トムは困っていた。
とにかくクレイと一緒にいたい彼は、自分を好きだと言うクレイを自室(といっても同じ家の隣の部屋だ)に誘うことについに成功した。
が、ここではたと困ったことに気がついた。
確かに逃亡生活の中で、男達から色々と誘われたり、代償として要求されたり、いきなり力ずくでどこぞへ引っ張り込まれたりということは時々あった。
(なので、自分の容姿がその手の趣味の男に、それなりにモテるものだという確信は持っている)
だが、肝心要の時にはハリーが前面に出ていたため、一体全体どうやってコトを進めていいのか、いざその場になってみると皆目見当がつかない。
(うわ、どうしよう。身体で払うとか、さんざん言って来たから絶対にそれなりのモノを期待させてるぞ・・・・!)
よく考えれば、今まではトムが何にもしないでいるところにやる気満々の相手がのしかかって来たわけだから、トムが誘いをかけた今回とはえらく違う。
思い出すと結構な回数、男に接近されていたので、てっきり慣れたような気がしていたが、自分が何をしたらいいのかちゃんと意識したことがない上に、接近した後、肝心な間のことを覚えていない。
まずい。誘った側の責任が果たせない・・!
トムは青くなった。
かつての恋人を始めとして、女性との夜に関しては過不足なく記憶があるが、クレイはきっとそっちの記憶は用無しと言いそうな気がする。
オロオロしながらとりあえずシャワーは浴びた。
バスローブなんてものはないので、色気はないがいつも通りシャツと短パンをはいておく。
そうだ、ネットで男同士のやり方を調べればいいんだ。
気づいたトムがPCを置いてあるリビングに急いで行こうとしたその時、
ドアがノックされた。
万事休す・・・・!
心臓がドキドキしだした。
ドアを開けると、同じようにシャワーを済ませたらしいクレイが、簡単な(すぐ脱げそうな)服で立っていた。
「やあ・・・入ってもいい?」
「当たり前だろ、・・どうぞ」
クレイを中に通し、観念して扉を閉める。
その後、実は誘いはしたものの、十分な経験値がないことをこわごわと白状したトムは、なぜか狂喜乱舞したクレイにもみくちゃにされることになった。
おしまい
さっきのがクレイ視点だったので、今度はややトム視点。
いいの。クレトムはほのぼので。