まだ続くクレトムです。
同じお題で監禁クレトム版もみたいな、と某師匠が言われたのでチャレンジ。
今日は私が唯一一人の時間がとりやすい曜日なのですが、台風のおかげで今一つ集中できません。早く原稿書いちゃいたいのにー
指定したのは分かりやすい場所のはずだが、相手は部屋にこもりきりのトムだ。クレイの勤務先近くの繁華街に来たことがないのはほぼ確実だった。
だが。
駆け足になっていた歩調を緩める。
平日昼間でほどほどの人出だ。人待ち顔の数人に混じって、当たり前のような顔でトムは立っていた。黒っぽいジャケットを羽織り、周囲に溶け込んでいる。ただ一点を除いては。
(しまったな、忘れていた)
そう思いながらまだこちらに気付かない相手の方へ歩を進める。トムの白い顔の中で、顎についたうっ血の痕は遠目からでも目につく。
いつも気にすることなく好き勝手に痕を付けてきたが、これは文句の一つも言われるかもしれない。
「トム」
「ああ」
声をかけると、だがトムは別段思うところもないらしく平静な顔で振り向いた。なのでクレイの方もあえて指摘せず、用件を先にすますことにする。
「買えたか?」
「ほら」
訊くとトムが手に提げていた小さなショッピングバッグを差し出してくる。クレイは中を確認して、頷いた。
顧客への手土産に急きょ必要になり、自分で買いに行く暇はないのでトムに店を指定して頼んだものだった。
「それでいいのか」
訊かれて頷く。
「サンクス。助かった」
そう言うとトムが少しだけ目を見開く。礼を言ったのがそんなに珍しいか。
「領収書は取ってきたか」
そこまでは指示していなかったが、トムは当たり前のような顔をして手渡してくる。どうにもこうにも、その世慣れた様子が部屋に閉じ込めているも同然の同居人のイメージと合わなかった。
「どうした。さっきから妙な顔をしてるぞ」
逆に相手から訊かれてしまった。隠す理由もないので肩をすくめる。
「いや、こもりっきりのあんたにしてはそつないなと思って」
どうにも素直にほめられないが、トムの方も別段ほめられたいとも思っていないようだった。
「ただの買い物だろ。ガキでもできる」
「まあね」
そう、考えてみればこの男は定住せずに一人で逃亡の暮らしを延々としていたのだ。慣れない土地など当たり前のことなのかもしれない。たとえここしばらくはクレイの部屋にいることが続いていたにしても、年月としてはごく一部だ。
「それでいいなら行くぞ」
トムがそう言って歩きだそうとするが、方向が駐車場と逆だ。
「あんた何でここまで来たんだ」
「バスだが」
考えてみれば自宅の車はクレイが使っているのだから当たり前だ。
「そっちは逆だけど」
「少しその辺をぶらついて帰る」
「…やめとけば?」
「なんで」
心底怪訝そうな顔をされて、文句を予想しつつ自分の顎をちょいちょいと指す。
「目立つ」
だがトムは「なんだ」と肩をすくめた。
「別に気にしなければいいだろ。誰もそんなもん見ない」
そう言って背中を向ける相手の腕を捉まえかけ、時間を見て止める。約束の時間に遅れてはわざわざ呼び出した意味がなかった。
昔、自分の見てくれはトラブルの元になった。
そうトムが話したときには、まああの顔ならそうだろうなと思ったくらいだったが、その他の問題も多々ありそうだった。
大体そんなもんとは何だ。
今日帰ったら、あの痕の上からもう一度血の出るほどかみついてやる。
そんなことを考えながら、クレイも踵を返した。
終わり
どんなもんでしょ師匠。
色々変なのは台風のせいです。うん。