ムパラ23は誤字ではございません。
夏に「猛暑とアラブ」というタイトルで書いていたネタのペーパー版です。
本の原稿が終わった後、わーいとノリで作ったはいいものの、4pでは収まらず、8p書く気力はなくで、むりやりぶった切った代物です。
何となく心残りだったので、この際文字制限なくぶつ切りでちょこちょこ書いていくことにいたしました。お持ちの方はすみません!無配ですのでご容赦くださいませー
「ダメだよ、ディーン、許可できない」
ゆったりした部屋着で寛いでいるサムが、困ったように微笑みながら言った。
「なんでだ」
サイドテーブルに置いたグラスを手に取りながら、顔をしかめてディーンが問い返す。
ここはサムがディーンにあてがった部屋だ。大きく作られた窓からは中庭が見下ろせる。日差しは強く、白い石で作られた渡り廊下を侍従と女官らしい女たちが足早に歩いて行くのが見えた。
「お前とは楽しかったが、そろそろ潮時だろ。俺もさすがにここでぶらぶらしてるのも飽きてきた。国に戻りたい」
それを聞くとサムが少し眉を顰める。無理矢理攫って来て自分のものにしたものの、数か月経った最近はディーンにあてがったこの一角から、足が遠のいているのは事実だ。
「ここのところ、寂しい思いをさせたのは悪かったよ。でも」
「言い繕わなくていい」
宥めようとした声を遮って、ディーンがうんざりした声を出す。寂しいも何も最初から滅茶苦茶だったのだ。売り込みに行った先の社長に興味を持たれたのは別にいい。ディーンは自分の容姿が控えめに言っても見苦しくないのは知っているし、それを利用することにためらいもない。営業先から色目を使われることも、さりげなくあるいは露骨に誘いをかけられることも珍しくなかった。
だが、勧められた飲み物を飲んだ後で意識を失い、気が付いたら砂漠の国というのは想像の域を越えていた。怪しげな店に遊びに行ったとかいうのだったらまだわかるが、まっとうなはずの会社の応接室だったのだ。
連れて来られた国で誘拐だ拉致だと抗議したものの見事なまでに黙殺され、味方どころかサムの直属の部下以外いないこの環境で半ば無理矢理に抱かれた。ごく普通のビジネスマンであるディーンに屈強な兵士達が見張る環境から脱出するような手段は見つからず、恐怖と諦めの中でサムがでかい図体で繰り返す謝罪と必死な様子の求愛に次第にほだされてしまったのは事実だった。逃避だろうと保身だろうと、このままサムとここで生きてもいいかという気持ちも生まれていた。だが、サムの興味が薄れてきたのを感じると、最初の失意が通りすぎればまともな思考力も戻ってくる。よくあることだ。並外れた情熱は長く続かない。そしてこれはチャンスでもあった。
「なあ、終わりにしよう。アメリカに戻っても絶対に騒ぎ立てたりはしないと約束する。だから俺を帰してくれ」
譲りそうもないディーンの様子を見て、サムがため息をつく。
「無理だ」
「なぜ」
「ディーンはもう僕の『妃』の一人だと記録してしまってる。王家に一度入った者を、出すという概念はない」
一服盛られて国外に拉致された上に、いつの間にか男の身で妙なものにされていたらしい。
親族は皆早くに他界しているディーンは、柄でないと思いつつも、いつか自分自身の「家族」を持つことに憧れていた。
だが欲しかった家族は断じてこんなんじゃない。
びらびらとした着慣れない服を着せられて、兵士に見張られた石の部屋に閉じ込められ、時々寝るためだけに来る男が欲しかったわけじゃない。
ここは勝負どころだ、ディーン・スミス。
不意に身体の中に芯が通るような感覚が生まれてくる。気難しい相手から妥協を引き出すのは、得意分野のはずだった。
あら、好きに書いたらペーパーの時よりラブからさらに遠ざかったような気が…
続きまーす