何をむきになっているのか自分でもわかりませんが、11月23日はいい兄貴の日です。
ぜいぜい。
なぞのなまものとか呑気なクレトムに拍手やコメントありがとうございますううううう。
お礼を。近日中にお礼をいたしますです。
今日も今日とてほぼ一発書き。
あうあう。でも停滞するよりいいから載せちゃう。
何か淡々の兄弟の性格も変わった気がするけど載せちゃう。
いい兄貴の日にアップすることに意義が(以下昨日と同文)
そして少し固くなったオフラインモードからウォーミングアップしてキリリクにかかりますです。遅くなって申し訳ありません!!
そんな日があるとは知らなかった。
別段公的な記念日というわけでもなし、単なる数字の並びから来た言葉遊びのようなものだ。
昨日は同様に「いい夫婦の日」だったらしく、サムの事務所でも既婚者達は手土産だの早く帰らないとだのと話していた。
だが、今日は23だからにいさんなのだ、という実生活に不要な情報を同僚が教えてくれた他は、だからどうするという話は誰からも出ていなかった。
まあ当然かもしれない。
配偶者よりも男兄弟のいる人間の方が限定されるし、皆いい大人だ。独立した兄弟同士だとクリスマスの実家でくらいしか顔を合わせないのもざらだろう。
「そして今日はエスプレッソの日でもあるし、クランベリーを食べようの日でもある!」
普段は気難しい同僚が、嬉々として並べだすのに(どうやら○○の日マニアだったらしい)適当な相槌を打ちつつ、サムはとりあえずその語呂合わせを頭から退けて仕事に取りかかった。
再びその語呂合わせを思い出したのは帰り際だ。
上着を着ながらふと、ディーンは今日家にいるだろうかと考えた。最近帰宅が遅いので、サムが帰る頃はディーンは自室で寝ていることも多い。
たまに狩りに出れば、今度は逆に何日も不在になる。今日は早く帰れるので、ディーンがいつもの仕事だったらまず寝ていることはないだろう。
セルフォンを取り出しかけて、戻す。
わざわざ在宅確認をすることもないだろう。
帰りに立ち寄ったスーパーで、夕食のほかに普段は飲まない高めのウィスキーと、何となく懐かしくなってチョコバーを一袋買った。
「ただいま」
ドアを開けるが部屋の中は暗い。
兄はどうやら不在だ。考えてみれば今日は週末だから、どこかバーにでも行っているのかもしれない。
(ま、そんなもんだな)
サムはダイニングテーブルに買い物の袋を置いて、一度自室で着替えることにした。ディーンが何日も不在の可能性も考えて、日持ちのするものを選んで良かった。(パイなど買った日にはサムが食べるしかなくなる)
想定内だ。
そう思いつつシャワーを浴び、夕食を温める。
想定内だ想定内。
レンジの中で回るプラスチック皿をじっと見つめた。
夕食が何度目かの追加加熱モードで回りだした頃、サムはやっと気が付いて皿をレンジから救出した。
そして確かに想定内ではあったが自分が結構ディーンの不在に落胆していることを渋々認めた。
勝手な話だ。
自分も兄もそれぞれのペースで生きているのだから、思ったときに相手がいないこともある。
特に今日などは口にも出さず、サムの心の中だけでの思い付きなのだから当然だ。
しつこく加熱しすぎて、やや固くなった夕飯を食べ始める。
と、そこでドアが開いてディーンが帰ってきた。
「お?今日は早えなサミー」
「まあね…仕事だったの?」
どうもお楽しみから帰ってきた雰囲気ではないので確認すると、ディーンは変な唸り声を立てた。辛うじて肯定の言葉が聞き取れたのは長年のヒヤリングの賜物だろう。
「今日のシフトの奴が二人も病欠したから呼び出された」
「ふうん、お疲れ様」
「おお」
心なしかげっそりした顔でディーンは「シャワーしてくる」と部屋に向かう。何時に呼び出されたのか知らないが、いつもの仕事と比べてもディーンの勤務先にしては遅い時間だ。
それにしてもディーンの口から「シフト」なんて言葉が出ると変な感じだ。
「なんだこりゃ」
ディーンがテーブルの上の袋に気が付き、サムは胸がさわさわする満足感を味わう。
「お土産」
「あ?お前どっか出張だったのか?」
「違うけど。何となくね」
袋を覗いたディーンが、酒のラベルに気付いて短い感嘆の声を上げる。
「なんだ、やたらと良い酒買ってきたな」
「ディーンにあげるよ」
サムがそう言うと、ディーンはふと表情を変えた。
「…なんか話でもあるのか?」
「え?」
「飲みながら話すか?」
「え?え?」
どうもイレギュラーな高い土産は、兄にいらん想像をさせたらしい。
言いづらい話の緩衝材と思われるのも、これまた長年の自分の行いの結果だと思うと何とも言えない。
「違うって!えーとほら、ちょっと臨時収入があったから兄貴にもおすそ分けというかさ、語呂合わせで兄の日だったりとかさ」
「ああなるほど。そりゃサンキュー」
言いかけて小さくなった後半の声は兄の耳には届かなかったのかスルーされた。
さすが弁護士さんは景気がいいなあ、などと呟いている。
いや、ハンターとして鍛えられた兄の耳がその音を聞き洩らしたはずはない。だが、どうも有り得ない系の音として無意識にカットされたらしい。
「お前も飲むか?」
先ほどと打って変った楽しげな様子でディーンがボトルをしげしげと眺めながらサムを振り返る。
「うん、これ食べちゃったらね」
サムもあれこれ考えるのはやめてうなずいた。
「あー、腹減ったな。お、チョコバーあるじゃねえか。一つもらっていいか」
「それもディーンに。全部いいよ」
「さすがに全部はいらねえよ。今ひとつでいい」
言いながらさっさと袋を破いて頬張っている。
サムは夕飯代わりにするのは止せよ、と言いかけ口をつぐむ。
ディーンはチョコバーをかじりつつグラスを二つ取り出してきて、封を切った琥珀の酒を注ぐ。
「稼ぎのいい弁護士さんに」
「休日出勤の兄貴に」
軽くグラスを掲げる。
とろりと香る酒は、確かに美味かった。
翌日サムは職場で何となくそのことを口にし、同僚に
「兄の日で何かした奴は初めて見た」
と、本気で珍しがられることになる。
それだけです。
脱兎!