OLP本完売お礼企画
タキザワ師匠のpribate secretaryの設定・・・ですがかなり別物です。すみません!!!
社長・・・兄貴 秘書・・・弟 会社名・・・J・W社 ジョンパパ・・・初代社長(他界)
ノルマ的課題「休日のオフィス」 師匠の本編が始まる1年くらい前って感じです
今日は日曜日だ。
一般の勤め人なら休日だ。天気は快晴、レジャーにでも行くなら最高だろう。
だが、中には事情により休めない勤め人も存在する。
ちなみに今日のJW社では、若き社長であるディーン・ウィンチェスターと、その秘書であり弟でもあるサム・ウィンチェスターが、朝早くから社長室で書類の山と格闘していた。
「くそう、やってられねえぞ」
「口よりも手を動かしてください社長」
二代目である現社長ディーン・ウィンチェスターは、ダークブロンドに長身の恵まれた体格で、黙っていると冷たく作り物にすら見えそうな風貌をしている。彼自身も自分の容姿レベルをはっきりと意識しており、まだ若い部類に入る自分が創始者である父の会社を継ぐ上の武器として良くも悪くも存分に利用していた。
だが今は一応スーツは着ているものの、髪も適当、無精ひげもまばらだ。端正な若手社長のイメージは見る影もない。その上さらにやる気なさをむき出しのだらけた態度なものだから、その姿は休日にも業務に励むエリートというよりは、宿題が終わらない残され坊主とでもいう方がイメージに近かった。
「まだあるのかよ」
不貞腐れたようににらむ先には長身の秘書が澄ました顔で控えている。ディーンよりもさらに体格がいい。辛うじてスーツ着てます、という社長と対照的に、嫌味なほどにきっちりと身だしなみを整えている。
「休日はきっちり休んだ方が効率が上がる、ってお前の持論はどこに行ったんだ」
「原則的には、です。こちらにサインを」
サインをすると書類が素早く引き上げられ、即座に次が来る。
絡むような社長の態度に動じた様子もなく、サインを終えた書類をまた引き上げ、続く動作で結構な厚みのあるファイルを置いた。
「こちらが明日の資料と、社内ワーキンググループからの中間報告です。目を通して基本的な方向だけでも固めていただけますか」
そしてデスクに置いたファイルに手を伸ばすと付箋の貼られたページを開き、ここを読めというように指でトントンとセンテンスを示した。
「・・・お前、なんでそう偉そうな態度なんだよ」
「仕事中ですから」
「秘書だろが!」
「だからです。早く読んでください。資料を作りたい」
「家庭教師の間違いじゃねえのか?」
「偶然ですが私もそんな気分です。早く読みましょうね」
「可愛くねえぞサミー!」
ふざけているようだが二人を取り巻く状況は厳しい。JW社は数ヶ月に創業者であり強力なリーダーだったジョン・ウィンチェスターを失い、急遽息子に代替わりをしたばかりだった。
頭の軽い遊び人と思われていた長男が意外にまともなことを言う二代目社長に収まり、勉強はできるが実践経験のない次男は、緻密でしたたかなマネジメント能力を発揮した。
それでも周囲からの評価は、頼りない若造二人が意外に体裁を保っているな、という程度に留まっており、取引先にせよ社内の各勢力にせよ、隙や失敗を見せれば即座に足元をすくわれかねない状況は続いている。
ジョンの妻であり二人の母親でもあるメアリは実家の近くに転居したため、兄弟はそれぞれのアパートを引き払い、両親の住んでいた生家を守る形になっている。
もちろん二人とも子供時代を過ごした家を手離したくはなかったし、仕事上の利便性もあったが、さらに切実な理由もあった。
経費削減だ。
挨拶回りだのパーティーだのスーツだのなんだの、とにかく出費が増えた。経費で落とせればいいが、そうもいかない類のモノもやたらとある。
なので二人はそれぞれの家賃を浮かすことで懐に余裕を作り、ポケットマネーをつぎ込みながら思い付く限り顔を売り、実績を積み、父亡き後の体制を内外に認知させようとしていた。
そしてさらに、『パーティーや付き合いに出まくっていても、業務は隙無くきっちり』を実践すべく、日曜日を費やしているというわけだ。
どちらが社長になってもよかったのだが、サムは兄が適任だと推し、自分はサポート役が合っていると秘書の立場を選んだ。それ以来やたらと変な方向に生き生きしていて、こうした有能かつ冷徹、といった態度には磨きがかかるばかりだ。
しかめっ面で書類に目を通していたディーンは、しばらくして顔を上げると、
「この感じなら原案のまま進めていいんじゃねえか?コスト的にもいけるだろ」
とサムに確認するように告げた。そしてぽい、とファイルを投げ返し、せいせいした様子で立ち上がろうとする。
「もう少し細部を見ておきませんと、この間のように後で面倒なことになるのでは?」
「コストだろ?だから見たって・・・」
「他もですよ!このまま行くと全く同じパターンじゃないですか」
カリカリした様子の秘書に比べ、社長の方はピンと来た様子が無い。
「この間って、別に何度かあいつ主催のパーティーつきあったり飲みに行ったりしたくらいじゃねえか」
「・・・・またあんなことになってもいいんですか」
「別にどってことないだろが。付き合いだし?」
「手を握られて撫で回されたのをお忘れですか?」
「握ったんじゃねーよ。指輪の模様見せてくれって言われたんだあの時は」
「肩も抱かれてたでしょう」
「ちげーよ、パーティの紙ふぶきが背中についたとか何とか」
「引き止められた挙句に泊まって行けとまで言われてましたよね」
「・・・・あのな。俺はゲストルームに泊まったんだよ。お前迎えに来たんだから見ただろうが」
きょとんとしたままのディーンに対して、次第に秘書らしい態度が崩れてきたサムが苛立った口調で尋ねる。
「聞きたいんだけど、それだけあってもあんた危機感ないの?もしかして『手相見てやる』とか言って手を握る手口知らないとか?」
「ばーか、お前にそーゆーあれこれ教えてやったのは誰だと思ってんだ。でもな、それは女相手の場合・・・・」
「女じゃないのに野郎に手を撫で回されてる事態に気づけよ馬鹿兄貴!」
突然秘書は冷静な殻を破って爆発したが、社長は目の前に出現した巨大な駄々っ子にも動じない。
「お前、考えすぎ」
ポンポンと肩を叩かれてサムは脱力した。思わずデスクに手を突いてがっくりうなだれてしまう。
俺っていい男だし、と普段からしゃあしゃあと公言してはばからないサムの兄は、昔から男にも女にも意識して自分を見せ付けるくせに、絶望的に鈍い。やるだけやって、それが引き出す結果をさっぱり考えていない。
本人としては恐らくパチンコ玉か水鉄砲くらいのつもりらしいが、サムから見たらバズーカ砲か火炎放射器、スタンガンの最高出力に思えることをやったりする。さらに始末が悪いことにはサムから見ると明らかに粉をかけられ、じりじりと接近されているというのに危機感を全く感じていないのだ。兄いわく「俺ゲイじゃねーから」というのだが、度し難く馬鹿だ。いつかそれで痛い目を見るぞと思いつつ、自分の目が有る限りそんなことを許してたまるかとも思う。
一方のディーンもため息をついた。弟はとても頭が良いのにときどきアホになる。男が男とちょっと手が触ったくらいで何だって言うんだ。極端に言えば30越えた男の手を触らせて契約が成り立つなら安いものじゃないか。えらいぞ俺の手ってなもんだ。
しかし言っても仕方がないので、ディーンは別のことを口にする。
「ほれ、明日の準備も終わったし帰ろうぜ」
どうせ弟と馬鹿話をするなら、家でビールでも飲みながらの方がずっといい。
ただでさえ適当に締めているネクタイを緩めながらディーンは部屋を出ようとした。するとサムがその腕を掴む。
「なんだよ・・」
言いかけるうちに身体を壁に押し付けられた。
「おい」
言い終わらないうちに、唇に触れる感触がある。
初めてではない。2回目でもない。
慣れた体温、慣れた匂い。慣れるはずはないのに慣れた行為だ。
ディーンはそれを拒まず、ゆっくりと育ちすぎた弟の首に手を回してやった。
いつからかと聞かれればずっとだ。わけなんか知らないし、知りたくもない。
成就したのだけが驚きだった。
サムが高校を卒業して、離れて暮らすことが決まった時、思いつめたように伸ばされた弟の手を、ディーンは躊躇無く取った。
子供の頃から散々知っているはずの、でもすっかり大きくなった長い指が自分の手を握り締めるのを感じた時、冗談抜きで身体中に電気が走った。あの感覚は今でも覚えている。
それでも一度は離れたのだ。
それぞれの決めた道があり、物理的に離れざるを得なかった。そして2人ともそれなりにいくつかの恋もして、もしかしたらという相手も現れた。それでも何の因果か父が倒れて会社の為に駆け寄り合ったあの時には、互いに誰もいなかった。
だがしかし。
唇が離れて息をついた一拍後、ディーンはぽかりとサムの頭を叩く。
「なにすんの」
「・・・・なんでお前、最近会社でばっかり盛るんだよ。もう帰ろうぜって言ってんだろうが」
休日とはいえ警備員はいる。他にも仕事が終わらなかった社員が来る可能性だってある。どうせ帰る家はいっしょなのだ。露出趣味でもない限り、ここで焦る必要は全く無い。
ディーンの珍しくもっともな抗議に、サムはちょっと眉をさげて情け無さそうな顔をした。
「・・だってさ。家だと落ち着かなくない?」
「はあ?」
何を言ってんだこいつは。普通逆だろう。ディーンの顔が露骨にそれを語る。
「だって、父さんと母さんが居た時の家具とかそのまま動かしてないし」
「めんどくせえじゃん」
ちなみに、息子達が独立した後、両親は遠慮なく部屋の内装を変えまくっていた。兄弟が使っていた部屋もすっかり両親の趣味の部屋になっていたので居室としては使えていない。
なので寝室は両親の部屋と、客間があるだけだ。(ちなみに父の生前、兄弟が同時に帰省すると一人はエアマットか寝袋を渡されていた)
サムが寝ている両親の部屋には父の気配が濃厚だし、両親のベッドでというのはさすがに抵抗がある。かといって兄の使っている客間にはこともあろうに壁一面に父の写真がベタベタ貼ってあるのだ。
ブラコンでファザコンであることにかけては、全米チャンピオンを目指せそうな兄であるので今更止める気力はないが(父親の等身大立て看板や蝋人形を家の中に置きたがらないだけましだ)、うつぶせになればソフトボール大会でホームランを打ったときの満面の笑顔の父の顔が見え、仰向けになれば天井に貼られた会社パンフレットのどアップ写真と視線が合う。そして横に転がれば、サムとディーンがまだ小さい頃、家族で取った集合写真が目に入るのだ。
はっきりいってやりづらい。
切迫財政の今、ベッドを買い換えたりリフォームをするような気分的余裕には二人にない。かといって家があるのにホテル代を払うのも不経済だ。
つまり全ては金欠が悪い。
しかしながら重圧と緊張の続く毎日、やはり相手に触れたい衝動はある。皮肉なもので、社長室については代替わりを周囲に分かりやすく示すために、まっさきに模様替えが行われていた。なのでサムにしてみれば今、この社長室が一番2人の場所という感じがするのだ。
「単に電気消せばいいことだろうが」
滔々と語るサムの弁論を、兄はそっけなく切り捨てた。
「僕は夜目が効くから見えるんだってば」
「じゃあ目をつぶってればいいだろ」
「でもディーンの顔は見たいし」
「じゃあよそ見しないで俺を見てりゃいいだろ。集中しろよ」
「・・・・・・」
この馬鹿兄貴はたまには自分の言動のもたらす被害を思い知ればいいと思う。
サムの中でブチ、と音がして何かが切れた。
社長室のソファーは、仮眠もできるようにソファーベッドなのだ。
そして大学で習った柔道の成績はAプラス。
サムは長い指で兄の腕をがっしと掴んだ。
・・・・・・・・・・
「まったく信じらんねえよ!!!あそこで最後までまじでやるか??馬鹿かよお前」
助手席でディーンは怒り狂っている。
サムはハンドルを握りながら肩をすくめた。社長室模様替えの折、とっさにそれも意識して調度を選んだと言ったらさすがの兄も引くだろうか。見込みどおり大の男2人の体重を受けても、ソファは無事に明日も使えそうだ。
「おい、そこ右に行け」
自宅への帰り道、不意に横に逸れるように指示される。
「・・・なんで?」
右へ向かう道は繁華街だ。もちろん兄は好きだろうが、仕事と情事の後、繰り出す元気があるようにも見えない。
「晩飯食いに行く」
「今日は何か買って帰ろうよ。後で僕が買いに行ってもいいし」
ちらりと助手席を見やりながら下手に出てみる。助手席のディーンは一頻りサムを罵っていたが今は疲れた顔でぼんやりとしており、冗談抜きで早く帰って寝た方がいいように思えた。今日は日曜で、明日から一週間が始まるのだ。
「昨日から開店した菜っ葉が一杯の店があるだろう」
「ああ・・・でも無理だよ。予約で満席だろうし入れても何時になるか」
サムが大学時代に気に入っていたレストランが、この町に支店を出すと聞いたのは2週間ほど前だ。開店二日目なんか、まだまだ混んで入れたものではないだろう。それでも兄が「行きたいね」ともらした自分の言葉を気にかけてくれたことは嬉しい。
「今度ちゃんと予約して来ようよ。ラビオリとかカルパッチョとかも本当に絶品だから」
自然と声が優しくなる。
「だから予約してる」
「え?」
思わずハンドルを握りつつ振り向いてしまった。ディーンはだるそうにしつつニヤニヤ笑っている。
「17時だ。急げよサミー」
「ほんとに?」
「そうだ。お前のおかげで着替えに帰る暇がねえ」
今日はドライブでも行ってからのんびり夜に繰り出すつもりだったのによ。
もう怒ってはいない目でチラリと睨まれ、サムは歯を食いしばって呻き声をかみ殺す。
しまった。あれこれの余韻で、さらに凄いことになっている兄の姿を衆人に晒すはめになるとは。
だが、兄が自分の為に手をかけてくれたことは単純に嬉しかった。
先ほどのように腹に溜まるような熱感とも違う、胸にこみ上げるこそばゆくなるような感触。
「僕が行きたいって言ってたから?」
「おう」
「・・・・どうしよう」
思わず声がこぼれる。
「ん?」
「なんか、さっきの取り消して無茶苦茶優しく抱きたくなってきた」
「あほ。もういらねえっての」
「ははは」
満更嘘でもない睦言を悪態混じりに交わす。
兄で上司で恋人で友人で庇護者で。
こんなに何もかもこの人でいいんだろうか。
ハンドルを切りつつチラリと自嘲する。それでも他の手は欲しくないんだから仕方が無い。
そして週明け、来客がにこやかに社長室のソファーで微笑むのを見て、二代目社長はかなりいたたまれない思いをし、長身の秘書は感情を見せずに微笑んでいたそうな。
恐ろしいことに代替わりの混沌期が過ぎても兄弟の関係はやはり変わらず、ソファーはその後もディーンの任期中延々と社長室に鎮座し、存分に活用されたのだった。
めでたしめでたし
・・・すみません。書き直せば書き直すほどタキザワ師匠のご兄弟様と違う物体に・・・・
ストレートに愛し合う兄弟に照れて、つい隠れ貧乏にしてしまいました・・・(へたれ)
でも楽しかった!!
……と、書いていましたが、今アップのために見返しても全くもっておんなじ感想だわ…