はっと気づくとまたもやなちゅらるに停滞ムードになっております。
いかんいかん、むぱらが年3回ペースなのは楽しいのですが、その分燃え尽きた灰になる頻度も高いのでいかんですね。
いかんときにはとりあえずこんな時の非常食料過去無配。←
むぱら21の時にだした後先考えてない夫婦呪いの一コマです。
ちょっと別バージョンも書いてからアップしようと思ってたんですが、ひらめきの妖精がどっかに行っちゃったのであきらめて片翼だけ載せます…
拍手やコメントありがとうございます!もうちょっとチャージしたらお礼させてくださいませ~
後悔先に立たずという言葉がある。
珍しくもない慣用句だが、現実に起こるときはそれこそ血の気が引くような事態も珍しくない。
今はまさにそれだな。奇妙に現実感なくそう思う。
(服をどこで脱いだんだっけか)
ベッド周りに落ちていたのは一番下に着ていたアンダーだけだ。薄らぼんやりした記憶を辿りつつ廊下を歩くが、靴下一つも見つからないままキッチンまでたどり着いてしまった。
ふうと息をつき、探索(というほどのものでもない)を中断する。どうせなのでコーヒーでも飲もうとカウンター周辺を見回した。正直言ってもうここに至ってから焦っても仕方がない。インスタントで十分なのだがそれらしい瓶はなく、豆しか見当たらないので、あきらめてコーヒーメーカーに手を伸ばした。
(やっちまった)
湯が沸騰し、コーヒーが落ちる音を聞きながら悔いても仕方がない昨日の夜を悔いる。疲れていただの酔っていただの言い訳はいくらでも出てくるが、要は自分が揺らいだのだ。
一度呪いが解けた後も、サムはしばしば唐突にディーンと自分が夫婦だと思いこむ、厄介な呪いの症状をぶり返していた。最初の呪いを解くために、ディーンはそれこそ身体だろうが何だろうがサムの思い込みが満足するように、後先考えずに与えていた、その最中で「夫」としてのサムの記憶は途切れている。
だから再発したサムがあの時と同じように性懲りもなく手を伸ばすのはある意味仕方がない。だけどいつ正気に返るかが全く読めないのだから、ディーンがきっちりと跳ねのけなければならないのだ。
いつも。いつまでも。
(それをしくじった)
久しぶりに本能と欲望のままに突っ走った余韻は、痛みと共に濃厚に身体に残っている。ぼんやりと淹れたコーヒーは豆が多すぎたか、いささか苦かった。一口飲んで少し逡巡した後、思いきるようにカップに6分目ほど注ぐ。特に何も考えないままディーンは両手にマグを抱えた格好で書斎へ移動することにした。
サムは正気に戻っているか否か。それによって随分と今後は違う。最悪なのがディーンより前に目を覚ましたサムが正気に返り、さらに昨夜何があったかに気付いてしまった場合だ。
弟の心を守ることに集中しろ。
手に持ったカップの中で、波打ちそうになるコーヒーの水面に神経の半分を向けながら廊下の続きを歩いた。
広くとられた書斎を覗くと、サムは朝っぱらから小難しい顔をして分厚い本を広げて何やら調べているようだった。しかめられた眉に、嫌な予感がこみ上げる。
「よう」
逃げ出したい様な気持ちを押さえつけて、軽く声をかける。と、サムが振り返り、ディーンを見て柔らかく笑った。
「おはよう」
そして本に栞を挟んで閉じると、ディーンの方に近づいてきた。
「良く寝た?」
腕をそっと回すと緩く引き寄せて頬に唇で軽く触れる。最初の2秒くらいで分かっちゃいたが、どこからどう見ても「夫」のままだった。最悪の事態は免れたことにほっとする。
「ああ」
実際のところ寝たような寝てないような良く分からない状態だったが、適当に答える。自分の返事なんかもはや何がどうでも良かった。なんだか猛烈に気が抜けて、座り込みたくなる。あいにく椅子は近くになかったが、代わりにぶっといサムの腕があり、一瞬ふらついたディーンを、やたらとがっちり支えた。元カレッジボーイのくせにやたらと無駄に育ったもんだ、とディーンは頭の片隅で思う。
そう、体格には恵まれているディーンを、昨夜も軽々と扱うほどに。
身体は馬鹿力の「夫」が支えているので、ディーンはもっぱら手に持ったカップのコーヒーがこぼれないかに神経を集中することにした。あまりになみなみと注いだままだと危険なので、もう一口飲んで量を減らす。
「あのさ。ディーンは朝にこういう話は嫌かもしれないけど、昨日の夜、嬉しかったよ」
サムがそっと言うのにあえて答えずに黙ってコーヒーをもう一口飲む。さっきより冷めてきて飲みやすかった。
「ディーン」
「ん?」
「怒ってる?」
「なにが」
やっぱり苦い。基本的にブラックが好きだがここまで苦いとミルクを入れてくれば良かった。
「止めなかったから」
「いや別に」
お前が止まらないのはいつものことだ。お前からしたら止めなきゃいけない理由の方がないんだから。止め損ねたのは自分が悪い。
どうも困った顔をしているらしいサムを目の端に捕えつつ、窓の外を見る。雨は止むどころか結構強い降りらしい。せっかくの休日だが、家に籠っているしかなさそうだ。もとより休日といっても狩りの最中でなく、次の予定が立っていないだけのことではあるが。
「ディーン」
「何だよ」
声が尖るのが分かる。何も知らない弟なら、体の痛みも昨夜の文句もなかったことにするのだが、「夫」のままなら話は別だ。コーヒーを飲み干して振り向くと、サムの額にぐりぐりと空になったカップを押し付ける。
「わ、なに?」
「前から言おうと思ってたんだけどな。お前しつこい、最悪」
いつもそうだ。昨夜だけじゃなく、療養と称して二人で小さな家に籠って過ごしていたころも。優しいといえば聞こえがいいが、ディーンとは全く違ったベッドでの振舞いをする。いくら違ったところで構いやしないのだが、相手が自分なのだから言う権利はあるはずだ。大体何が「嬉しかった」だ。焦らして、泣かせて、請わせて、あやして、奥の奥まで掻き回した。ぐちゃぐちゃのボロボロにしておいて、起きたらいなくて、澄ました顔で書斎でお勉強ってなどういう了見だ。
「ああいうやり方されるのは好きじゃねえ」
細かく言うと自分のダメージが甚大なので、とりあえず文句を込めてカップを持っていない手で生意気な鼻をねじる。
「あたたたたた!痛いよディーン、痛いってば」
「そーかいてーかよ」
ついでに足も踏む。スパイクではなくてスリッパなのが残念だ。常識で考えればサムは距離をとって接近攻撃から逃げればいいのだが、やはりどこかおかしいらしく、さっきから大人しくねじられ、踏まれたままでディーンの腰に回した手は防御のためには解かれないし、動かない。それどころか何が可笑しいのか妙に顔を赤らめて抱き寄せてくる。
「…なんだよ。気持ちわりいぞ」
「僕は、昨日みたいなディーンは好きだよ」
「は、大人しくひっくり返されてあんあんいうのがタイプか」
口を歪めて吐き捨てると、サムがまた困ったような顔をする。
「…ええと、全然そんなことしなかったけどディーンは」
「…………そーかよ」
どうも夫婦間の基準が大きく異なるらしいことがここで確認された。しかしあまり細かくお互いが何を指して言っているのか検討したくはないので、これ以上は触れないことにする。
「とにかくもう止めろって言ったらやめろよ」
「うん、ごめん」
「お前、謝るけど全然止めないよな」
「それもごめん」
「結局止める気ねえんじゃねえか」
頭を叩くと、その手を取って掌に口づけられる。
「だからやめろっての」
ぎゃあ、と叫ぶとサムが
「だってああいうときって何にも考えられなくなってるからさ」
「開き直りかよ」
うんざりしたように言いつつも、ディーンはいたたまれない昨夜への文句を、当人にぶつけたことである程度気が済んだ。前は言えなかった。言ってやろうと思ったちょうどその時に、サムは正気に返って「夫」は消えていたからだ。
「おい、放せ」
言うだけ言ったので、ディーンはサムの鼻から手を離すと、サムにも放せと手の甲を叩いて促す。だがサムは動かない。
「おい、サム」
「ディーン。まだあるでしょ」
見上げると、ふざけているのかと思われたサムは、意外に真剣な顔をしている。
「何がだよ」
「僕に言いたいこと」
「別に」
「いつも我慢してること」
そう言われて思い浮かぶことは確かにある。だがそれは止められなかった昨日以上に言ってはならないことだ。多分。
「言って。ディーン」
だけど言わない限りは、サムは自分を離さないのかもしれない。だからディーンはそれを言い訳に、これまで言ったことがない言葉を口にする。
「今日、一日だけは、いなくなるな。ここにいろよ」
せめてこの身体の痛みが薄れるまででいいから。
意味が分からなくて戸惑っても不思議はないはずのサムは、だが何も言わずにディーンを酷く強く抱きしめた。
夫寄りにしてみて、何もあとさき考えず終わる