞ぐようだ。ただ華美にする必要はない」
出ていく主従の背を見送りながらディーンは肩をすくめたくなるのを堪えていた。どうしても人を飽きられて淋しい愛妾にしたいらしい。
だがまあいい。面子があるだろうし、サムの方が先に飽きたのも確かだ。この先宮殿で寝起きせずに済むだけでも一定の成果だった。
「よろしいのですか勝手をさせて」
回廊を先に立って歩きながら囁く黒い侍従の背をサムは見下ろす。
「何が言いたいクラウリー」
「少しばかり薬を与えて、奥の部屋に入れておけばよろしいでしょう。従順に貴方の訪れを待つようになりますよ、愛妾らしく」
少し考えてサムはふん、とつまらなそうに言う。
「そこまで待たれるのも面倒だ。部屋を出れば侍女がつかなくなるから支出も減る」
「それでもお目付け役はいりましょう」
ふむ、と歩きながらサムは考えるそぶりをする。と、後ろを歩く陰気な顔の侍従が口を挟んだ。
「勤め先は殿下の会社の一つです。既に彼は監視下にあると申せましょう。住居も同様にすれば、新たな人手を割かなくてもよろしいかと。気づいたことがあれば報告するよう、他の住人に言い含めます」
「……時々お前が様子を見に行け、キャス。指導係も兼ねて」
「私がですか?」
「クラウリーをやると、気を利かせていらん薬をあれに盛りそうだ」
呟くと、「お心のままに」と黒い侍従が低く笑う。
「ただし、必要以上にあれに情をかけるなよ」
続く言葉は侍従たちにはおなじみだった。恋多き若い王子はあちらこちらで花を手折り持ち帰る。そして存分に愛でると早々に飽きる。が、それでも自ら捨て去ることはせず、他の者が近づくことへの妬心は強い。
忘れられた花の最後の処理も、王家に仕えるものの勤めだった。
まだ続く。
書いてる時はクラウリーとキャスがそろってサミーの後ろに傅いてるビジュアルがみょーにまいツボでした…