ディーンが狩りに出ることは最近はめっきり少なくなった。
だが、頻度が少ないからと言って狩りの危険が低くなるというわけではない。むしろ実戦が減った分、身体や勘は鈍った状態で出かけることになる。
なのである日サムの携帯に、久々に
「あなたのお兄さんが入院しています」
と病院から電話が入るのも、決してありえないことではなかった。
ありえなくないからと言って、驚かないわけではない。サムは文字通り鳥肌をたてて病院に向かった。
「ディーン!」
「よお」
病室に入ると、すぐに返事があったのは幸いだ。病衣を着せられた兄は、またしても鼻にチューブを突っ込まれてベッドに横たわっている。
なににやられた、と尋ねかけたところにちょうど主治医が入ってきたので危うくこらえた。
「容体はどうなんです?」
今回の怪我は背中の大きな裂傷でそれほど深くはないが、かなり長い。
「落ち着けよサミー」
かすれ声で言われて、病室を出る医師の背中を見送っていたサムは、自分がアタッシュケースを持ったまま突っ立っていることにようよう気付いた。
「酷い怪我だ」
「ねたむな。弁護士なんかしてたらこんなワイルドな傷はできねーだろうけどな」
「何言ってんのさ」
サムが呆れた声で呟くと、兄は小さく口元で笑って目を閉じる。眠ろうとしたのだろう、だが体勢を変えかけて「いてて」と呻いた。
「…痛む?」
「……まあな」
この兄がそんな風に認めることは珍しい。サムは帰ろうか迷いかけていた足をベッドサイドに戻して椅子に座った。
「心配ねーよ。帰れよ」
音を聞いて薄っすら目を開けたディーンが、少し顔をしかめて言う。確かにここにいたところですることもないのだが。
「そういえば、昔僕が怪我すると、ディーンって大体横にいたよね」
「…お前は色々注文が多かったからな…」
動きそうもないのを察したのだろう、ディーンは諦めたように目を閉じたまま口の中で呟いた。
「注文?」
「やれ水が欲しいの、やれテレビを点けての、痛いからおまじないしてくれだの…」
だるそうな割に良くしゃべる。
そのことにホッとしつつ、一方でもしかして自分はけが人が休むのを邪魔しているのか?とも思う。そして聞き捨てならないセリフが。
「おまじない?」
「チビのころだ」
「ああ…」
確かにごくごく小さいころは、「Kiss is Better」さえ、この兄にねだっていた。まあ、エレメンタリーにも上がる前のことだ。
「…してあげよっか。痛いの痛いの飛んで行けーって」
「あほ」
言下に却下しつつディーンが小さく笑い、サムも何となく微笑んだ。が、そこまで来てからすぐ近くに立っているナースが何ともいえない顔で固まっているのが目に入り、文字通り血の気が引く。
いや、何一つ疚しいことはないのだが。
青くなるサムに気を使うようにそっと離れるナースを言葉もなく見送り、
「サム?」
やはり怪我のせいかいつもの感度がないのだろう、目を閉じたままナースの存在にちっとも気づいていないらしいディーンに、
「なんでもない。眠そうだから帰るよ」
としか言えないサムなのだった。
おわる。
もはや今回ははなから140文字は捨てました…
一応数えたけど1250文字。ははは。
そのせいで一日で書けなかったから140文字版にもチャレンジだ。
「やっぱり鈍ってるんじゃない?」
久々の狩で怪我をした兄をサムは安心混じりにからかう。
「うるせえ」
応える兄は不機嫌だ。青くなった昨夜と徹夜のドライブの恨みもこめて続ける。
「痛いの痛いのとんでけしてあげよっか」
「いらねー」
兄の嫌な顔には満足したが、医療スタッフの引いた顔もついてきた。
ははは!140ぴったり!
…なんだろう。なぜ勝手に自分に負荷を増やしてしまうんだろう…
[21回]