さて、トロントコンの余波はまだ続きます。
状況説明①
とにかくナマJ2のすさまじさに、私はゾンビのように部屋中をフラフラしては
「なんだあの可愛いいきものは!?」
と叫ぶ以外、何も手につかない状態になりました。この、萌え猛る心をどーしたらいいんだ。おしえておじーさん。
状況②
泊まっていたホテルの朝食ブッフェに、紫のジュースがありました。それが何ともかとも不思議な味で、健康志向なのは良くわかるレシピで、
「スミス部長なら飲みそうだね」
「酒場のサミーも出しそうだね」
「でもまずいね」
という代物でした。
状況③
行きの飛行機のことです。出発直前に衝撃のアナウンスが流れました。
「本日は機器の故障のため、座席ごとのエンターテイメント機器は一切ご利用できません」
……11時間だよお姉さん。いったい何をしろと。勿論寝たり食べたりして何とか時間は過ぎましたが、やはり大変でございました。
で、帰りの飛行時間は行きより長くて13時間弱です。
もしもまた機器が壊れたら、何をして過ごせばいいんだ。
三人共通の、それは危機感でした。
そんなわけで、帰りのエンターテイメント機器は動いてましたが、フジョシならではの楽しい長時間フライトの過ごし方として、
紙のノートとボールペンで、
「スミス&ウェッソンリレー」
をして帰りました。離陸後しばらくして師匠からスタートし、着陸前にちゃんと書き終わりましたのよ!!
ブラボートロント!
ブラボーナマJ2!!
なので推敲も許されぬ一発書きですが。
もったいないので打ち直してあげます。
それにしてもノートとペンですよ…中学時代の交換日記みたいでほのぼのしますねえ。
(書いてる中身は三十路男二人のもーほー話ですが)
T…タキザワ師匠
K…咬さん
O…わたくし
です。
(K)
「どこへ行っていた?」
軽口の応酬を断ち切るようにディーンは話題を質問に変えた。
「買い物。朝食食べるだろ?」
ダイエットだデトックスだと食べ物にうるさい上司だが、朝には比較的自由なものを食べる。
一日のスタートには多少の動物性脂肪や炭水化物も必要、ということなのだろうか。
「物による」
可愛くない返事だが、NOで無いだけよしとしよう。これも素直でない恋人を甘やかす一つの手だ。サムは皮肉で返すのをやめて買ってきた物をテーブルに広げた。
全粒粉のパン、アーモンドミルク、ホワイトハムとローカロリーなチーズ、それにいつも一蹴されるチョコレートプディング。
本当は好物のくせに、カロリー表示を見て女の子みたいにため息をつく。今日もまた一瞬眉が寄った後、ディーンの口からは冷たい声が出た。
「大体いいが、これは余分だ」
「なんで」
「カロリーが高すぎるといつも言ってるだろ。嫌がらせなのか?」
「でもアンタ好きだろ」
「好みの話はしていない。カロリーだけじゃなく糖分も脂質も過剰なんだお前が食え」
「一口とか?」
「殴るぞ」
「一口くらいならカロリーオーバーじゃない」
「断る」
一口食べたら止まらなくなる。それは本当は好きだから。自制に長けて見えて、意外に欲求に弱いことは少し前に知った。
「夕べ運動したじゃん。太らないよ、むしろ栄養補給しなよ」
冗談に紛らわせて言うと彼の眉間にしわがよる。外したか、と思ったが耳朶のあたりがやや子供みたいなピンクに変わって怒りより動揺を知った。
「何なら、食べてからまた運動しても」
「阿呆」
しまった言い過ぎた。すっと耳朶の色を白に戻したディーンはテーブルにあった新聞でサムの頭を叩くと、キッチンを出て行った。
「着替えて来る」
頭を擦りながら、しわの寄ったパジャマの背を見送り、サムはシンクに寄った。相変わらずツボのわからない人だ。
先週はこれも恥じらってくれたのに。とりあえず、直球すぎる性的ジョークは今日は却下。
バスルームのドアが開く音を聞いて、サムはトースターのスイッチを入れた。
(O)
バスルームから出てみると、窓際に寄せたテーブルに皿やらなにやら並べながら、サムはどことなく落ち込んだような顔をしている。
(なんだ、拗ねたか?)
最近はほぼ同棲状態の恋人だが、相変わらず今一つ扱いが分からない。
どうということのない会話で、いきなり興奮して飛びついてくることもあれば、ちょっと言ったことでしょぼくれてしまうこともある。
今朝は朝から疲れるジョークを言うので叩いたことくらいしかないが、ショックを受けた風でもなかったのだが。
ここで機嫌を取ってやるかどうかは微妙な問題だ。なにせ週末だからと羽目を外してしまったおかげで身体のあちこちがまだ痛い。いい加減見慣れてはきたのだが、バスルームで昨夜の残滓を見る朝というのはなかなかに拷問だった。あちこちにくっきり残った噛み痕が、自分からねだった結果だとすれば特にだ。
しかしまあ、そんなあちこちがズキズキヒリヒリするおかげで、朝っぱらからのジョーク交じりの誘いにも乗らずに撃退できたとも言える。
(以前似たようなことを言ってきた時に、同じノリで返したらそのまあ寝室に逆戻りになったことがある)
そんなあれこれを数歩のうちに頭によぎらせながら、ディーンはテーブルに近づいた。
テーブルの上には朝の陽が当たって明るい。夕食を摂る時と、いちいちテーブルの場所を動かすサムに最初は無駄なことにこだわる、と思ったがこうしてみるとなかなか悪くなかった。
そしてテーブル上を見て少し目を見開く。
さっきは見なかったサラダと、野菜ジュースらしいものがピッチャーに入れて置かれていた。
「豪勢だな」
皮肉でもなんでもなく声が出たが、サムはその声にますます眉を下げる。
「この間、人にきいたレシピを試したんだけどね。何か微妙な味だよ」
(T)
「へえ、どんな味だ?」
ピッチャーに入った色から想像すると、ベリー系を使っているのかもしれない。ディーンは何となくその手の味を想定しつつ、まずはグラス半分に注ぎ入れた。そしておもむろに一口だけ口に含む。
「まあ、飲めなくはないな」
少しベリーの酸っぱさが立ったような、けれどそれを抑えるようなナッツの香りもする。まあ全体的に不思議な味かもしれない。だがどちらかと言えば好きな味だ。
「割とイケるなコレ」
グラスを軽くかかげてみせれば、サムは少しホッとしたような顔をした。どうやら作ってはみたが本人的には満足のいくものではなかったのが原因らしい。先日無理矢理たべさせっれた豚肉料理に比べたらはるかにマシだ。そう、あれは悪魔の食べ物だ(嫌いではなかったし味も好みだった分余計に)。
脂質の多いものは止めろと口酸っぱく言っているのに全くもって聞き入れない。
毎日が色々と大変で難しい。
だが、たまにディーン好みの物もこうして出てくる時もある。どうにも本人的には納得がいかないようだが。
サムは下げていた眉を今度は上に上げる。
「この味でおいしいって思う訳?アンタやっぱり味覚が変だよ」
自分で作っておきながら何だその言いぐさは。全くもって失礼な奴め。そう思いつつも材料とレシピが気になったので一応訊いてみることにした。
「で?何が入ってる?」
(k)
「別に普通…でもないけど、変なモノは入れてないよ」
なのに何でこの味なんだ、とか何とか後半は独り言だろう。すぱっと無視してディーンは同じ問い掛けをした。
「何が入ってるか聞いてるんだ、レシピを。この味と香りはベリー系のフルーツと、何かハーブだな。それにナッツ、後は?」
「マジで気に入ったんだ」
何か月付き合っていると思っているのだろう。ディーンはこんなことで世辞は言わない。
いや、もし相手が取引先の令嬢などであれば、ドッグフードとセブンアップをミキサーに突っ込んだものでも笑顔で飲み干せるが、サムにそんな必要はない。口に合わなければ好みじゃないと言い、代わりにどんな味にしてほしいか伝えることにしている。サムは自分の注文を聞くと「また健康と美容オタクが何か言ってる」と鼻先にしわを寄せるが、大事なのはどちらも我慢しないことだ。
少なくともディーンはサムに対して素直でありたい。他の、今まで付き合った恋人のように上澄みの綺麗なところだけすくって飲むような関係は嫌だと思っている。そこまで正直に話したことはないけれど。
「まあいいや。中身はビーツ、ラズベリーとブルーベリー、アーモンドミルク、カモミールティーにレモングラス。冷蔵庫のベリーミックスとハーブは勝手に使った」
「ビーツなんてあったか?」
「夕食に使おうと思って買ってきてた」
何とも独創的な組み合わせだ。が、理論的でもある。ビタミンA、C、Eにデトックス効果のあるハーブ。アーモンドそのものでなくアーモンドミルクを足すことで脂肪分を抑えてカロリーカット。
「教えてくれたのは女性か?」
何となく、男には思いつきにくいレシピだと感じた。サムは問いの意図をどう受け止めたのか、瞬きしてからにやりと笑う。
「知りたい?」
バカか。知りたくもない。。じゃなくて、そこはどうでもいい。いいはずだ。ダイエットなどこれっぽっちも興味のないサムに、こんなとっておきのレシピを教える女がいるなんて。同僚だろうか。コールセンターには若い女性のパートタイマーも多い。
「おい、アレンジするぞ」
「は?」
何となくムッとしたディーンはそう宣言すると冷蔵庫に向かった。
「もっと良いレシピにしてやる」
「これにさらに混ぜ物を?!やめろよ、あんた味覚音痴なんだから!!」
サムの失礼な突っ込みが、ディーンの対抗心に火をつけた。自分が正直なのはいいが、こいつに本当のことを言われるのは癪なのだ。
(O)
本気で冷蔵庫を物色し始めた相手を、
「せっかく焼いたパンが冷めるから」
と泣き落としモードで何とか止めて、サムはディーンをテーブルに引き戻した。
「すぐできるのに」
とディーンはブツブツ言ったが、まったくもってわかっていない。ピッチャーの中身をせっかく洗ったジューサーに戻したり何だりしていたら、10分や15分くらいすぐだ。ディーンが一人ではほとんどキッチンに立たないのは、不経済だが実に良いことでもあると思う。
ビジネス上はあれこれ器用にこなす彼だが、こと台所関係については壊滅的だった。
ついでにさっきディーンが手に取っていたのは、粉末カルシウムとヨーグルト、カットしたマンゴーだ。
どれか一つでも恐ろしいのに、3つ全部プラスされた日には考えるのも頭が拒否する。
そしてきっと本当に飲むのだこの男は。最初に会った頃も、レモンと唐辛子にカイエンヌペッパーなどが混ざっている謎の物体を「いけるぞ」とぐいぐい飲んでいた。…と、そこまで考えて、自分の努力の結晶は、アレと同列かとふと思いあたってしまった。
なんだか不本意だ。すごく。
「お前、今日の予定は?」
朝食を取りながら唐突に訊かれて驚く。
珍しい。いつもだとサムから訊くことが多いのに。
(T)
「今日?取りあえずシーツを洗って干して、その後は特に考えてないけどまあ日用品で切れてるものの買いだしかな?なんで訊くの?どっか行く予定でもある?」
仕事の日以外ではかなり出不精気味なこの上司は、休みの日と言えば大体家に居て、例えば前日までの株取引の動向を調べてみたりして翌日からのトレードに備えるとか、まとめて買ってある経済関係の本だのを読みふけるとか、さして平日の仕事ぶりと変わらないようなつまらない時間の過ごし方をするのが常だ。あと一つ付け加えるならば、週末だからとはりきり過ぎたサムとのアレコレのせいで半日くらいベッドと仲良くなっていることもあったりはするけれど。せっかくの休日が無駄になったとベッドでうなる姿を見ると、サムとしては何となく何かに勝てたような気がしてしまう。本人には絶対に言わないけれど。
とまあ、そのディーンが予定を訊くという時点で珍しいのである。興味を持つなという方が難しいだろう。態度に出さないけれど内心どういう答えが返ってくるのか少し期待してしまう。そんなサムに返ってきたディーンの答えは、かなり驚くものだった。
「別に今日でなくてもいいが、お前にスーツを一着見繕おうと思ってる」
「…は?」
「いるだろ?」
「いや、いるだろってちょっとアンタ」
相変わらずサポートセンター勤務のサムだ。上司のディーンとは違ってスーツを着て会社に行く必要もない。なのになぜいきなりスーツなのだろう。サムは頭の中を疑問符でいっぱいにしながらも、自分を落ち着かせることに集中した。
「着ていくあてもないのに、スーツなんか作ってどうすんのさ。それとも何?スーツ着てどこか別の会社にでも面接に行けって?やだよ。冗談じゃない」
気持ちを落ち着かせたつもりだったが、何となく駄々をこねたようになってしまう。相当動揺しているらしい。そんなサムの言葉にディーンはキョトンとした顔をする。
「何言ってるんだお前?こないだ話したろ?俺の友達の結婚式で新郎側の付添人が足りないからお前に頼めないかって」
そう言われれば何となく記憶にあるような気が。サムは記憶を掘り起こしてみる。一週間ほど前、一緒に夕食を食べていた時、そのようなことを言われたのは確かだ。
「で、でもそれとスーツって?」
「俺が頼んだんだから、スーツ一着くらい手伝いのお礼に買ってやろうと思ったんだが。何だ、嫌なのか?」
(k)
「買ってやろう、ね」
ディーンの言葉をそのままくり返し、サムは首をすくめた。友人の結婚式云々が本当かどうかはさておき、ここにディーンの本音が見えた気がする。
スーツを用意しておけ、ではない。買ってやろうだ。確かにパートタイマーの自分と部長クラスのディーンでは収入に格段の差がある。
同じスーツとは言え彼御用達の英国ブランドと、自分が思い至る紳士服店の吊るし売りでは明らかに違うだろう。エリートで育ちの良いディーンの友人ならば恐らく上流階級の人間だろうし、そこに安物のスーツで列席されては恥だ。
だから「買ってやろう」。これは好意だ。だが同時にディーンの自分に対する評価や期待を端的に表しているとも言える。このくらいのスーツを用意しておけと言われれば、仕事を掛け持ちしたって買ってみせるのに。
「サム?どうした。何をすねてる」
「すねてないよ」
急に黙ったサムを案じるようにディーンが呼びかけてくる。ここで今思ったことを言うのは当て擦りのようで、いくらなんでもガキっぽすぎる。キャリアや収入の差は事実なのだから。
「嘘だろ。ここにしわが寄ってるぞ。サミー、俺はごまかせない」
たまにディーンはサミー、とサムのことを気安く呼ぶ。いや、気安くではないだろうか。親し気に?優しく?とにかくディーンの呼び方はサムの胸に形容し難い甘く苦い波を立てる。
「ごまかしてない」
サムは辛うじてその波を耐え、笑ってみせた。
「スーツは自分で買うよ。結婚式の日を教えてくれたらそれまでには用意しておく。グレーか、チャコールがいいかな。シンプルに黒?何にせよアンタに恥をかかせない程度のものを着るから、気を回さないで」
(O)
どうも自分はまたやったらしい。
ムッとした後傷ついたような顔になり、最後に無理に笑ってみせたサムの表情の変化を見ていたディーンは心中で呟いた。
二人で過ごしている時はいい。だが、外の世界と関わろうとする時、ふとしたことでサムの矜持に触れることがある。
だが、サムの生活に不要なスーツを、いわば制服として支給しようというのに、何をうじうじする必要があるのか。
「だめだ。目星をつけたのがあるから、それを着てもらう」
「なにそれ!」
今度は見事にムッとするサムに、あえて上から言い放つ。
「それに付き添い用のスーツは、普段使いに向かない」
「…ふうん」
渋々と引き下がるサムを尻目に、先ほどのジュースをもう一口飲む。やはり悪くないと思うのだが。
「…そんなドレッシングみたいな味、よくゴクゴク飲めるよね」
サムが嫌そうに呟いた。
「自分が作ったんだろうが」
ムッとして言い返す。だが、そのやり取りで少し空気がゆるんだのでホッとしてホワイトハムを少し切り取って口に入れた。マスタードが添えてあって旨い。
「…式がある町は地元産のビールが名物だ。料理の旨い店もあるぞ」
「旨いって、あんたの感想?」
何が言いたいのかとても良く分かる表情でサムが言う。
「ネットの口コミだ」
「なら楽しみにしてる」
サムが笑って、ディーンは敢えてムッとした顔を作る。
チーズを口に放り込んで、向かいに座るサムの頬にえくぼが浮かぶのを何となく眺めた。どうも機嫌は直ったらしい。良く分からないが結構なことだ。せっかくの休日を、不機嫌なサムと過ごしたくはない。
パプリカとレタスをフォークで突き刺し、口に運ぶ。ドレッシングはノンオイルの中華風だ。そう、これがドレッシングだ。ちゃんと旨い。
サムがまた笑ってコーヒーを飲んだ。
「機嫌が直ったみたいだな」
言うとサムが上目づかいにこちらを見て、目を細める。
「今朝は良く食べてくれたからうれしくってさ」
言われてハッと気づくと、結構な量盛られていたパンにハム、野菜があらかた空だ。
うっかり考え込んでいる間に食べてしまったらしい。
「しまった」
「やっぱりあんた、お腹減ってんじゃん」
いつも十分だとか言ってるけど。
サムはパンにハムとサラダを挟み、豪快に食べだした。
「朝っぱらからカロリーオーバーだ」
「愛情込めた朝食を受け取ってくれて嬉しいわダーリン」
「やめんか!」
ディーンは唸り、サムは笑い過ぎてパンを喉に詰まらせかけて咳き込む。
チョコレートプディングの皿だけが手つかずで残り、うっかりあれまで食べなかったことだけでも自分をほめよう、とディーンは思った。
外は快晴、風は穏やか。
たまの外出はきっと悪くないだろう。
END
もうね、もうね、皆飛行機の中で寝たり機内食食べたり映画観たりしながら、ノートを回し合ったんですよ、楽しいよう!
転寝して起きると、目の前のテーブルにノートが来てるの(笑)
皆いきおいで書いてますので、細かいつじつまはスルーしてくださいませね。
着陸どがががががと止まる前にエンドまで行ったので、ミッションコンプリートなのでございます。
あーーーーーーーーーーーーコン楽しかったなーーーーーーーーーーー!!