睡眠が足りた喜びでもういっちょ。
そして明日の為に寝ます。
書きかけのネタがどんどん形にできるといいなー♪
最近はめっきり弟に干渉してこなくなっていた兄が、帰るなり飛びかかるように腕をつかんできたので、サムは素直にビックリした。
「なに?ディーン」
一日の仕事が終わりかけたところでアクシデントが起こり、正直頭は限界だった。思わずまぬけな返事をしてしまう。
「ちょっと厄介なもんが来そうでな。俺が片付けるからお前は部屋から出るなよ」
ディーンの目はギラギラ光り、いつもの何となく落ちつかなげな様子とは激変だ。皮を一枚脱ぎ捨てたように、精気に満ちている。
狩か。
兄と住むのを決めた時点で、多少ならず覚悟していた事態ではある。家財保険も様々な資料のバックアップも打てる手は打っていた。
「何かついてきたの?」
ディーンが気に病まないように軽く訊く。だが、ディーンはそれには首を振った。そうする間にもサムを自室に引っ張っていき、中に押し込む。
「いいか。ドアを閉めたらそこに塩の袋を置いてるからラインを引け。それから俺が開けるまで何を聞いても出るんじゃないぞ」
まるで一般人に対するような注意をされる。
「一人じゃ危ないんじゃない。手伝う?」
そう口走ったのは昔の習性が少しばかり疼いたからだ。
ディーンは窓を守れ。
サムは弾を詰めろ。
狩はウィンチェスター家のファミリービジネス。学校に通いだしたばかりの子供にも役割が振られた。
が。
「とにかく出てくるな。自分を守っててくれんのが一番助かる」
ニヤリと笑ってディーンは扉を閉めてしまう。
「ディーン!?」
「昔とった杵柄で半端に出てこられんのが一番危ねえんだ!早くラインを引け!」
そしてそれきりドアから離れて返事をしなくなってしまった。『ドアを閉めて出てくるな』は6歳児レベルの役割だ。手間をかけないのが一番助かる、と。サムは舌打ちして床に置いてあるずっしりした袋を持ち上げ、ドアの敷居に沿って塩でラインをひく。
窓を見るとそこには既に塩が撒いてあり、床に置いてある聖水らしいボトルと銀のナイフと同様、ディーンがサムが帰るのを待って備えていたのが分かった。
(腹が減ったな)
することが無くなり少しばかり日常的な思考が浮かんでくる。あくびも出てきた。
だが、不意に電灯が古くもないのに点滅を始め、サムは体中の毛が今更ながら総毛立つのを感じた。
「ディーン!」
「分かってる。出てくるなよ」
呼びかけると扉の外に居たらしい兄は律儀に応えてくれ、だがその後は忙しくなったらしく音と振動ばかりが響いてくる。
ものが割れる音。
壁にぶつかったらしいディーンの罵声。
と、突然ドアのすぐ近くから焦ったような声がする。
「おい、サム手を貸してくれ!」
ドンドンドン、と扉を叩く音。
ああ、どうやら声を真似る魔物らしいな。
サムは振動で少し乱れたドア前の塩のラインを引き直す。
「サミー、開けてくれ、助けてくれ!やばいんだ!」
扉の向こうで切羽詰まった声。
「…うちの兄貴はそういうことは言わない」
サムはぽつりと呟くと、部屋の中を見回した。
「サミー!!」
扉の声を聞き流しながら、窓の塩ラインもいつの間にか崩れかけているので補強する。
「サミー、俺を見殺しにするのか」
バンバンと扉を叩きながら恨めしそうな声がする。
そう、自分は兄と父をこういう場に置いて見殺しにした。
つついて動揺させたいなら今更だ。
さっきディーンは言った。
「半端に出てこられるのが一番危ない」
と。
狩を続けて来た兄の眼は確かだ。今のサムの実力はその程度だろう。
戦力にはならない。代わりに足手まといにもならない。せめて。
「兄貴なら自分で入れるはずだろ」
開けなよ、と言いかけた口を危うくつぐむ。招き入れる言葉がネックの場合もあるのだった。
ガチャガチャとドアノブを動かす音。その後ろから
「黙れこのくそ野郎!」
とディーンの声が重なり、断末魔の叫び声が続いた。
「いやー、お前がしっかり部屋にいてくれたから助かったぜ」
ボロボロのリビングでビールを開けながらディーンが笑う。
「僕は両隣がバカンスで留守だったのが嬉しいよ」
ディーンの頬に応急措置の絆創膏を貼りながらサムがぼやくとディーンはまたへらりと笑った。
「久々で怖かっただろサミー?」
「子供の頃を思い出したよ」
肩をすくめるとディーンが少し眉を上げる。
「ま、もうこれで終わりとは思うから心配すんなよ」
「そうなの?」
「ああ。すんげえ小物だったし」
「ふうん。僕はこの先何か気を付けた方がいいことある?」
「いや、もう片付けたから心配ない」
「そう」
サムは頷く。
推測だが、さっきの魔物は自分を狙っていたらしいとサムは思っていた。ディーンをしばらく口のきけない状態にした中での、あの声。
だけど聞かない。ディーンが詳しく言わないなら追求しないと決めた。
「腹減ったなあ…」
ディーンが呻く。
「ディーンも夕飯食べてないの?」
「んな暇あるかよ」
聞いたサムはちょっと笑う。
「じゃあさ、この部屋片づけてもらってる間に、ちょっと食事に出ようよ。おごるから」
「あ?」
「ちょっと行ったところに美味しいチャイニーズがあるんだ」
「片づけてもらうってなんだよ」
「そういう商売があるんだよ。夜でも電話一本、便利だろ?」
「まずくねえか?弁護士さんが」
「兄弟げんかは別に違法じゃないよ」
「派手な喧嘩だなそりゃ」
呆れた声で言いつつ、だが片付けは確かにめんどくさいのか、ディーンはリビングを見回すと乗り気になったようで立ち上がる。
「ディーン、血がついてるからシャワーは浴びて着替えてよ」
サムの声に
「しっかりした弟で嬉しいよ…」
ぼやきながらディーンはサムの肩を小突く。
「模範的市民だからね」
サムはすました顔でうなずいた。
堅苦しくない深夜営業のレストランで、今日は好きなだけ兄に食べさせよう。年代物の老酒を頼んでもいい。
「一緒に住んでてよかった」
軽く上着を羽織って歩きながらサムは呟く。
すぐ無事が確認できるからと言っても、自分を追ってきた魔物を祓ってくれたからと言っても、どちらも見事なまでに自分本位だ。それだけでないもやもやしたものは、漠然として言葉にならない。だからいっそ結論だけしか言わない。
「へえ」
ディーンもサムの発言を追及はせず、隣を歩く。だがちらりと笑った目尻に笑いジワが寄った。
矛盾もエゴも無理もある。多分互いに。
だけど自分勝手を極めた後の結論部分は重なっているのだ、少なくとも今は。
できるだけ長く重なり続けるといい。
そう思いながらサムは、店の扉を開けた。
おしまーい
お兄ちゃんの久々の狩りで家が揺れてたいへーん。
ハンゴにされたサミーは素人扱い!
・・という軽いネタだったんですがちょっと変わった・・・