「なんなんだよ!」
サムは思わず苛立った声を上げた。
「何がだよ」
顔をしかめるディーンは、一見いつもと何も変わらない。だが、ほんの数秒前までその顔はサムのほんの数センチ前にあった。ひどく穏やかで、どこか甘い気配までさせながら。
だが、サムがそれを認識するかしないか、それこそほんの瞬きをする間にディーンはハッとしたように表情を変えて一歩下がったのだ。いつもの兄弟の距離に。
近い近いと会う人ごとに言われる自分達だが、こうしてみると酷く遠いじゃないかとサムは思う。
「ディーン」
「あ?」
革ジャケットのポケットに両手をつっこみ、めんどくさそうな声を出す兄が、実は神経を研ぎ澄ませているのが背中から何となくわかる。
もどかしい。何かがひどく。
「さっき、何の話をしてたんだっけ?」
「はあ?昼メシの店が激マズだったことくらいじゃねえのか」
確かにそれも話したが、その後に何かが続いていたはずだ。あまりにひどかったし、ディーンが口直しだとコーラをラッパ飲みするくらいだからおかしくなって…
「…どこかに行こうとか、作ろうとかそんな話してなかった?」
呟くと兄の背が見事に固くなった。
「あれ…?」
いつだったか一緒に囲んだテーブルがあった。普段使うようなダイナーじゃない。白いクロスのかかったテーブル、記念日には花火を刺したケーキが運ばれて、スタッフが歌を歌ってくれる。
向かいの席に座ったディーンは、周囲を見回して酷く恥ずかしがっていた。
あれはいつ。
「おいおい、またお前の好きな菜っ葉だらけの店は御免だぞ。行くなら一人で行けよ」
記憶を辿るのを邪魔するように、ディーンの声が響く。
不意に脳裏にひらめく。ディーンにはサムが思い出せない何かが分かっているのだ。
そして思い出すのを邪魔しようとしている。
「ふざけるなよ!」
サムを置いて車に向かおうとしたディーンの胸倉を捕まえ、傍の建物に押し付ける。
「おいサミー」
ふざけるな。邪魔するな。大事なことなんだ。酷く大事な。
再び至近距離にある兄の顔は、妙に見開いた瞳が目立つ。相変わらずぎょろりとデカい目だ。そしてその周りにびっしりなまつ毛。見ているうちに、また何かを思い出しそうな気分になる。
至近距離で見る顔。
何か言いかけて開く唇。
そう知ってる。ここしばらくずっとモヤモヤしていた何かがつながりかける。
確信を求めて、サムは腕で囲い込んだその顔に、さらに自分の顔を近づけた。
と。
唐突に文字通り下から冷や水を浴びせられる。
「わ…っ」
「…ふざけんなはこっちのセリフだぞてめえ…」
ギロリと睨みつけるディーンの顔は戦闘モードだ。視線を下げれば予想にたがわず聖水をかけられたらしい。
「…悪魔じゃないよディーン」
「ああそうかよ。じゃあ離せ。まずい飯の後でうざい弟に絡まれてやってらんねーよ」
押し付けていた手を緩めると、ディーンは乱暴にサムを突きのけて車に向かう。
辿りかけた記憶が見事に分断されて散ってしまったサムも、諦めてそれに続いた。
だけど。
自分を押しのけて、ディーンが横を通り過ぎた時。
その身体を逃がさずに抱きしめた感覚を何故だか知っている気がした。
「おい、置いてくぞサミー!」
インパラのエンジン音ではっと気が付く。
消えた感覚を思い出すようにサムは手を何度か握っては開き、そして追うのをあきらめて兄の隣に乗り込んだ。
おわりー
はい、解説します。一発書き過ぎて解説ないと何が何だかかと。ふーふと言いつつ弟モードです。そしていちゃこらしかけたところで正気に返って、焦った兄が距離とったら今度はむらむら気分の残っていたサミが切れた、とこういうことなんですね。さっぱり分かりませんでしたらすみません。ぐちゃぐちゃすぎて海老鯛危うし。ウオゴコロ破れたり。でも僕はおじさまとMOLとロボを楽しみに待っておりますよSiさまKさま~
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