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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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末期だね(39000HitリクSD夫婦呪)

ムパラ原稿前にキリリクやりまーす、とか言った口はどの口でしょう。
この口です。ちなみに今度のムパラじゃなくって11月のムパラのことです。
39000踏んでくださったreさま、本当に本当にほんとおおおおおおおーーーにお待たせいたしました!リクエストありがとうございました。
なんかぽんと浮かんできたネタが末期で、他の道がないものかうんうん考えていたんですが、結局思いつかず末期のままです。あうあう。
す、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです…





 「じゃあ、買い物してくるね。他に欲しいものある?」
サムが上着を着ながらニコリと笑う。
「別にねーよ」
対するディーンは仏頂面だ。ソファの上に転がって、退屈そうにテレビのリモコンをいじっている。視線も合わせず明らかに不機嫌モード全開なのだが、サムは気にした様子もなく、
「行ってくるね。あったかくしてて」
とかがみこみ、旋毛にひとつキスを落とした。


モーテルのドアが閉まり、鍵を閉める音が響く。インパラのエンジン音が遠ざかるとディーンはほっと息をついた。
ソファから起き上がると窓から外を覗き、サムが本当に出かけたのを確認してからセルフォンを取り出す。電話先は例によって頼りになる熟練ハンターのおじさんだ。


「ボビー?俺だ」
『どうだ様子は』
「全然変わらねえ。外に出るなの一点張りだ」
『そうか…』
「そっちは何かわかったか」
『まだはっきりわからんが、呪いの一種なのは間違いない。刺激しないのが一番だな』
「くっそ…」
苛立ちを隠せないディーンに、ボビーの声の調子が変わる。
『お前は大丈夫なのか?』
「俺は窮屈なだけだがな、サムが心配だ。どんどんいかれ具合が酷くなってる」
言いながら部屋の中をちらりと見まわす。一見変わりなく見えるが、サムがセンサーをあちこちに仕込んでいるのだ。
「この間なんかちょっとばかし窓を開けただけで、出た先からすっ飛んできやがった」
『そりゃどうせお前が隙あらば抜け出そうとしたからだろうよ』
さすがにボビーは鋭い。確かにせっかく窓を開けたらちょっと出てみるくらいしようとは思っていたが。
『とにかくそれ以上刺激するな。あんまりやるとサムが本当にお前から目を離さなくなるぞ』
「うへえ」
想像しただけでうめき声が出た。それは本当に勘弁してほしい。ボビーにこうして連絡を取り、かつ愚痴ることさえ難しくなる。


 ・・・・


泣きっ面に蜂、とか一難去ってまた一難とか言うが、今の状況は何といえばいいのだろう。


相変わらず「夫化」する状態が抜けきらない弟だが、一つの呪いが消えていないのにさらにその上からもう一つ妙なことを思い込んだ。
曰く、『配偶者は妊娠中なので安静が必要』だ。
他人事なら大爆笑なのだが、自分の身に降りかかるとこれっぽっちもおかしくない。


サムがそれを言い出したのは1週間ほど前、狩りの終わった後だ。モーテルで一眠りしたディーンが起きると、もうサムの頭には「それ」が刷り込まれていた。
ソファにディーンを座らせると両手を握り、「落ち着いて聞いてほしいんだけど」と切り出したものだ。
もちろんディーンは最初相手にしなかった。「エイプリルフールまで待て、だが嘘としても出来が悪いぞ」とかなんとか言ったような気もする。


しかしサムはディーンの馬鹿にした態度を気にした様子もなく話を続けた。
「驚くと思うけど本当なんだ」
「普通じゃない状態だから、ちゃんと生まれるまでディーンには身体に負担をかけずに安静に過ごしてほしい」
なんだそりゃ?と怪訝な顔をするディーンに、サムは大真面目に言いきった。
「ディーンはベビーが生まれてくるまで危ないから外に出ないで。ちょうど狩りも終わったとこだし、買い物も全部僕がやるから」


 


最初、なんて気色の悪い冗談だと腹を立てたディーンは、次にサムが本気で確信していると気づいて青くなった。
そして例によって例のごとくバスルームに駆け込んでボビーに連絡したところ、どうやらサムは実に珍しいが呪いの重複状態になったのではないかという結論に達した。そして
『調べてみるからとりあえず合わせて時間を稼いどけ。サムの安全のためだ』
というボビーの言葉もあって、それ以来モーテルの一室でサムの望むままにゴロゴロする生活を続けているわけだ。


  


・・・・・


そんなわけでボビー相手にディーンの愚痴は続いている。
「でもなあ、今度の呪いは妊娠だぜ妊娠。解呪の鍵が思い込みの満足だとしたら今度は無理だ。100年かかったって実現しねえよ」
したくもないが、取りあえず努力云々関係なく不可能だ。
サムがずっとあのままだったらと思うと、不憫すぎるし頭が痛くなる。
『だが取りあえずサムのこだわりはお前に部屋で大人しくして欲しいってこったろう?とにかく調べは進めるから、潜伏してるつもりでじっとしてろ。また連絡する』
「わかった」
お決まりになりつつある説教をくらって電話を切り、ディーンは深いため息をついた。


サムはあれ以来「買い物も全部僕がやるから」という言葉通り甲斐甲斐しくディーンの世話を焼いている。
弟のサービスがいいこと自体は文句はない。だが、
男が妊娠してると思いこんで世話を焼く男。
…だめだ。
考えただけで生理的に拒否感が走る。兄馬鹿ぶりではそうそう他人に負ける気のしないディーンの神経を持ってしても、今度の呪いは痛すぎた。
よくもうちの弟をこんな恥ずかしい頓珍漢な男にしやがって、責任者出てこい、とどこかに向かって叫びたい。
そりゃあ神にも悪魔にも天使にも好かれるような態度で生きてはこなかったが、これはあまりに酷い。実の兄貴と夫婦と思い込むというのも、かなり痛い話だと思っていたのだが、上には上があったのだ。世界は広い。
夫婦の次は出産か。この調子で行くと、そのうち存在しない子供の育児ででも悩みだすんじゃないだろうか。


ぐるぐる悩んでいるところに、インパラのエンジン音が聞こえて来た。
ドアが開いて冷たい空気とともにサムが帰ってくる。
「ただいまディーン。遅くなってごめんね」
「おう」
いや、全然遅くない。早すぎるくらいだ。
思っても口には出さず、ディーンは肩をすくめてサムが荷物をテーブルに置くのを見やった。
「ちゃんと居てくれてよかった」
ぶっきら棒な返事を気にした様子もなく、サムがディーンを抱き寄せる。別段呼吸が荒いわけでもなかったが、何となくサムが猛烈に急いで帰ってきたのであろうことが分かった。
うーむ。あれだけ入り口やら何やらに細工をしていてもまだ心配か。
「出かけねえって言ってるだろ」
うんざりしたように言うがこれはディーンにも責任の一端はある。


ボビーに指摘されたように、サムが外出禁止を言い出した最初の頃「サムの目の前で出かけなければ息抜きしても構わないだろう」と考えていたディーンは、サムが買い物に行った隙にちょっとばかり散歩に出た。すると、ディーンがダイナーで注文をするかしないかのうちにものすごい勢いでサムがダイナーに飛び込んできて、必死の形相で連れ戻されたのだ。あれは店中の注目を集めてなかなかこっぱずかしい事態だった。
しかしながら止められると余計出たくなるのは人情というもので、ディーンは一度では懲りなかった。
その結果サムの心配はどんどん過剰になり、この部屋はいまディーンが見つけただけでもセンサーだらけだ。パソコンにも細工をしたらしく、監視カメラのように部屋の様子を映してしまうので、気が重くて最近はPCを開けない。


 


はーっと安心したように息をつくサムに抱え込まれてもぞりと動く。ヒーターの利いた部屋にいると分からないが、外はだいぶ寒くなって来る季節だ。ちょっと外出しただけでもサムの身体は結構冷えていた。
「ごめん。ディーンが冷えるね」
サムがはっと気が付いたように手を離す。
「そんなやわかよ」
ディーンは本気で呆れた。一週間前には山の中で魔物を一緒に追いかけまわしていたお兄様を何だと思ってるのか。
サムが困ったように眉を下げる。
「いつもディーンならね。今度のことはイレギュラーで普通の状態じゃないから、どれくらい備えれば安全かわからない。ディーンには不自由だろうけどできるだけ大事にしてほしいんだ」
「はー…」
何となく納得した。どんだけ過剰になるんだおかしいんじゃねえかと思っていたが、サムとしても未知な事態ゆえに思いつく限りのことを手当たり次第やろうとしてきていたということだ。
そーか、お前もご懐妊でパニックなわけだな。
納得すると爆弾発言以来サムに感じてきた違和感や拒否感もやややわらぎ、ディーンはポンポンとサムの肩を叩く。
「まあなんだな、正直俺は全然実感ないんだが、そこまで言うならしばらくは大人しくしててやるさ」
サム自身が『イレギュラー』と口にしているのでこのくらいは言っていいだろうと本音に近いことを言う。正直言ってこんなにサムに対して普通に話しかけるのも一週間ぶりな気がした。
サムはずっと穏やかに振舞っていたが、ディーンの嫌悪感は感じていたのだろう、見るからにホッとした様子で口元をほころばせた。


「よかった。分かってくれて嬉しい」
そういえば解かれていなかった腕に力が入ってぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「いや、別に納得はしてねえぞ。お前がうるさいからとりあえず…」
「いいよそれで。ディーンが安全な部屋であったかくして休んでてくれれば十分」
「ふーん…」
何となくさっきから「妊娠」の思い込みは否定しまくっているのだが、サムに反動がくる様子はない。
なるほど、ボビーのアドバイスは当たってる。取りあえず今はディーンが大人しく部屋にこもっているかどうかの方がサムにとっては重要案件らしい。
「そうだ。ずっと部屋で退屈かなと思ったから、DVDいくつか買ってきたけど観る?」
ディーンが大人しくしているのをいいことに髪や額に遊ぶようなキスを落としていたサムが、ふと顔を覗き込んで尋ねてくる。
「DVD?デッキがねえだろ」
ちらりと備え付けのテレビを確認するが、やはりそんな結構な備品はついていない。
「パソコンで再生できるよ。ちょっと画面は小さいけど」
こともなげにサムが言うのでディーンは驚いた。パソコンにドライバがついているのはもちろん知っていたが、
「そんなもん見たらその間2時間も3時間も使えなくなるだろ!」
という弟に烈火のごとくヒステリーを起こされて以来、無いものとして考えてきたのだ。
…本当に、なんでお前「夫」と思い込むだけでそんなに態度が違うんだ。
ディーンの何回目になるかもわからない疑問に答える声は勿論ない。


結局ディーンはその後の一日を、サムが抱えるノートパソコンで映画を見ながらベッドにゴロゴロして過ごすことになった。


 


翌朝。
目を覚ますと、ベッドの上に座り込んだサムの眉間にしわが寄っている。
これはもしや。
「サミー?」
試しに呼びかけてみると、
「サムだ。何回も言わせるなよ」
不機嫌な声が返ってきた。


ハレルヤ!


何をどう満足したのか知らないが、夫が引っ込んで弟モードに戻ったらしい。
(うまくすればこれで一件落着か?)
ディーンは一瞬期待したが、そうは問屋がおろさなかった。サムが酷く眠そうな顔をしながら起き上がると上着を掴み、
「朝食買ってくる…」
とふらふらと外に行こうとするので、
「危ねえなあ。俺が行くから寝てろお前」
と反射的にディーンが口にした途端、血相を変えてキッと振り向いたのだ。
「よせよ!僕が行くから兄貴は出るな」
「何でだよ」
訊き返したのはほぼ反射で他意は無かった。が、その後のサムの顔はすごかった。


「だから、あんたはその、お腹に、いるからダメだ。外に出るなよ」
口を歪めながら何ともかとも言いづらそうに口にするので、思わずディーンはニヤニヤして、
「いるって何がいるんだー?」
と重ねて尋ねる。サムは赤くなって青くなったあと額に血管を浮き出させながら眉を吊り上げ、
「うるさいな!何度も言っただろ、分かってんだから聞くなよ!」
と怒鳴ってぷんぷんと出かけてしまった。


思わずディーンはゲラゲラと笑ってベッドに転がる。
ああおかしい。夫モードのサムに、「僕とディーンの愛の結晶だよ」とやられた時には誇張なく全身に鳥肌が立ったが、通常営業の弟だと随分感じが違う。
閉じこもって鬱々としていた日々に、弟いじりは恰好の気晴らしだ。
よし、買い物から帰ってきたら「お帰りダーリン」としなだれかかってやろうとディーンは決める。サムがさぞかし嫌がるだろうと想像しただけでまた笑えた。


だがしかし、お兄様のからかいにか、お兄様がご懐妊という強烈な思い込みに神経が持たなかったのか、買い物から帰ってくると『弟』はさっさと引っ込んでしまい、それこそ「ただいまダーリン」の状態で帰ってきた『夫』だったので、待ち構えていたディーンは嫌がるどころか出迎えてもらったと喜ぶ夫モードのサムに痒いセリフを連発されて自分がめり込むはめになった。


 
・・・・・


100年たってもサムが満足することは起こるはずがないと思っていたが、「それ」は意外にさっさとやってきた。
部屋の中で過ごすのにも何となく慣れた日の午後だ。大したニュースもないテレビを見つつ、リモコンをいじっていた時に、ディーンは突然腹の中でごろりと動く存在を感じてぎょっとした。
「うお!?」
思わずその場で前かがみにうずくまると、パソコンを見ていたサムが即座に駆け寄ってディーンを抱き上げ、ベッドの上に運んだ。
「大丈夫だよディーン。順調だ」
「ななななななななんだなんだ何だこりゃあ!?」
手で押さえた下腹には、服の上から見ても明らかに動くものがある。
「大丈夫ディーン。生まれるだけだ」
「ぜんっぜん大丈夫じゃねえよ、説明しろなんだこりゃあ!?」
腹の皮膚の下でグニャグニャと動いているビジュアルが、古いエイリアン映画を連想させる。と、体内のモノは呼応するかのように皮膚を破りそうな勢いで盛り上がった。
「うわ…」
「変なもの想像しちゃだめだディーン。赤ちゃんだと思って。嫌がらないで元気に産んであげるイメージを持てば大丈夫だから」
「無茶言うな何なんだよこれは!!」
ディーンにとって赤ん坊といえば連想するのは小さいサムだ。だがしかしそれは生まれた後の話であって、自分の腹の中でぐにょぐにょ動くこれと結びつけるのは不可能に近い。


「落ち着いて聞いて」
サムはいつぞやのようなフレーズから話しだした。
「ディーンは『種』を植え付けられたんだ」
「種?なんの」
「はっきり名前はついてない。本来形は無いけど、人の体内で2週間から3週間くらい過ごしてから生まれてくる」
「………それって生まれてくるっつーか、腹を破って飛び出してくる奴じゃなかったか…」
何となくうっすらそんなケースの記録を思い出してしまった。数は少ないがやはり被害者の様子がエイリアンに寄生される映画そっくりで印象に残っていたのだ。それが今自分の腹の中に。思わず冷汗が流れる。
「大丈夫。宿主が怖がるとそんな出かたになるけど、元気に産んであげる優しいイメージで送りだすと何ともないんだ」
「………早く言えよそういうことは…」
「言うとディーンは多分嫌がるだろ。ちゃんと育たないと安全に出る確率が下がるんだ。宿主が嫌ったり激しく動いたりすると居心地が悪くなるのか途中で無理に出てきちゃうし」
なるほど、それがあのエイリアン状態か。確かにこんな話を聞いて何日も平和な心境で過ごせるわけもない。
「でも、ディーンはずっと部屋にいてくれたからこの子はすごく順調に育ってるはず。あとは可愛いベビーを、この世に送り出してあげると考えてみて。元気で生まれておいでって思うと、この子も宿主を傷つけない」


いや、無理言っちゃいかんぞサミー。
途中まではなるほどと聞いていたが、最後のフレーズで一気にシャットアウトしたくなる。
なるほど、あのいかれた言動はおかしくなったわけではなく、寄生されたディーンを守るためだったということはわかった。
だがしかし、どこをどーひっくり返しても、だから疑似出産しましょうとかエイリアンもどきをベビーと思えというのは無茶が過ぎる。男一筋で生きてきた頭が想像自体を拒否する。


「…出すだけじゃダメなのか」
圧迫感で動けなくなって呻くと、サムが腹をそっと撫でる。
「生きて体の外に出すイメージが有効なんだ。ベビーのイメージを使ったケースが、一番成功率が高いんだよ」
「…男でも?」
「男でも」
「はは、すげえな」
命をかけて想像力の限界に挑んだどこぞの男に、ディーンは息苦しい中だが妙に感心する。


だがしかし自分は無理だ。というか頭が拒否する。
とはいえエイリアン状態で死にたくはない。
何とも言えない痛みに、ベッドの上で丸くなりながら猛烈に頭を巡らせる。


何かないか。生きて外に出す。生きて外に出す。


「虫は!?」
「え?」
ディーンの大声にサムが驚く。
「昔あったろう、なんか腹ン中に虫がいるとか言われて薬飲んだら何か白くて長いのが…」
まくし立てる言葉を聞きながら、サムが何ともいえない顔をした。
「………寄生虫?」
「それだそれ!あれも腹から出てきて生きてた。あれならイメージできる」
「…赤ん坊のイメージの方が安全だと思うよディーン」
「だめだ、頭が拒否する」


腹の中の異様な感覚は膨れ上がるばかりだ。
外に出す、外に出す、外に出す。
跳ねあがる身体を抑え込むサムにつかまり、ディーンは必死にイメージを繰り返す。


そうだ、学校でだか何かの検査でひっかかって、家族全員で薬を飲まされた。人間の腹の中で養分を取っているという白くて長い虫が生きたまま出てきて、酷くびっくりしたのだ。自分だけでなく普段どんな魔物を見ても慌てない父がディーンと同じくらい驚いていて、何だかおかしいような笑って跳ねたいような気分になったのを思い出す。

しかしあの時は、チェックに引っかかるまで痛くもかゆくもなかった。
こんな腹の中で内臓をぐちゃぐちゃ踏まれるような感覚や、鍛えた腹筋がこれだけ盛り上がる様子から見ると、超巨大に育ってるわけか。
想像した途端にひときわ大きく腹が波打ち、ディーンはぎゃあと叫んでサムにしがみついた。


・・・・・


出産に例えればかなりな難産であったわけだが、結論からすると数時間じたばたした末、なんとか「それ」はディーンの体内から穏便に抜け出して消えた。
最後の方のイメージは、牙の生えた口を持つ寄生虫がベビー服を着ておぎゃあと泣く、というホラーなものになっていたのだが、取りあえずディーンの腹を破って出てくることはなかったので良しとする。


「よかった…」
ディーンがベッドから落ちないよう押さえていたサムが、どっと疲れたようにそのまま突っ伏す。
「あー…」
ディーンは言葉を探した。腹に厄介なものを抱えた当事者は確かに自分だが、自分がパニックを起こして腹を食い破られないようにここ数週間守っていたのはサムだ。
「お前、いつ気が付いたんだ」
ずっしりとのしかかっている身体に潰されながら、ディーンは肩の上にあるサムの髪をぐしゃぐしゃと撫でつつ尋ねる。
「狩りが終わった後にね、ディーンが変な眠り方して起きないから心配になって調べたんだ」
そしてボビーにも相談しつつ、対応を決めたのだという。
「…ボビーもぐるかよ…」
「まあね」
油断のできない親父だ。それにしてもそんな不自然な眠りに落ちていたとはちっとも気がつかなかった。いつの間に種を植え付けられたかも自覚がないのだから当然といえばそうなのだが。
「しかし良かったぜ」
「何が?」
「お前がいかれちまったんじゃなくて」
サムがはは、と小さな声で笑う。
いや、もう一つの呪いは相変わらずなのだが、何だかそちらはだいぶ慣れてしまったというか、とにかく今回のベビー云々のように鳥肌が立ったりはしない。
「かなり無理がある話だったよね」
サムは身体を起こすと、ディーンの髪を撫でる。
「この方法が良いのは自信があったけど、ディーンが僕がおかしくなったみたいに見るから、さすがにきつかった」
「悪かったな」
そこは本当に謝っておこう。特に最初の一週間余り、ものすごくサムを奇異なものを見る目で見ていた自覚はある。
「だから今、無茶苦茶嬉しい」
額をこつんと合わせてサムが呟く。
「ディーンも無事だったし」
それが本当にあまりにも嬉しそうな顔だったので、ディーンはサムが懐くように顔を寄せてくるのを避け損ねた。体内から体を食い破られるかもしれないという感覚は、命のやり取りが珍しくないハンター生活の中でも結構な恐怖で、その緊張を抜け出した後の高ぶりもあった。


頬が触れてしまうと体温が首に移るのは別に不思議なことでもなくて、「大丈夫?」と聞かれながら腹を撫でた手がシャツの下の肌に直接確かめるように触れるのもごく自然な流れに思えた。むしろ触れていない部分がもどかしくなりだした辺で、やっと「やばいぞ」という思考が点滅しだす。
だがしかし、危機を脱した後というのはただでさえ盛り上がりやすいものだ。そしてすでにこの体勢。
目元に触れたキスが頬に移り、唇が重なる。
いかん。これはまずい。
そう思いつつ既に触れる感覚の気持ち良さが思考を上回る。自制心の強い「夫モード」のサムが今日は珍しく歯止めが利かなくなっている。それでもディーンが止めれば多分止まるのだろう。だがどうも今日はディーンの方もおかしい。
まずい。
繰り返すキスが深くなり、互いを探る手の動きも、もはや愛撫以外の何物でもない。
一瞬キスが離れ、視線が絡む。サムがゆっくりと体を起こし、視線を外さないままゆっくりと上着を脱ぎ捨てた。
止めるなら今なのに指一本動かせず、ディーンは黙ってサムの目を見つめる。
まずいのに止めたくない。今抱き合ったら絶対無茶苦茶に気持ちがいい。
サムの手がシャツにかかる。
もういい。
後のことなんか知るか。
いい加減か細くなっていた理性の声を、焼けつくような期待でディーンが放り捨てたまさにその瞬間。


ドンドンドン!!
「おい!!大丈夫なのかお前ら!!」


…モーテルの扉を激しく叩く音と共に、危機感溢れるボビーおじさんの声がした。


 


・・・・・ 


 


ノックの音(ベルも散々鳴らしていたらしいが恐ろしいことに気がつかなかった)で飛び起きた二人だったが、入った瞬間から何か見て取ったらしいボビーは、ディーンに怪我がない様子を一通り見ると、
「邪魔したな」
とさっさと帰ってしまった。
「………」
ソファに座り込んだディーンと、ドア口にもたれてボビーを見送ったサムは、奇しくも同時に息をつく。
「続き、する?」
「しねえ」
振り返ったサムにそっけなく答えると、やっぱりねえ、とサムが残念そうに笑った。


危なかった。今回は本当の本当に危なかった。
はっきり意識もあったのに、うっかりやっちまうところだった。サムがまともだったと思った瞬間に外しちゃいかんタガが色々一気に外れてしまった。本当にこういう時に快楽とかスキンシップに弱い自分をディーンは痛感する。


「じゃあさ、続きはしなくていいけど、もう何日かこの部屋に泊まっていこう?」
ドアを閉めたサムがそう言いながら部屋の中に戻ってきて、ディーンの隣に座った。
「あ?いいけど何でだ?」
ディーンとしてはずっと籠りきりだったのでさっさと外に出たいのが本音ではあるのだが。サムは軽くディーンに凭れるとふわあ、とあくびをする。
「ちょっと寝不足だから睡眠補給してから移動したいなって…」
言いながらずるずると倒れ、ディーンの膝の上に頭を乗せる。
「おい、サミー」
「ディーンに触りたい…」
もぞもぞと姿勢を変えて腹に顔を埋められてしまったディーンは少し慌てて声をかけるが、サムは既に寝息を立てていた。
「おいおい…」
自分の様子を見るためにサムが寝ていなかったのであろうことは見当が付く。気が抜けて熟睡するサムを払いのけることもさすがにできず、ディーンはソファから動けなくなってため息をついた。
手持無沙汰で膝の上の頭を何となく撫でると、サムが気持ちよさそうに息をつく。
そのつんと尖った鼻筋を、うっかり辿りたくなる指を、ディーンは危うく抑え込んだ。
(いかんいかん)
頭を振って手を伸ばし、リモコンを掴んでなんとかテレビを付ける。

静かだった部屋に唐突に響く音楽と笑い声。
膝に感じるサムの寝息と、それに反応するように腹の中に感じる熱をなんとか意識の外に追い出そうとしながら、ディーンは面白くもないショーを睨みつけるように見つめていた。


おしまい



お題をいただいた時にちょうどスラッシュで妊娠ネタを読んだせいか、浮かんできたのがこのネタでした。
せっかく弟、兄でお題をいただいたので、たまにはふーふ以外でネタが無いかなあと思ったのですが、結局ふーふになりました…
メリケンの学校ではギョウチュウ検査はないらしいとか、白くて長いのがメリケンに生息しているか今一つはっきりしないとか色々ございますが見逃してくださいませ。



 

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