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付き合うってなあに
トムとクレイは改めて付き合うことにした。
「…で、どうしよう。」
もう一緒に住んでるし。
寝てるし。
友人というか、知り合いとの同居から、お付き合いしている二人の同居に変わった上は、何をしたらよいものか?
「そう!トムは“身体払い”とかいうのやめること!」
びしっと指差しながらクレイが言い切った。
ちなみにテーブルの上にはビールの空き瓶がゴロゴロし、二人の手にはグラスが握られている。
二人が出会ったのは旅の途中の酒場だ。それなりに飲むのはお互いに承知の上。飲み交わしたこともしょっちゅうある。
だというのに、クレイの借りたこの小さな家に住むようになって以来、なぜかどちらも酒に手を伸ばさなかった。
カラン、と鳴る氷。久しぶりのアルコールが手足の先まで沁みていく気がする。
「言わない」
両手でグラスを抱え込んだトムが即答した。
「え?すごく素直だね。嬉しいけど」
「あれで“支払い”とはさすがに言えない・・・」
ここ数ヶ月分を取り返す勢いで、トムはさっきからショットグラスを飲み干しては即座にまた注いでいる。
「そういう視点!?怒るよ」
「怒って当然だ。誘っておいて、手間かけさせてあざまで作って、しかも最後までさせられないなんて。俺だったら絶対怒る」
テーブルに置いたグラスに向かって、トムがぼそぼそ呟く。
いやいやいや。
何でそうなるんだ。
クレイはトムが好きだと思う。
トムの身体に触れたいと思うし、ぴったりと触れ合って快楽を分かち合えたらすごく嬉しい。
だけどトムの発想はどうも「一緒にいるための対価」「世話になっている対価」「クレイが望むなら寝てもいい」というラインから離れてくれない。
「そーじゃなくて、」
クレイはうめく。
「じゃあ、トムは、前みたいに一緒に旅してる状態で、宿代も折半にしてたら、僕と寝ようとは思わなかった?」
トムが固まった。宙を睨んで、じっと考え込んでいる。
「うー、お前を、抱きたいと思ったかって言われると・・・」
・・・あ、今度はそっちに行くんだねトム。
「一緒には居たいからいたんだ。けど、あのままずっと旅してたとして・・・」
「じゃあさ、旅の途中で、貸し借り無しの状態で僕がトムを誘ったら?」
「そりゃ寝るさ」
あっさりとトムが答える。
「お前がしたいんなら、そりゃ寝るだろ」
大分酔いが回ってきたのかクスクス笑う。
「ただ・・・」
くっくっくっと身体を丸めて笑い出す。
「なんだよ」
ちょっと狭いが向かいのソファからトムの隣へ移る。テーブルに突っ伏しそうなトムを覗き込んだ。
「言ってよ。なに?」
ほんのり顔を赤くしたトムが、うっすらと涙まで浮かべてこちらを向く。
「いや・・・お前がしたいって言ったら、絶対そうしただろうけど、俺・・ちゃんと抱いてやれたかどうかわからん・・・!!」
ついにグラスを放棄してソファーの上で丸まってひーひー笑い出した。
怒るところか?
トムに恋する僕としては、お前相手にたたないと言われて、ここは怒るべきところなのだろうか。
それともどうして旅の途中の話になったら、トムがトップという前提にしかならないのかという点を突っ込むべきか?
だけど恋とアルコールに寝食された脳みそはどちらもどうでも良いことに分類してしまい、
意識の真ん中でぐるぐる回るのは、初めて見るトムの笑い転げる姿と、
「お前がしたいなら」と即答したトムの声だけだった。
「トーム」
息切れしてきた頃に声をかける。
「ん?」
まだ笑いの余韻を残して起き上がってきたその唇に、そっと触れるだけのキスを落とした。
とたん、トムが固まる。
「トムからもキスしてくれる?」
息がかかるくらいの距離だけ離れてささやくと、ニヤッと笑って柔らかく唇を吸われた。
「これはいいよな。男も女も変わらないし」
言って、もう一度軽く包み込むようなキスを贈られる。二度、三度。
「そうだ、思いついた」
キスの合間にクレイが言った。
「なんだよ」
「これからはさ、付き合ってる人がいるの?って聞かれたら二人とも『いるよ』って答えるんだよ」
とたん、トムが文字通り真っ赤になった。
「恥ずかしい奴だな!!」
・・・・・・・トムの基準はクレイにはよく分からなかった。
おわり
今回もいちゃいちゃしてるだけだなあ。
うっかりすると惨劇とか悲劇とか決裂とかに走りそうだけど、まあこの二人はほのぼのジレジレで。
この間の夜は結局失敗に終わったというか、途中で終わった模様です。あざは一杯出来ました。