えー、もう昨日のあれがあれですので、サクサクと次の更新です。
今日ちょうどイルミネーション見てきれいだったので、早目ですがクリスマスシーズンの同居する兄弟。
「クリスマスってどうする?」
珍しく同時に朝食を取りながら、サムが唐突にそう切り出した時、ディーンは本気で何を言われているのかわからないようだった。
「どうって」
「何か予定ある?…狩りとか」
「いや。今んとこ無いな」
それなら何を言えばいいのかわかる、というようにディーンは答える。
「そっか」
サムは頷く。最近ディーンはますます狩りの頻度を減らしていて、普通の仕事をしている日がほとんどだ。手当たり次第に魔物を探していた昔とも違えば、依頼を受けて動いているわけでもない、何かディーンなりの基準があるらしい。
「何もないなら家で過ごさない?」
「なんだそりゃ」
「何か適当に買ってくるからさ」
ここ数年のサムのクリスマスといえば、仕事をしているか独身者パーティに顔を出すかくらいだ。
「別に、家にいるのは構わんが、何もしなくていいんじゃないか?」
怪訝そうに言う兄の態度はもっともだ。もっともなのだが、サムは何となくその気になっているのだ。
「さすがに一人暮らしでツリー飾ろうとかは思わないけど、兄貴も一緒に住むようになったしさ、家族でクリスマスを過ごそうよ」
どうでもいいけど、という人間と、ぜひぜひ何かをやりたい、という人間がいた場合、何かやりたい側がコストを負担するつもりがあれば、天秤はそちらにぐぐぐと傾くのは自明の理だ。
そんなわけでクリスマス休暇まであと10日ほどになった週末、ディーンは大量の電飾を手に、リビングで仁王立ちで考え込むことになった。
(どうすっかなあ)
母が黄色い目の悪魔に殺されて以来、ウィンチェスター家がクリスマスの電飾を飾ったことはない。職場の同僚に教えられた店で一通り買い込んではみたものの、ただ飾るために飾る、というのはディーンには意外に未知の領域だった。
業者が運び込んだツリーに電飾とオーナメントを適当につける。店員に勧められるまま買い込んだトナカイ型のライトは改めて見ると結構な大きさで、ツリーに引っ掛けるのはバランスが悪そうだった。
(子供の頃のサムなら喜びそうだな)
そう思うと何だかおかしくなってきてディーンは壁にトナカイをかけつつクスリと笑う。
そういえばサムはこういうピカピカ光るものが好きだった。多くの子供がそうであろうし別段珍しいことでもないのだろうが、クリスマスの時期に町に飾ってあるツリーの電飾に見とれ、なかなか帰りたがらないことが何回もあった。
(良かったなサミー。稼ぐようになったから星もトナカイも自分で買える)
「何笑ってんの」
唐突に頭の後ろで声がして、ディーンは飛び上がりそうになる。
「いきなり後ろに立つな」
振り返って抗議するが、土曜日の休日出勤を珍しく早く切り上げてきたらしい弁護士先生は、飾り付け係の兄の抗議をきれいにスルーしてくれた。
「来たね、ツリー」
「おお」
これが恋人同士とか新婚夫婦であったなら「綺麗に飾り付けができたね」とか言うところであろうし、逆に不仲な夫婦ででもあったなら「なんだこの適当な飾り方は」と文句の一つも出るところだろう。
だが何分二人はどちらも武骨に育った兄弟であったので、ねぎらいもない代わりに文句もなかった。逆にあったら気持ちが悪いだろう。サムが次に言った言葉は、
「もっと買ってきてもよかったのに」
だった。
「どこに飾るんだよ」
はっきり言ってディーンは、ツリーに引っ掛ける以外の電飾の使い方など見当もつかない。サムは頷いて、
「ソファの方が空いてるから、青いライトを飾りたい」
と妙にきっぱり言いきった。
「青いちかちかする奴。明日買ってくるよ」
「いいんじゃないか」
答えながらディーンは自然と口元が緩むのを感じていた。トナカイに目を輝かす子供ではもうないが、自分よりもでかくなった弟はクリスマスの飾り付けをしたくて仕事を早く終えて帰っている。
良かったなサミー。青でも赤でも、いくらでも好きに買えばいい。
「ターキーとパイは注文してきたんだ」
上着を脱ぎながらサムが早口で言う。
「シャンパンとエッグノックも、と思ったけど、考えてみたら日持ちがするものは先に買っておけばいいしね」
話しながらシャツとネクタイも外し、そこまで脱いでから自室ではないのに気が付いたようで、服を抱えて自分の部屋に引っ込む。
「なあ」
ディーンはまた笑いの発作に軽く襲われそうになりながら声を上げる。
「なに?」
扉の向こうからサムが答える。やっぱり自分も少しばかり浮かれているのかもしれない。サムが出てくるのを待たずに、扉越しに大声で話をするなんて普段ならない。
「ターキーの注文ってどこでしたんだ?」
「え?」
怪訝そうな顔のサムが扉の間から顔を出す。
「うちのオフィスの前のデリだよ。割と美味しいところだから大丈夫」
「そうじゃなくてな」
ディーンは笑いをこらえるのを止め、オーナメントの空き箱を適当にまとめながら続けた。
「そしたらお前、クリスマスの当日にオフィスの真ん前まで行くわけだ」
「う」
サムがはっとした顔で黙る。
自他ともに認めるワーカーホリックのサムだ。オフィスの前まで行きつつ、仕事に指一本触れないで帰ってくるのは至難の技だろう。
「まあ頑張れよ」
ディーンは言いつつ、サムに一つだけ取っておいた飾りを手渡す。
「なにこれ?」
怪訝そうな弟に兄の気遣いを教えてやった。
「ツリーの上の星。お前なら届くだろ?仕上げをやらせてやるよ」
プラスチックに塗料を塗っただけの飾りだ。そんなことは分かっている。
だがサムは面映ゆそうな顔をしながら腕を伸ばして金色に光る星をツリーのてっぺんに飾り、ディーンは「どう?」と言いたげに振り返る弟に、
(いいんじゃないか?)
の意を込めて重々しくうなずいてやった。
そんなこんなでクリスマス準備中