というわけでとある日のロボサムと兄貴。
部屋に入った瞬間、ディーンは息を飲んだ。
ベッドに横たわるサムは、一見変わったところがないように見える。常人ならばだ。魂を無くしてからのサムは、眠りというものを取らなくなった。それは本人の話だけでなく、ディーン自身も行動を共にする中で確かに事実だと確認している。
そのサムが。ベッドにまっすぐに横になり、目を閉じている。
咄嗟に周囲の気配を伺うが、何かが潜んでいる様子はない。
そろそろと近づき、部屋の中を見回しつつ、そっと頸動脈に指の腹を当てた。意識がない相手を目にした時の、それは習慣化した動作だ。
だが、その指に命を伝える感覚は触れなくてぎょっと視線をサムに戻す。そっと鼻に手をかざすが、呼吸を感じない。
「地獄でボロボロになった魂を戻したら、僕が壊れる」
その会話をしたのは数日前だ。昔のままに戻れなくても、このまま生きていきたいというサムの言葉を、ディーンは文字通り蹴散らかして、天使でも悪魔でも死神でも、サムの魂を取り戻せそうな相手には片っ端から話を持ち掛けている。
そのどれかが身を結んだ、ということなのだろうか。
『助けてくれ、ディーン。魂を戻される』
メッセージの声はわざとらしくて、ディーンは「そりゃあ願ってもないぜ」と留守録に呟きつつモーテルに戻ってきたのだが。
地の底の魂が、この身体に戻ったのだろうか。
戻ったが故に耐え切れず壊れて、ここにあるのだろうか。
いや、今度こそ逝ってしまったのだとしたら、半端に残された魂の欠片もろともに、今度こそ天の国に行ったということになるのか。
横たわる身体は動かない。
推論は頭の中を飛び交うものの、感情は麻痺していた。
取り返しがつかないことをしたのか。
これでよかったのか。
これしかなかったのか。
体の内側で、微かにうごめくものを感じる。それはざわざわと腹の中で広がり、次第に表層へ近づいてくる。遮断しようとして失敗した。寝台に手をつき、その顔を覗き込む。
「サム」
掠れた声で小さく呼ぶ。と、スイッチが入ったかのようにその目がパチリと開いた。
「サム!」
「焦った顔だね」
「当たり前だろうてめえ、息してなかったんだぞ!」
「生きててよかった?」
「はあ?」
「魂のない僕でも、生きててよかったと思った?」
ベッドの中で半身を起こし、ディーンの方を見る。その妙に興味津々な顔からひらめくものがあった。
「…死んだふりかてめえ…」
「違うよ、薬。一応信用できる売人から買ったんだけどね。一定時間死んだようになるって。通称ロミジュリ薬」
「怪しいことこの上ないだろうがそんなもん」
「天使も悪魔も止めるようなボロボロの魂戻すよりましだよ」
「…」
「ねえ、後悔した?」
「………無茶苦茶ムカついてるぜ」
そしてディーンは腹の中のざわざわを全て拳に変換して、文字通り顔が変形するくらい「ねえねえ」と感想を聞き続けるロボサムを殴り続けたそうな。
その後治させようと天使を呼んだけど、巻き込まれるのがめんどくさいらしく、ちっとも出てこなかったのでサムはかなり長い間腫れ上がった顔で過ごしたらしい。
日付が変わりそうなのであげちゃうぴょん。
そしてお題に行きつかなかった。
「しあわせにいきつかなくても、全部なくなるより良くない?」
とロボサムが兄貴に尋ねるのが書きたかったお話しでした。
ロボサム好き好き!!
追記:もしかして知りたい人がいらっしゃるでしょうか…1293文字でした…
[19回]