いかん。
書こうと思ったら全面的に脳が停止しています。
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非常食活用、前々回むぱらのフリーペーパー、部長とバイト。
ディーンはビジネスマンの常識として毎朝きっちり起きるが、正直なところを言えば朝はあまり得意ではない。なので休みの日は比較的遅い時間までベッドでゴロゴロしていることが多いし、トレーニングもシェイプアップと健康維持のために心がけてはいるが、情熱をかけて取り組むというほどではない(健康食品にはやや情熱を注いでいる)。
が、紆余曲折の挙句恋人になり最近はどうも同棲に近づきつつあるサムは、いっそ見事なまでに朝型の男だった。
「朝は空気が澄んでて気持ちいいだろ?」
「……眠い」
ジムより金のかからない健康法だの、狩りのためにももう少し持久力を付けた方がいいだの様々な理由で、この巨大熊が家に居ついて以来、スミス部長の休日の朝は公園に引っ張り出されてのトレーニングタイムと化している。また、運の悪いことに自宅からほど近い徒歩圏にちょうどいい公園があるのだ。振替休日の今日は、普段の日曜とはまた違った顔触れが公園で様々な過ごし方をしている。
朝っぱらからすっかりやる気のサムはさっさとウォーミングアップを始め、ディーンはベッドを懐かしみながら足首を回す。
それでもサムと公園に通いだして以来、トレーニングウェアだのジョギングシューズだのを購入してしまったので使わないのも無駄だとも思うのだった。
ジョギングとワークアウトを終えると、サムは当たり前のように一緒にディーンの部屋に戻り、当たり前のように朝食を作りだした。
「………」
これはいかがなものなのだろう。シャワーを終えるとさすがに頭もすっきりしているのだが、今度はキッチンのシンク前をどどんと占拠する広い背中を見つめながらディーンは少し悩む。
深い仲になった相手が、いつのまにやら部屋に住みつき、我が物顔で暮らすようになるというのは、一般的にそれほど珍しい話でもない。ディーンとサムのように所得や部屋の広さに差があればなおさらだ。蜜月の期間はいいだろうが、仲が冷めたりこじれたりした時が泥沼になりやすい。いざというときに変な二次的トラブルを起こさないように、最低限のセキュリティは気にしておいた方がいいんだろうな、とぼんやり考えた。いつかサムとの距離が離れたとき、金銭や仕事上の秘密事項まで気にかけたくはない。
と、これまたディーンのぐるぐるした思考がテレパシーで伝わったかのようにサムがくるりと振り向いた。少しばかりやましい気持ちでドキリとするディーンをなだめるように苦笑する。
「なんかまた考えてるみたいだけどさ。取りあえず朝食、ほら」
手渡されたスムージーを大人しく受け取る。リンゴとイチゴを入れているのは見えたし、横に山盛りになっていた野菜が消えているので、それも含まれているのだろう。口を付けると色の割に飲みやすかった。半分ほど飲み干し、一息つく。と、サムがふいと手を伸ばして、ディーンの唇をふいた。
「なんだ」
「ついてる」
言われて掌で口元を拭う。何となくむっとして相手はどうだと顔をじっと見るが、残念ながらきれいなものだった。
「あのさ」
「ん?」
「気になるみたいだったら今日は一度帰るよ?どうせまた明日会うしさ」
まさに図星を突かれてどきりとする。
「先週半ばくらいから、ずーっと一緒にいるから。少し疲れた?」
だがそう言われてディーンは首をかしげる。別段疲れてはいない。
今現在のことではないのだ。先が気になるだけで。
ディーンがそう言うと、大人びて穏やかな表情を浮かべていたサムの顔が突然だらしなく崩れた。
「あんたって、ときどき無茶苦茶可愛いこと言うなあ!」
「はあ!?どんな耳をしてるんだお前は」
ディーンは呆れるが、サムは気にせず飲み終わったグラスを置くと、ディーンの飲みかけのスムージーを取り上げてキッチンのカウンターに置き、まさに熊のように重量級のハグをかましてきた。
「おい!わけがわからんぞ」
「えー?だって、僕との距離がどんどん近くなっててあんたの好きなコントロールも効かなくて、今が幸せで、いつか離れたらって考えたら悲しくなっちゃったってことだろ?」
「似てるようだが全然違う。大体なんだその悲しくなっちゃってってのは」
自分が気にしていたのは独立した大人としての適正な線引きのことであって、能天気な熊に浮かれられるいわれは全くない。暑苦しいハグ(シャワーの後でせめてよかった)を引きはがそうとするが熊は無駄に腕力が強い。
「だってあんたさっき、そんな顔してたもん」
「…それはお前の耳だけじゃなく目もおかしい」
意図して冷たく言い放つ。こういう言い方をするとサムは凹むことが多いのだが、今日は違った。
「あのさ、でもほんとに心配ないよ。今度の狩りが終わったら言おうと思ってたんだけど、大学の授業を受けることにしたから、バイトを半日勤務に減らすことにしたんだ」
「え」
急に全身の血が一気に冷える気がした。
「だからあんたが心配してるべったり度も少しは減るでしょ」
「聞いてないぞ」
「今言っただろ。あ!ちょっと言っておくけど通信だからね」
あんたと家で一緒にいられること増えたから、どうせフロアが違う昼間はいいかなーと思ってさ。
慌てたようにワーワー言う顔を見ているうちに、遠方に行くとか別れ話では無いことが腑に落ち、止めていた息をやっと吐きだす。ムカつくことにどうも馬鹿熊の観察も全くの外れではないらしい。
「ごめん。そんなに脅かすつもりなんて全然なかったんだ」
サムが眉を情けない角度に下げて謝罪してきた。
「…驚いたが、別に脅かされてはいないぞ」
動揺は悪だと反射的に思うのはビジネスマンの性質だ。今も絶対に表情には出していないと思うのだが(さっきは気を抜きすぎていた)サムは聞いちゃいなかった。両手でディーンの手を握り締める。
「だって手が一気に冷たくなったし」
「……」
体温コントロールまではビジネス講習でも習わなかった。今度調べておこうとディーンは心に決める。動揺を気取られたら負けだ。
「イメージとしてはさ、朝は勉強して、午後働きに行って、夜は会ったり、幽霊狩りができたらいいなと思ってるんだけど、どう?」
「…忙しい奴だな」
「体力はあるから大丈夫だよ」
気が付くと頭を抱え込まれてやたらとあちこちにキスをされていた。落ち着くと鬱陶しくなったので顎を押しやるが、邪険にされてもサムは笑っている。いつの間にこんなに図々しくなったのだろう。そもそも末端バイトのくせに。 と、そこまで考えてふと気づいた。
「お前がセンターにいなくなったら、社内コールで呼び出せないじゃないか」
上司の特権が失われて不自由だ。そう思ったのだが、またしても熊の耳には何やら他の電波が入って受信されたらしい。見上げた顔がみるみる赤くなったかと思うと、再び馬鹿力で持ち上げられる。
「……!!!まったくもう、あんたってどうしてそんな顔でそういうこと言うかな!!」
そしてそのまま寝室に連れ込まれ、せっかくの部長の休暇は公園のワークアウトのみで終わってしまうのだった。
出来上がりきってEND